大昔、ちょっとしたトラブルに見舞われたことがある。
110番通報をしたら二人の警察官が来た。
若手っぽい人と、中堅っぽい人。
私が通報したトラブルは二箇所で起きていた。
第一現場と第二現場とがある。
被害状況が込み入っていたので、先に概要をざっと説明してから、一つずつ詳細を伝えることにした。
主に聞き取りをするのは、中堅っぽい警察官だった。
その人に私は言った。
「第一現場ではこうなって、そこから移動したら、今度は第二現場で…」
この辺りで、その警察官に私の話を止められた。
「待って待って、第一現場のことなんだけど、」
こんな感じで、先に大まかに説明にしようとしたら途中で話を遮られる、ということが2、3度続いた。
だから、警察官には警察官の聞き方があるんだなと思って、私は説明の仕方を変えた。
「私が分かりやすいと思う順番」で話すのではダメだ。
「警察官が聞きたいと思う順番」で話さないと。
そのために私は、自分主導で話すのをやめて、「警察官から聞かれたことに答える」、警察官主導で説明することにした。
逆に、警察官からすぐに聞かれないことは、いくらこちらがすぐに伝えたいことでも、聞かれるまでは話さないようにした。
そんなことを意識しながらのやりとりをしていたら、いつの間にかもう二人、別の警察官が到着していた。
中堅っぽい人と、いかにも上司!って感じの人。
さっきから後ろで聴取の様子を見ていたらしい。
最終的に集まった警察官は、
新人ぽい人が1人
中堅っぽい人が2人
上司っぽい人が1人の、計4人。
ちなみに新人か中堅か上司かみたいなことは、見た目年齢と、互いへの敬語の使い方で判断したので、合ってるかはわからない。
でも上司っぽい人は明らかに年齢が上だったので、上司かは分からないけどとにかく一番キャリアがありそうだった。
さて警察官からの質問がある程度終わったところで、中堅っぽい人が私の説明を元に、トラブル内容の総括に入った。
「第一現場でこういうことがあって、そこからこっちへ移動して通報したんですね。」
うんうん、そうそう。
って、あれ?第二現場の話はどこ行った?
私最初に何回か言ったよね、第一現場と第二現場があるって…
途中で遮られはしたけど、たしかに言ったぞ…
と戸惑っていたらすかさず、後ろで聞いていただけの上司っぽい人が、中堅っぽいその人にツッコミを入れてくれた。
「いやいやいや、違うでしょ。
第一現場の後、こっちへ移動して、今度はそこが第二現場になったんだよ。
第二現場でもトラブルが起きたんだよね?第一現場で終わりじゃないよ」
その上司のツッコミに対して、若手1人と中堅2人は「え!?そうなの!?二箇所でトラブル起きてるの!?」と、今初めて聞きましたという顔をした。
そこでやっと私は、第二現場で起きたことを初めて説明する機会を与えられたんだけど、そこからは、中堅の聴取担当の人じゃなくて、後から来た上司っぽい人に向けて説明をした。
私は、自分がトラブルに遭ったことよりも、あんなに長々と1時間近い聴取の中で、「警察官の4人中1人にしか概要が正確に伝わってないこと」の方に驚いてしまった。
「マジか」
どの警察官も、すごく優しい人だった。忙しい中じっくり話を聞いてくれて、私は徐々に落ち着くことができたし、いろんなアドバイスもくれた。
すごく感謝している。
でも、それとは別に、冷静に考えたことがある。
上手に話す人よりも
上手に聞いてくれる人の方を
私は信頼するんだな
ということだ。
あの上司っぽい人だけが、私の言ったことを正確に把握してくれていると分かった瞬間、その人と、他の3人との間で、自分の中に差が生まれた。
3人の警察官も本当にとても良い方だったけど、何かあれば私は多分、この3人じゃなくてあの上司っぽい人のところへ駆け込むなと思った。
それくらい、「正確に聞いてくれている」ことへの信頼は大きかった。
特にこちらが弱っている時は。
いまだにこのことを覚えているのは、これは警察だけの話じゃないなとあの時思ったからだ。
当時私は会社員だったけど、取引先からクレームが来た時、つまり相手が困っている(弱っている)ときもまさにこれと同じ状況だと思ったから。
クレーム対応として、上手に話してそれを丸く収める人はすごい。
でも、「話して収める」よりも、相手のクレームを深いところまで聞いて、ちゃんと自分のものにして、そんなこちらの深い理解が相手にもきちんと伝わる人の方が、その後の信頼は崩れないのかもしれない。
同じ収めるでも「話して収める」よりは、「聞いて収める」方が良いのかもしれないなと、そんなことをあの時ぼやーっと考えていた。
「ふむ…」
警察官の、上司っぽいあの人の「聞く力」みたいなものは凄かった。
私がチラッとこぼした小さな情報を全部逃さず聞いていて、たどたどしい状況説明でも最後見事に組み立てて、こちらへ完成形を見せてくれるという感じの人だった。
いやそうじゃなくて、と言いたくなるところが一度も無かった。
そうです、そうです、その通りです、のオンパレードだった。
私自身、ちゃんと話したつもりでも全然話せて無いんだな、ということはあの時痛感したけれど、同時に聞く側も、全部聞いたつもりでも、実はその人が「聞きたいところ」しか耳に入ってないものなんだなということを感じた。
それが人間の普通なんだと思う。
だから、自分が聞きたいところを聞くんじゃなくて、相手の言うことを「全部丸ごと無条件に聞く」ということを自然としていた、あの上司っぽい警察官は凄い。
長年の経験によって培われたものなんだろうか。
辻褄の合わないことを言ったらあの人にだけはすぐバレるなと思って、私は被害者側なのに、途中からはちょっとドキドキしながら説明をした。
トラブルに見舞われた瞬間のドキドキよりも、状況説明時のドキドキの方を今でもよく覚えている。
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