右頬にできたすり傷。
風が撫でて少しひりりとする。
ふざけあってたわけだし、私も悪かったから別に赤也を責めるつもりはないんだけど、
「女の子の顔に傷なんて作って、お嫁にいけなかったらどうするの?」なんて保健の先生の冗談を間に受けた赤也は、項垂れるように背を小さく丸めている。
そこまで沈まれるとこっちが申し訳ない気持ちになってくる。
「赤也。これくらいすぐ治るし大丈夫だって。」
「そういう問題じゃねーんだよ。」
じゃぁどういう問題なんだ?
夕日を背に受けながらシュンとする赤也の顔を覗きこもうとするけど、プイッと逸らされてしまう。
いつものように笑って欲しくて、しつこく何度も覗きこんでみるけど、やっぱり顔を逸らすばかりで笑いも怒りもしない。
なにをこんなに落ち込んでるんだろう?
痕が残るような大きな怪我でもない。
もしかしたら明日辺りに青痰くらいはできてるかもしれないけど、それだってすぐに治るだろう。
今まで散々人の頭を叩いたり寝顔に落書きしたりしてきてたくせに。
女として扱ってくれたことなんてなかったくせに。
怪我をした途端距離をとるなんて・・・・。
「意気地なし・・・。」
女扱いしてもらえなくても、叩かれたり悪戯されても、赤也なら全部が嬉しかった。
かまってもらえる事が嬉しかった。
なのにそんな風に背中を向けられると・・・・寂しい。
ポツリと溢した私の呟きに、赤也が顔を上げた。
さっきまでのシュンとした顔じゃなく、少し怒りを含んだような目に、今度ははっきりとした口調で「意気地なし」と言ってやった。
いきなり女扱いされて距離を空けられるよりも、口喧嘩してる方がまだマシだ。
「そうだよ。俺は意気地なしだよ。」
「え?」
だけど返ってきた言葉は、私が思っていたような言葉じゃなく、グッと感情を押し殺したような声に心がピクリと震えた。
聞いた事もないような声は、どういう感情が込められているのかわからなくて、探るように赤也の目を覗き込む。
その目を赤也が真っ直ぐと見つめ返しながら、ゆっくりと、だけどはっきりとした声で言葉を投げかけて来た。
「もし俺が今・・・・・お前に『付き合おう』って言ったらどうする?」
「はぁ!?」
「顔に傷つけた責任を感じてそんなこと言ってるって思うだろ?」
「それは・・・・・。」
このタイミングで告白されたら・・・・・確かにそう思うかもしれない。
でもそんなことよりも、このタイミングでなぜその話になったのかの方が気になる。
「なに?先生の言ったことそんなに気にしてるの?別に責任とって結婚しろとか言わないし。」
「それはいいんだよ。」
「は?」
「お前が俺と付き合いたいとか、彼女になりたいとか言うなら、それは全然いいんだよ。」
「ちょ、え・・・・?」「だけどそれが全て怪我させた責任だって思われるのが嫌なんだよ。」
赤也はなにを言ってるんだろう?
それはどう言う意味なんだろう?
私が赤也と付き合いたい。彼女になりたいって言うのは全然いい?
それって告白したらOKしてくれるってこと?
自分の考えに期待が膨らんで鼓動が早くなる。
いやいや。でもそういう意味じゃないのかもしれない。
でもそれ以外にどう解釈すれば・・・?
落ち着け。落ち着け私。
「えっと・・・・。それってどう言う意味・・・?」
「だから!俺から告白しても、お前から告白されて俺がOKしても、『それは怪我をさせた責任なのか?』ってお前が思うのが嫌だって言ってんだよ!」
半ばやけくそに言い放たれた言葉に、顔が沸騰したかのように熱くなる。
私の解釈が間違ってないのなら、赤也は私の事が好き!?
って、その前に!赤也は私の気持ちも知ってるって事!?
うそ。なんで?
自分の気持ちがバレていたという事実に、恥ずかしさが込み上げ思わず可愛くない言葉が飛び出す。
「な、なにそれ!?私が赤也に告白とか・・・・・なに勝手に想像しちゃってんの?」
「なんだよ!お前俺のこと好きだろ?」
「はぁ!?自意識過剰過ぎだし!!」
「俺が話しかけたらいつも嬉しそうな顔してんじゃねーかよ!!」
「それを言うなら赤也こそ!私にかまって欲しくていつもちょっかいかけてくるくせに!!」
「そうだよ!好きだよ!お前のこと・・・・・好きなんだよ。」
恥ずかしそうに顔を赤くして、少し上目遣いで私を見つめる赤也が口にした『好き』が、じわじわと胸に広がっていく。
赤也越しに見える夕日がキラキラと眩しいのは、今私の幸せ度が最高潮だからだろうか?
どうしよう。嬉しくて叫んでしまいそう。
「ほ、本当に・・・?」
「こんな嘘つくかよ!言っとくけど、怪我させた責任じゃねーからな!ずっと前から好きだったんだから・・・・・」
段々しりつぼみになる赤也の声が私の体温を上げる。
ちょっと止めてよ。可愛すぎて胸がキュンキュンしちゃうじゃない!
これ以上私を好きにさせてどうするのよ!!
私一人がドキドキさせられてる様な悔しさと、どうしようもない恥ずかしさを誤魔化すために、私は赤也から顔を逸らしながら「しょ、しょうがないから付きあってあげてもいいよ。」と、言ってやった。
本当に我ながら可愛くない。
「はぁ?なんだよその上から目線!!」
「うるさいな!じゃぁ付きあわない!」
「くそ!だから自分から告白したくなかったんだよ!!」
「なにそれ?じゃぁ私からさせようとしてたわけ?」
「そうだよ!だけどこの状況じゃ俺からするしかねーだろ!?変な誤解させないためには俺から告白するしかねぇじゃん・・・・・。クソッ!」
まさか赤也が私から告白させようと企んでいたなんて・・・・。
何も考えてなさそうなのに、意外と考え深いのかも。
なんだかよくわかんないけど、結果オーライ・・・って事?
怪我の功名ってやつ?
悔しがる赤也の隣にそっと並ぶ。
さっきまでもこうして並んで歩いていたのに、妙にくすぐったくて照れくさい。
赤也は拗ねているのか、全然こっちを見ようとしてくれない。
そんな態度も可愛くて愛しい。
「ねぇ、赤也。」
「なんだよ。」
やっぱりこっちを見てくれない赤也。
ちょっと背伸びをして、赤く染まった耳に「私も赤也の事、ずっと好きだったよ。」と囁く。
驚き顔で振り向いた赤也に、今度はしっかりと目を見つめながら「赤也大好き」と照れ笑いを向けた。
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赤也夢も久々だな。
やっぱ赤也は可愛いな・・・・。
梨花さんご無沙汰しております。
遅くなりましてすみません。
リクありがとうございました!!