「私マラソン嫌い。」
「私も~。短距離はいいけど長距離は苦手。」
「マラソンなんてこの世からなくなればいいんだ。」
そんな大袈裟な。
確かに長距離は苦しいし毎日は勘弁願いたいけど、走りきった後の爽快感みたいなものは嫌いじゃない。
胸の揺れが気にはなるけど・・・・。
マラソン撲滅運動をしよう!なんて本気か冗談かわからない事を言う友人達に苦笑いしながら、汗の滲む体を冷やすように体操服の裾をパタパタと扇いでいると、靴箱へと続く道に蓮ニくんの姿を見つけた。
蓮ニくんの友達が私に気づき、蓮ニくんの肩を叩きこちらを指差す。
振り向いた蓮ニくんは私の姿を目にして、私にしかわからないであろう笑みを浮かべた。
「ずいぶんと頑張っていたな。」
「見てたの?」
「あぁ。」
マラソンとかで必死に走ってる姿って、出来れば好きな人とかには見られたくないな・・・。
だって絶対酷い顔してるもん。
少し下がりかけていた体温が、恥ずかしさで上昇する。
また体操服の裾をパタパタとしていると、スッとハンドタオルを手渡された。
体育の授業にちゃんとタオルを持って来てるって・・・・・さすが蓮ニくんだ。
ありがとうと受け取って、こめかみや首筋の汗を拭う。
蓮ニくんの匂いにドキドキしつつ、もう少し首の後ろも拭おうと肩にかかっていた髪を左側へと手で寄せた。
その直後の事だ。タオルではなく生温かくて柔らかい感触が首に触れたのは。
それが蓮ニくんの唇だと気づくのはそれほど時間はかからなかったけど、驚きと羞恥で固まってしまった私は、逃げる事も怒る事もできぬまま立ちつくす。
マラソンを走り終えた時よりも体が熱くなって、のぼせてしまいそうになる。
遅れる事数秒して、飛び跳ねるように蓮ニくんから離れ「なにしてるの!?」と叫べば、しれっとした顔で「ああ。すまない。汗ばんだ項を見て思わず体が動いてしまったようだ」なんて言う。
思わずじゃないよ。
ギョッとしたような顔をしていた友達も、蓮ニくんの言葉に苦笑いしているし、恥ずかし過ぎる。
「しかし、そんな風に無防備に他人に濡れた項を見せるのは感心できないな。」
「た、他人の前で項にキスしてくる蓮ニの方が感心できないよ!」
「では、他人の前でなければいいのか?」
「そういう問題じゃないし!!」
私は必死に怒っているのに、「そんな顔をされるとますます抑えが効かなくなる」などと言いながら、私の頬に触れたり、毛先に口付けたりしてくる蓮ニくん。
全然反省の色はないようだ。
蓮ニくんの友達は、「冷静沈着でクールな柳先輩カッコイイ!なんて言ってる後輩がこんな姿見たら見たら泣くな。」「確かに。」なんて頷き合ってるし、私の友達も「私も最初ショックだったもんね。」「まぁ、だいぶ慣れたけど。」と冷ややかだ。
ちょっと!!冷静に見てないで助けてよ!!
だけど無常にも友達は、「じゃぁ葵、私達先に戻ってるから。」「次の授業が始まるまでにはもどれよ。」などと言って帰っていってしまった。
え?うそ・・・・置いていかないで!!
「せっかくの好意だ。無駄にするのは申しわけないだろう。」
「全然申し訳なくないし!」
「それにこのままじゃ次の授業にも身が入りそうにない。」
「嘘ばっかり・・・・。」
「責任を取ってもらわないとな。」
校舎から死角になる場所へと手を引かれ、影の中に入ると同時に口付けられた。
欲望をたたえた瞳が間近で私を見つめている。
ここ学校なのに・・・・。もし誰かに見つかったら・・・・・と、思いながらも、その熱い瞳ととろけるような口付けに段々思考が溶けていく。
「蓮・・ニくん・・・・・」
「胸が大きく揺れていたな。先端が擦れて疼くんじゃないか?」
「なっ!!」
「こっちは俺が責任を持って沈めてやろう。」
「ぁ・・・ダメっ・・・・!授業が始まっちゃ・・・・」
「心配ない。次は自習だ。」
「さっき身が入らないって・・・・・・」
「もういいだろう。少し黙れ。」
重ねられた唇に、言葉も吐息も奪われる。
体操服の裾から滑りこんできた手が脇腹をなぞり這い上がっていく。
手の動きを止めようと体操服の上から押さえつけるけど、その手はほとんど力が入っていない。
ダメなのに・・・・・・触れられたいという欲求が抗う力を奪っていく。
「蓮ニくんの・・・・・バカ・・・・。」
「可愛すぎる葵がいけない。」
低く囁かれて、耳を甘噛みされて、もう何も考えられなくなる。
私をこんな風にして・・・・・・いけないのは蓮ニくんの方だよ。
結局いつものように蓮ニくんのペースに乗せられて、私達は誰もいない校舎の裏で、熱くて甘い、そしてスリリングな一時を過ごしたのだった。
そのうなじに欲情するなかれ
(マラソン撲滅運動に私も参加しようかな?)
(何の話だ?)
(こっちの話)
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彼は淡白そうに見えて意外と濃い気がします。←
由似さんリクありがとうございました!!