私が韓国生活をはじめた1999年のちょうど前年に、韓国で日本文化が解禁されました。
そのせいもあり、日本の映画が上映される機会が増えたのですが、中でも群を抜いて人気だったのが、映画『Love Letter』(岩井俊二監督、中山美穂主演)です。
映画内のセリフ「お元気ですか~?」も異常なほど大流行。
私が日本人とわかったとたん、相手の韓国人が「お元気ですか~?」と返してきた・・・という経験を何度したことか分かりません。
それだけではありません。
私が日本人だとわかると「おっ、『Love Letter』のナカヤマミホに似てますね」と言ってきたりします。
ご存じのように、『Love Letter』主演の中山美穂は目がキリリとした顔立ちです。一方、私は、目じりがたれ気味なので、「みぽりん」を連想させる要素はゼロです。
あえていうなら、黒髪ぐらい。
当時の韓国人の頭の中では、日本人と、映画『Love Letter』と、「お元気ですか?」と、中山美穂とがすべてがいっしょになっていたのかと思うほどの状況でした。
でも、流行したのが「お元気ですか?」という言葉だったのは、まあよかったのではないかと思うのです。
というのも、私が住んでいた釜山では昔の名残もあってか、日本語がまだ使われていたのですが、どれも、これもパッとしないものばかりでした。
たとえば、
玉ねぎ、爪切り、たらい、
さらには、
親分、縄張り・・・
などなど。
「これがわれらの日本語です!」と胸を張れる単語類ではないのです。
それに比べて、「お元気ですか~?」は、きれいな挨拶ですし。「親分」「縄張り」より美しいと思ったのです。
一方、日本でも、有名というかよく知られた韓国語がいくつかある気がします。
一般的な日本人、つまり、韓国語を学んでいない日本人でも、
안녕하세요.(アンニョンハセヨ; こんにちは)や
감사합니다.(カムサハムニダ;ありがとうございます)
といった挨拶を知っていることが多いです。
中には、
맛있어요(マシッソヨ; おいしいです)や、
괜찮아요(ケンチャナヨ; 大丈夫です)まで知ってる人も。
どれも「親分」「縄張り」と比べるとよっぽどマシです。
話は変わって、日本の会社で仕事をしていた時のこと。
韓国の取引先のちょっと、えらいおじさんがうちの会社に来ました。
うちの会社の、これまたちょっとえらいおじさんと会議をするってので、私が通訳で入ったのですが、日本側のおじさんががいきなり「안녕(アンニョン)」って挨拶したんです。
思わず心の中で「このばかちんが!何タメ口つかってるだ!」って叫びましたね。
そうなんです。
「안녕(アンニョン)」だけだと、とても軽い挨拶になってしまうんです。
ちゃんと「안녕하세요(アンニョンハセヨ)」って言ってこそ、きちんとした挨拶なんです。
アンニョンおじさんは、どこで習ってきたのか知りませんが、そのあとも「괜찮아(ケンチャナ)」と、タメ口を使ってまして・・・・。
思わず、私は、おじさんが「괜찮아(ケンチャナ)」と言ったのに合わせて、頭にパコーンと一発くらわしながら「요(ヨ)」って言ってやりたかったぐらいです。
※注釈:韓国語では語尾に「요(ヨ)」がつくかつかないかで、丁寧な口調かタメ口か変わってきます。
そんな、アンニョンおじさんに私はあきれていたのですが、ふと思ったんです。
少なくとも彼は自分の口であいさつしようとした・・・
って。
通訳を介すのが当たり前と思ってるおじさん、
相手が日本語話して当然と思ってるおじさん、
なんなら、相手の日本語の間違いまで指摘してくるおじさん、
そんなおじさんたちも中にはいます。
でも、アンニョンおじさんは、結果はともあれ、コミュケーションをしようとしました。そのその心意気は素晴らしかったのではないかと思ったんです。
そういう心意気が外国語を勉強するベースには絶対必要なんじゃないかと。
自分の言葉で、自分の口で、ちゃんとコミュニケーションをとろうとする姿勢!
ド失礼なアンニョンおじさんから、そんなことを学んだ一事件でした。