*新テニの話です。
色々勝手に想像して書いてる部分がありますが、深くツッコまないでください。
「なぁ、一緒にいこうや。」
「うーん・・・・・。」
「ちょっと会うだけやん。」
「でも・・・・・・女が男の戦場に来るなんてって怒られそうだし。」
「真田なら言いかねんな・・・・。」
「でしょ?」
「私も・・・・彼の邪魔はしたくないし・・・。」
合宿に行ってるメンバーの彼女達に「一緒に行こう」と誘いをかけてみるけど、誰一人としてうなずいてくれる子はおらん。
冗談半分で乗り込もうって話してた時は乗り気やったのに、実際に行くとなると引け腰になるらしい。
何度か誘ってみたけど、彼女達に行く意思はない様子。
会いたいって気持ちは私と同じ様にあるけど、自分の我が儘で彼に迷惑をかけたくない気持ちの方が強いようだ。
どんな状況なんかとかまったくわからへんけど、高校生と合同っていうくらいやから、今までの練習以上に大変なんやろうという事くらいはわかる。
そんなところで頑張ってる彼等の邪魔をしたいわけでもないし、迷惑をかけたいわけでもない。
ただ・・・・・会いたいだけ。
会いに行く事さえも、迷惑になるんやろか?
今はテニスの事だけを考えさせてあげたい。
余計な事で時間を使わせたくない。
彼女達の言う事もわからんでもないけど・・・・・
「会いたいな・・・・」って思って時々ボーっとしてしまったり、寂しくて胸がキューって苦しくなったり。
そういうのって私達だけなんやろか?彼等かてそう思ってたりせんのやろか?
もしそうなら、ちょっと会うだけで彼等の力になるんやないか。また頑張ろうってお互いが思えるんやないやろか。
そんな風に考えるんは私だけ・・・・?
blue sky
結局私は雅治に会うため、一人電車に乗った。
緩やかに走る電車に揺られ、風景が田んぼや草木ばかりになっていくのを車窓から眺めながら、何度引き返そうと思ったことか。
やっぱり真田の彼女が言うとったように、真剣にテニスをしてる彼等の元にただ会いたいなんて気持ちだけで行くのは迷惑かもしれん。
雅治はどんな顔をして、なんて言うやろう?
嬉しそうに笑ってくれる?俺も会いたかったって言うてくれる?
それとも「ほんまに来るとは思わんかった」って呆れられる?
すぐに帰れなんて言われたらどないしよう?
それよりもまず、本人に会えるんやろか?
「来るな」って言われるのが怖くて、今日来ることは今朝出発前にメールした。
今の所返信はない。
もしメールを見てなかったら、会えない可能性もある。
覚悟して来たつもりやのに、左右に揺れる天秤のように、あっちへこっちへと心が傾いてしっかりと定まらない。
だけどそんな私の心情を他所に電車は目的の駅へと到着してしまった。
「山ノ奥駅ってそのまんまやし。」
寂れた駅のホームで一人ツッコミを入れる私を、緑の匂いを含んだ風が追い越していく。
予想以上の田舎っぷりに驚きながらも、澄んだ空気にあれこれと考えていた頭がすっきりとした。
空を見上げれば澄んだ青がどこまでも広がり、川のせせらぎや鳥の声が辺りに響く。
こんな自然いっぱいの場所に来るのは久しぶりや。
「うん。いまさらあれこれ考えてもしゃーないし、会えんかったり帰れ言われた時は、観光にでも来たと思えばいっか。」
ちょっと無理ある言い訳やとは思ったけど、そう考える事で不安を誤魔化すことにして、情緒があると言えば聞こえのいい、古めかしい木造の改札を潜った。
合宿所までの路は一本道で迷う事はなかったけど、けっこうな距離と斜度のせいで、合宿所が見える所に来た頃には私の息はかなり上がっていた。
ハイキングというにはハードすぎる。
息を整えつつ石壁に沿うように歩いると、先の方でぴょんぴょんと跳ねる何かが見える。
なんだあれは・・・?
