休日の水族館は、家族連れや恋人同士などで賑わっていた。
今日は特に、雨のせいもあって人出が多いように思う。
これではゆっくり見て周るのは難しいかもしれないな・・・・と、この日に水族館に来た事を少し悔いていたのだが、
そんな事を気にする様子もなく子供のようにはしゃぐ熙爾に、やはり今日ここに来てよかったと思い直す。
なんとも現金な自分の心に苦笑いしながら、眩しい笑顔を見せる熙爾の隣に並んだ。
「うわ・・・・すごい!!」
「キャー可愛い!!」
大型水槽の鮫やマンボーに驚いたり、イルカやアシカに歓呼の声を上げたり。
コロコロと表情を変える熙爾に、最近の忙しさで枯渇していた心が潤いを帯びていく。
違う魚を見つけるたびに、「秀一郎さん」「秀一郎さん」と呼びかけてくれる彼女の楽しそうな声が耳を優しくくすぐり、優しさと愛しさで満ちた心が、俺の顔に自然と笑みを浮かばせた。
半分ほど見た辺りで、少し休憩しようかとベンチに腰を下ろした。
目の前にそびえる水槽を眺めながらペットボトルのお茶で喉を潤す。
小さな水槽を好きにアレンジして、自分だけの世界を作るのも楽しいけれど、やはり自然の海の世界には敵わないのだろう。
いつか熙爾と一緒にダイビングが出来ればいいな・・・・なんて思っていると、隣に座っていた熙爾が突然駆けだした。
どうやら何かを見つけたようで、目をキラキラとさせながらまだベンチに座る俺を手招きする。
「秀一郎さん!見て下さい!すごく綺麗!!」
熙爾の後を追って黒い壁にぽかりと空いたアーチ型の入り口を潜れば、ライトダウンされた部屋の中に、赤や青の淡い光を放つ水槽がアートのようにあちちらこちらと並べられていた。
水槽の中にはふわふわと水中を漂うクラゲ。
透明な体がライトの色に染まり、なんとも幻想的な光景を作り上げている。
熙爾は円柱型の水槽が気に入ったようで、張り付くように顔を寄せた。
その水槽のライトは数分ごとに色が変わり、赤・青・緑・黄色・・・・とクラゲが色を変えていく。
色が変わるだけでまったく違う生き物のように見えるから不思議だ。
緩やかな水流に身を任せ水槽の中をクルクル周りながら泳ぐクラゲはなんとも優雅で、思わず心を奪われる。
「なんだか癒されますね・・・・。」
「そうだな。」
俺達は肩を並べ、ゆったりとした流れを心で感じながら静かにそれを眺めた。
しばらくして熙爾がポツリと呟く。
「秀一郎さんはクラゲを飼ったりしないんですか?」
「なんだい急に?」
「もし部屋にこれがあったら、秀一郎さんはいつでも癒されるのにな・・・・と思って。」
熙爾といる時はできるだけ疲れを見せないようにと思っていたのだけど、彼女には誤魔化しが効かないようだ。
いつも俺を気遣い、心配し、我が儘も言わず支えてくれる熙爾の優しさに、胸が優しい温もりに包まれる。
水槽に着いた熙爾の手の上に自分の手を重ねる。
すっぽりと俺の手の中に収まる小さくて柔らかい手。
この手をいつまでも守っていきたい。
「俺には熙爾がいるから。」
「え?」
「俺を何よりも癒してくれるのは熙爾だよ。」
「秀一郎さん・・・・」
潤んだ瞳で見つめられ、穏やかだった胸の中がざわりと波立つ。
確かに俺を癒してくれるのは熙爾だけど、俺の心を乱すのも熙爾だ。
湧き出す欲望に抗えず、熙爾へと顔を寄せる。
驚いたように一歩下がる熙爾の腰を引き寄せ、少し強引に唇を合わせた。
「しゅ、秀一郎さん!!」
「ごめん。我慢できなくて。」
「だ、誰かに見られちゃいますよ・・・・。」
目元を赤く染めながらキョロキョロと辺りを見渡す熙爾があまりに可愛くて、そのまま腕の中へ閉じ込めてしまいたい衝動に駆られる。
すっかり熙爾に溺れてしまっている自分に苦笑しながらも、このクラゲのように、自分の感情のままに流されるのも悪くないかもしれないな・・・・なんて思う。
「大丈夫。この水槽で見えないから。だから・・・・もう1度キスしていいかな?」
「そんな風に聞くなんて、ズルイですよ・・・・・。」
拗ねるように尖らせた唇に、ゆっくりと唇を寄せていく。
淡い灯りに照らされたクラゲのカーテンに隠れ、俺達は長い口付けを交わした。
jellyfishに魅せられて
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大石視点はお初かも?
水族館好きでよくデートで行きました。
夏は涼しいし冬は温かいしいいですよね。
もうちょっと入館料が安いとなお素敵♪
人造?人工?のクラゲのインテリアがあるのをご存知でしょうか?
浮遊体アートって言うそうですが・・・。
めっちゃ欲しい!!
ちっちゃいのでいいから欲しいですね。
熙爾ちゃんリクありがとう!