標結(しめゆ)ひし心 | 雪太郎の「万葉集」

雪太郎の「万葉集」

私なりの「万葉集」解釈
カレンダー写真は「鴻上 修」氏撮影

 赤駒の越ゆる馬柵(うませ)の標結ひし妹が心は疑ひもなし

  巻4 530 聖武天皇

 赤毛の馬が越えようとする柵を「標張る」(しっかり結び付ける)ようにして固い約束を交わしたあなたの心は疑いようもありません

 

 この歌は「聖武天皇」が、天智天皇の子「志貴皇子(しきのみこ)」の娘である「海上女王(うなかみのおおきみ)」に贈った歌です。「結ひし」の「標」は「あかねさす紫野行き標野行き・・」の「標」と同じで立ち入りを禁じる「標識」の意味です。「標結ふ」の辞書的な意味は(占有・立入禁止を示すため注連(しめ)縄などを張る)ことです。「馬柵(うませ)」のようにしっかり結ばれている「あなたと私」が現代人にはピンときません。しかし、「万葉集」を読む意味はこんな所にもあると思っています。1、300年前の日本人の考え方を知れるのも楽しみのひとつです。

 聖武天皇の歌は万葉集には11首ありますが、この歌は自作の歌ではなく「擬古の作」といわれ古くから伝承されてきたものを下敷きにしたようです。「場の雰囲気」にふさわしい(「時に当たる」)と考えられて口ずさまれたもののようです。海上女王を自由奔放な赤駒にたとえて戯れに詠んだという説もあります。

 万葉集には、作者不詳の似たような歌があります。「大海(おほうみ)の底を深めて結びてし妹が心は疑ひもなし」(巻12 3028)(心の底へ底へと深めてしっかりと結び合ったあなたの心は疑いようもありません)

「東大寺」を創建されたのが聖武天皇です。崩御された忌日である「5月2日」に、式衆僧侶や稚児による練行列の後に遺徳をたたえる「聖武天皇慶讃法要」が行われます。この日は普段非公開の「天皇殿」を屋外からですが参拝できます。