4周年ありがとう企画 美姫ちゃんリク海堂SS | 肝っ玉かあちゃんのひとり言

肝っ玉かあちゃんのひとり言

妄想の世界に逝っちゃってるヤツの戯言

「先生ありがとうございました。」

「また来週ね。」

「はい。さようなら。」




週に1度のピアノ教室を終えて外に出れば、辺りはすっかり暗くなってしまっていた。

冷たい風が吹きぬけて、寒さに肩を縮こませる。


今夜も寒い・・・・。


マフラーで覆った顔から唯一出ている目で辺りを見渡すと、電信柱の影に見慣れた人影を見つけた。

自分でもわかるくらいに、一瞬にして顔全体に笑顔が浮かぶ。

満面の笑みを湛えたまま、私はその人陰に駆け寄った。




「薫ちゃん!」

「あぁ。終わったのか?」

「うん。」




さすがの薫ちゃんもこの寒さには耐えられないのか、顔は白く鼻先が赤い。

私は慌てて手袋をした手で薫ちゃんの頬を覆った。




「かなり待たせちゃった?」

「いや。さっき来たとこだ。」




絶対嘘。

嘘をつくのが苦手な薫ちゃん。

本人は気づいてないみたいだけど、嘘をつく時必ず視線が左を向く。


私に気を使わせまいとした優しい嘘に、この寒さの中待たせてしまった申し訳なさを感じながらも、嬉しさに頬が緩んだ。



「もう大丈夫だ」と私の手から逃れるように歩きだした薫ちゃんの後を追う。

心なしかバンダナから覗く耳が赤い。

これも寒さのせいなのかな?

それとも照れてるのかな?


長く一緒に居るのに、未だに薫ちゃんは私のちょっとした言葉や仕草に驚いたり照れたりする。

そんな薫ちゃんの反応を見て、私はいつも安心するのだ。

薫ちゃんにとって私は、ちゃんと『女の子』なんだって。


幼馴染って、他の女の子達よりも近い存在で、その辺は嬉しいんだけど、長く一緒に居過ぎるせいで恋愛には発展しにくいという難点がある。

薫ちゃんは優しいし、私を大事にしてくれてる。

でもそれは、私が『幼馴染』だからなのか、『女の子』だからなのかが、今ひとつわからない。


もしかして薫ちゃんも私の事を好きなんじゃないかと思う事は今までも何度かあった。

でもそれって幼馴染だからじゃないの?と問われれば、そんなことない!と否定できるほどの自信はない。


「どう思ってるの?」って問いただす事ができれば楽なんだけど、そんな勇気もないわけで・・・・。

結局『女の子としての私』を見て欲しいと思いながら、『幼馴染としての私』として薫ちゃんの隣に居る。


意気地なしで卑怯者。

でも・・・・怖いんだもん。




「今夜は雪降るかもって天気予報で言ってたよ。」

「そうか・・・。積もらないといいけどな。」

「もしかして・・・・・この後また走りに行くの?」

「飯食って一息ついたらな。」

「風邪引いちゃうよ?」

「大丈夫だ。そんなやわじゃねぇ。」




真面目と言うか、テニスバカと言うか・・・。

毎朝毎晩。学校の練習とは別に自主練をしている薫ちゃん。

そこまで頑張らなくても・・・・・って言いたくなるくらい誰よりも頑張っているその姿を、私はずっと見てきた。

雨の日も風の日も、こんな寒い日だって、1日も欠かす事なくロードワークに出かけていく薫ちゃんの背中を何度も見送った。

今夜もこの後、寒空の下へ飛び出していくのだろう。


無理して欲しくはないけど、頑張っている薫ちゃんを応援したい気持ちもある。

テニスに打ち込む薫ちゃんも、私は大好きだから・・・・。



「ねぇ薫ちゃん。お母さんに頼まれたからって、無理して迎えに来てくれなくてもいいんだよ?」

「無理なんかしてねぇから気にするな。」

「でも・・・・私の送り迎えしている間にトレーニングできるでしょ?」




近所で変質者が出たとかで、心配したお母さんが薫ちゃんに私の迎えを頼んだ。

ピアノ教室から自宅までは歩いて20分。自転車を使えば10分程度で着く。

迎えなんていいよ。と断ったのだけど、薫ちゃんは毎週迎えに来てくれる。


迎えに来てくれるのは嬉しいけど、そのせいで練習時間が減ってしまうのは心苦しい。




「私は大丈夫だから、もっと自分のために時間を使って。」




ニコリと笑って薫ちゃんを見上げたのだけど、こっちを見た薫ちゃんの顔があまりに真剣で、浮かべた笑みが消えていく。

なんだろう・・・?変なこと言ったかな・・・?