目を凝らすと同時に、「雪せんぱーい!!」と言う声も聞こえてきた。
え?まさか・・・・?
「待ってたでヤンス~!!」
「しい太!?」
「こっちでヤンス!早く早く!!」
「え?ちょ、なに!?」
笑顔で駆け寄ってきたしい太は、私の手を引いて来た道を戻るように坂を駆け上って行く。
可愛らしい小動物みたいなイメージやけど、彼もテニス部の一員なわけで、はぁはぁと息切れする私とは対象的に余裕の顔。
それが少し恨めしい。
大きく聳える門が見え、ここが入り口かと思いきや、しい太はそこを通り過ぎていく。
いったいどこへ連れて行く気なんだと口を開きかけた時、足を止めたしい太が辺りを伺うようにキョロキョロとしだした。
「どないしたん?」
「しぃーでヤンス!」
「え?」
「雪先輩。ここを潜るでヤンス!」
「ここって・・・・これ?」
しい太が指差すのは、フェンスが破れて開いた穴。
ここを潜れって・・・・・・。
これを潜った先はどう考えても合宿の施設内。
これって不法侵入なんじゃ・・・?
戸惑いで立ち尽す私を、しい太が早くと急かす。
いいんかいな?と思いながらも、促されるままに穴を潜れば、そこの木の陰で待っててくれと言われた。
「待ってろって・・・・」
「すぐに仁王先輩呼んで来るでヤンス!」
「え?ちょっと、しい太!?」
私が呼び止める声も聞かずしい太は走り去っていく。
覆い茂る木々にすぐにその背中は見えなくなって、私は一人取り残されてしまった。
待ってろって言ってたし、雅治を呼んで来るとも言ってた。
落ち着いて考えれば、しい太があそこで私を待ってたのもここで待たされてるのも、雅治からの指示なんやろう。
って事は、ここで待ってれば雅治が来るって事や。
勝手に不法侵入してしまった背徳感と、もうすぐ雅治に会えるというドキドキ感が混じってなんだか落ち着かない。
胸の辺りに手を置きながらそっと目を閉じて深呼吸する。
服の上でもはっきりとわかるほどの鼓動が手に伝わる。
何度深呼吸をしても暴れる心臓を落ち着ける事はできそうにない。
あぁ、どうしよう。
雅治に会うのにこんなに緊張した事があったやろか?
意味もなくどうしようどうしようと心の中で繰り返す。
とにかく落ち着けともう1度深呼吸しようと息を吸い込む。
その瞬間不意に背中から抱き締められ、吸い込みかけた息が止まった。
懐かしい温もり。懐かしい匂い。
振り向かなくてもわかる。
ずっと求めていた温もりに、じわりと目の奥が熱くなった。
髪の中に顔を埋め、耳元に熱い吐息がかかる。
私の存在を確かめるように、回された腕が強まる。
「雅治・・・・」
声にならない声が息の様に口から漏れる。
ここに来るまでにあった不安も寂しさも全てが吹き飛んで、ただ愛しさだけが胸を占める。
思いもしなかった感動的な再会を演出してる自分がちょっと恥ずかしくもあったけど、それよりも嬉しさの方が大きかった。
緩んだ腕が私の肩を抱き、体を反転させる。
向かい合う様立たされて、なんだか照れくさくて顔を上げられない。
「雪・・・・」
優しい呼びかけに胸がきゅんとする。
名前を呼ばれただけなのに、嬉しくて胸が苦しい。
我慢していた涙が頬を伝って、その顔を見せないように胸に額をくっつけた。
「顔見せてくれんのか?」
「・・・・・・・無理。」
「俺も無理。」
なにが無理?と聞く前に両頬に手を添えられ顔を上げさせられる。
濡れた視界の中に雅治の顔が浮かぶ。
愛しそうに細められた瞳が静かに近づき、「逢いたかった」の囁きと共に口付けられた。
数週間振りのキスは想像よりも優しくて、また涙が零れそうになった。
触れては離れて、離れては触れて。
会えなかった時間と寂しさを埋めるように、何度も唇を合わせる。
キスをしながら薄く瞼を開き、覗き見るようにこっそり雅治の顔を見ようとすると、至近距離で私を見つめる瞳と視線が重なって、お互い同じ事を考えていたのかと思うとおかしくて笑いが零れた。
「練習、抜けてきてよかったん?」
「今は休憩中ナリ。」
「嘘つき。こんなとこでサボッてたら怒られるんちゃうの?」
「誰もサボっとらん。充電しとるだけじゃ。」
それをサボってるって言うんじゃ・・・?
でも、じゃぁ戻ると言われても困る。
この温もりをまだ離したくない。
そんな気持ちが顔に出たのか、「まだ大丈夫じゃから心配しなさんな。」と安心させるかのように髪を撫でてくれた。
「もし咎められたとしても、文句を言えんくらいの力を見せてやればえぇだけの話じゃしのう。」
「そんなデカイこと言うて・・・・」
「今の俺なら、誰にも負ける気がせん。」
「幸村にも?」
「俺の腕の中で他の男の名前を出すんじゃなか。」
「んんっ・・・」
ムッとしたように少し荒々しく唇が重ねられる。
本当に嫉妬深い男だと呆れながらも、変わっていない独占欲に安心を覚えた。
唇を割って入り込んでくる舌が、思考と理性を奪っていく。
崩れ落ちそうな体を強い力が抱きとめる。
髪を撫でていた手が耳の輪郭をなぞり、顎のラインに沿って下降する。
くすぐったさとぞわりとした感覚に甘い吐息が漏れた。
「まさ・・・は・・る。」
「そんな顔で名前呼ぶんじゃなか。理性がもたんようになるじゃろ。」
それは困る。
やけど、それでもいいなんて思ってる私が頭の片隅にいて、そんなことを思う自分に驚く。
自分で思ってたよりも私、寂しかったんかもしれん。
雅治にこうして抱き締めてもらって、何度もキスしてるのに、それじゃまだまだ足りないと思ってる。
そんな自分の気持ちに気づいた途端、その気持ちが急激に大きくなっていく。
もっと雅治で満たして欲しい。もっと雅治で満たされたい。
今までの寂しさが吹き飛ぶほどに、次に会うまで寂しさを感じないほどに、雅治でいっぱいにして欲しい。
口にするのは恥ずかしいし、そんな我が儘雅治を困らせるだけ。
だけどこの気持を抑えることは出来そうになくて、自分から雅治の唇に自分の唇を押し付けた。
「今日はずいぶんと大胆じゃな。」
「うん・・・・。もっとシて。」
「またそうやって俺を惑わす。どうなっても知らんからな。」
困ったような、だけど嬉しそうな雅治の声が耳元をくすぐる。
『どうなっても知らん』
それが何を指すのかくらいわかる。
いつもの私なら激しくツッコンでることやろう。
だけど今は・・・・このままどうなってもいいと思えた。
「練習後の自由時間に外へ買い物行くくらいなら許されとるから、それまでいい子で待っときんしゃい。」
「・・・・うん。ちゃんと待ってるから、早く迎えに来て。」
約束の指きりをするように、唇を合わせる。
あと数時間後に会えるとわかっていても離れ難くて、しい太がハラハラとしながら雅治を呼びに来るまで、私達は数え切れないほどの口付けを交わしあった。
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ムンムンムラムラ~♪←
まさか自己満足で書いた話の続編をリクいただけるとは思わなかったのでびっくりしました。
ありがとうございます。
新テニの施設の決まりとかがようわからんのですが、ペアプリなどを読む限りそこまで監獄のような生活ではないようですよね?
練習風景を見に行くことは可能なようですし、施設の外に買い物に行くのも大丈夫みたいやし、彼女達に会おうと思えば会えないわけではないってことなのでしょう。
優姫さんリクありがとうございました!!