こっちを見ながらも何も言わない薫ちゃんに不安が増した。




「俺は・・・・・・・・・・オバさんに頼まれたから仕方なく迎えに来てるわけじゃない。」

「え・・・?」

「俺が心配で迎えに来てるだけだ。」




薫ちゃんのまっずぐな眼差しに胸がドキンと跳ねた。


テニスをしている時とも違う真剣なその眼差しに、鼓動がどんどん早くなる。

そんな目で、そんなことを言われたら・・・・・・・自惚れてしまいそうになる。


なんて返事をしたらいいのかわからなくて、黙ったまま薫ちゃんを見つめていると、薫ちゃんが1歩私に近づいてスッと私の手を取った。

手袋越しに感じる薫ちゃんの手の感触。

昔はよく繋いだ手が、まったく別人のようでドキッとする。




「か、薫ちゃん・・・・。」




薫ちゃんはなにを言うでもなく、私の手を引いて歩きだした。

さっきよりも近い距離で、私の手をしっかりと握って。


これは・・・・・どう言う意味なんだろう?

気を使うなって事?

それとも・・・・・・本当に自惚れちゃってもいいの?


ダメだと思いながらも、期待に胸が膨らんでいくのを止められない。




「・・・・・わ、私だからいいけど、他の子にこんなことしたら、誤解させちゃうよ?」

「・・・・・・。」

「女の子って、ちょっと優しくされただけでも勘違いしちゃうんだから・・・・。」




どんどん早くなる鼓動と顔の熱さに、思考がパンクしそうだ。

「今のってどう言う意味?」とか「どうして手を繋ぐの?」って聞きたいのに素直に聞けなくて、可愛くない言葉が口を衝く。


その私の言葉に、薫ちゃんが不意に足を止めた。

つられて私も立ち止る。

足音が止み、妙に静まり返った2人の間を冷たい風が吹き抜けた。




「言っとくが、誰にでもこんなことするわけじゃない。」

「え?」

「・・・・・好きでもない女と手なんか繋いだりしない。」




ぎゅっと繋ぐ手に力が入って、胸の奥までも掴まれたみたいになった。


今の言葉の意味って・・・?

好きでもない子とは繋がないって事は、好きな子だから繋ぐって事・・・・・だよね?

誤解でも勘違いでもなくて、自惚れていいって事だよね?




「わ、私も・・・・・。」




好きでもない男の子と手なんか繋がないよ。

薫ちゃんだけだよ。


そう伝えたいのに胸がいっぱいで声にならない。

だから言葉の代わりに、繋がれた手をほんの少しだけ強く握り返した。


お互い俯いたままで、顔を合わせる事もできなくて、薫ちゃんがどんな顔をしているのかわからない。

でもたぶん、今の私と同じ様に真っ赤な顔をしていることだろう。




「好きだ」とか「付き合おう」とか、決定的な言葉を言われたわけじゃないけど、手を通して薫ちゃんの気持ちが伝わってきて、今までの不安が嘘みたいに消えていく。

噴き出した想いが一気に溢れ、全身が好きでいっぱいになる。

私の気持ちも、この手を通じて薫ちゃんに伝わってるかな・・・?




「美姫。」

「な、なに?」

「・・・・・・たまには・・・・遠回りしていくか?」

「・・・・・・うん!」




早く帰らないと薫ちゃんの練習時間が減っちゃう。

だけどまだ、この時間を終わらせたくない。

薫ちゃんも同じ気持ちでいてくれてるんだと思う。


いつも以上におしゃベりの少ないままに、私達は家とは正反対の道をゆっくりと歩きだす。

見慣れた景色も全然違って見えて、星一つ見えなく曇り空もキラキラと眩しく思える。



薫ちゃん好きだよ

俺も好きだ



同じリズムを刻む足音が、そんな会話をしているようで、くすぐったさを感じながらも私の心は幸せに満たされていた。



重なる想い

(家に着いてもなかなか手を離せなくて、もう1週だけ・・・・と、家の周りを何週もした。

「これ以上は美姫の体が冷えるから」と言われたけど、離れ難くて俯く私に、薫ちゃんは優しく額にキスをくれた。

家に入る寸前に囁き落とされた「好きだ」の言葉に、私は薫ちゃんの胸へと飛び込んだ)

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付き合う前のドキドキ。

青い青春。

一体どんなもんだっただろうか・・・・←


幼馴染の恋愛っていいな・・と思うけど、もし自分の子が近所の幼馴染と付き合ったり結婚するとなると、親としては複雑です。ww



美姫ちゃんいつもリクありがとう!!

ときめきよりも「可愛いなこいつ等」って感じになっちゃったけど、