仁王誕生日企画 夢小説 『First love』 第7話 | 肝っ玉かあちゃんのひとり言

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First love ~第7話~


泣いて泣いて、これ以上涙がでないんじゃないかというくらいに泣いた翌日。

私は松尾君に別れを告げた。

笑いながら「友達としては仲良くしてくれるよね?」と言ってくれてた松尾君。

最後まで優しかった彼に泣きそうになりながら、何度もありがとうとごめんなさいを繰り返した。


松尾君と別れた事で、少しだけ気持ちが軽くなったけど、松尾君が最後に残した言葉が胸の中で引っ掛かる。




「この顔どうしたと思う?」

「ど、どうしたの・・・?」

「殴られた。」

「えぇ!?誰に?」

「・・・・・・悔しいから教えてあげない。」

「悔しい?」

「中田のせいで殴られたって事だけは教えてあげる。」

「私のせいなの!?」

「さぁ?」

「え?どっちなの?」




松尾君は笑うだけで最後まで答えをくれなかった。

これくらいの意地悪は許してもらわないと。なんて言っていた。


松尾君が殴られた。

その原因は・・・・私?


一体誰が何の理由で殴ったんだろう・・・・?






松尾君と別れたと知った友達が、「祝賀会!」なんて言ってカラオケに誘ってくれた。

これで寂しいクリスマスを過ごす仲間が増えた!と喜ぶ友達に苦笑いを返す。




「松尾のどこがだめだったわけ?」

「ダメとかじゃなくて、松尾君への気持ちはただの憧れだったんだと思う。」

「憧れ?」
「ドキドキもしたし、他の女の子といたら嫉妬したりもしたけど、他の事を何も考えられなくなるくらい悩んだ事も、胸が張り避けそうなくらい苦しくなった事もなかった。恋に恋してた・・・・・そんな感じかな。」

「おやおや。まるで本気の恋ってヤツを知った口ぶりだね。」

「え?いや・・・そんなんじゃないけど・・・・・・・」




まさかマー君への恋心に気づいただなんて言えるはずもなく、誤魔化すようにストローを咥えた。

カラオケに来たと言うのに誰も歌いもしないで、さっきから松尾君との話を根掘り葉掘り聞いてくる。

このままじゃ全て聞くまで終わらないかも・・・・と思った私は、自ら歌ってやれとリモコンを手にした。

だけど友達の次の言葉にその手が止まる。




「でもさ、クリスマスを目前に別れちゃうなんて、悠も仁王ももったいない。」

「え?マー君もって・・・・・?」

「知らなかったの?超噂になってたのに。仁王も別れたんだよ。」

「知らないよそんなの・・・・。いつ?なんで別れたの!?」




腰を上げて詰め寄る私に友達が驚いた顔をする。

慌てて腰を下ろして咳払いをし、冷静を装って「で、どうして別れたの?」と、もう1度訪ねた。




「なんでもさ、ずっと好きな子がいたんだけど、その子を忘れる為に他の子と付きあってたらしいよ。」

「忘れるって・・・・どうして忘れなきゃいけないの?」

「さぁ?そこまでは知らないけど、結局は忘れられなかったみたいだね。」

「そう言えば仁王っていつも同じタイプの子ばっかりと付き合ってたじゃん?あれって本当に好きな子と似たタイプを探してたって事じゃないの?」

「あぁ!ありえる!!」

「初恋らしいしね。」

「仁王って意外と純情なんだ!」

「でも今回の彼女はいつもと違ったよね?」

「あれじゃない。今度こそ吹っ切ろうと思って違うタイプを選んでみたとか?」

「なるほど!」




盛り上がる友達の横で、私は混乱する頭をなんとか落ち着けようと息を吐く。


友達の言っている事が本当だとしたら、マー君にはずっと好きだった女の子がいる。

いつからなのかはわからないけど、たぶんずっと昔から。

マー君に初めて彼女ができたのは中学2年の時。

あの時、誰かに言われた事があった。

『顔とか雰囲気とか、なんとなく悠に似てるよね』って。




『マー君はさ、なにを基準に彼女を選ぶの?』
『顔。』
『私が言うのもなんだけど・・・・そこまで可愛い子いないよね。』
『・・・・・・・そうじゃのう。』
『なんで私の顔見て言うのよ?』
『あと雰囲気かのう?』
『どんな・・・・・?』
『それはナイショナリ。』



マー君と交わした会話。
深く考えもしなかったけど、本当はとても大切な意味が込められていたのかもしれない。



『この顔どうしたと思う?』
『ど、どうしたの・・・?』
『殴られた。』
『えぇ!?誰に?』
『・・・・・・悔しいから教えてあげない。』
『悔しい?』
『中田のせいで殴られたって事だけは教えてあげる。』
『私のせいなの!?』



松尾君を殴ったのは、マー君だ。

マー君は私が松尾君にキスされたのを見ていた。



どうして私がキスされて殴るのか・・・・?



もし、今心に浮かんだこの答えに間違いがないのなら・・・・・・

マー君の好きな人は。

忘れられない初恋の人は・・・・・・




「・・・・・・ごめん。私帰る!!」




隣に置いてあったバッグとコートを抱え、私はカラオケボックスを飛び出した。

コートを着ようかと思ったけど、立ち止まる時間さえも惜しかった。

冷たいコンクリに足音を響かせながら、縺れる足を必死に動かす。


早く・・・1秒でも早く、マー君に会いたい。










いつものように迎えてくれたマ-君ママ。

私の普通じゃない様子に何か悟ったのか、ただ笑顔を浮かべて家の中に招き入れてくれた。

.
真っ直ぐにマー君の部屋へ向かう。

今までの中で一番緊張している。

震える手をギュッと握り締めて、部屋の扉をノックする。

私だと気づいたら開けてくれないかもしれないから、返事が返ってくる前にドアを開けた。


ベッドの上に座っていたマー君が驚いたように私を見る。

だけどその目はすぐに逸らされ、代わりに「なにしに来たんじゃ」と冷たい言葉を投げつけられた。


後手にドアを閉め、頑張れ私と自分を励ましながら深呼吸する。

よしと気合をいれるように奥歯をグッと噛み締めた後、ゆっくりと口を開いた。




「彼女と・・・別れたんだって?」

「そんな事をわざわざ聞きに来たんか?」

「どうして別れたの?」

「悠には関係ないじゃろ?」




きつい口調で拒絶の言葉を放ちながらも、丸めた背中は弱々しい。

何かに怯えているようなその背中に、抱き締めたい衝動に駆られた。


1歩1歩とマー君との距離を詰める。

踏み出すたびに早くなる鼓動が、静まり返った部屋に響きそうでそっと手で押さえた。




「もしかして・・・・・・・別れた理由は、私?」

「は?なんで悠のせいで別れんといかん?」




本気で鼻で笑うような、蔑んだ声。

やっぱりただの私の自惚れだったのかもと心が怯む。


もしもマー君が口調と同じ瞳で私を見ていたなら、逃げ出していたかもしれない。

だけどマー君は頑として私を見ようとしない。それが私に小さな希望を持たせる。




「私は・・・・マー君のせいだよ。マー君のせいで、松尾君と別れたんだよ?」

「松尾と・・・・・別れたんか?」




マー君が体ごと私を振り向き、その瞳に私を映す。

驚きと苦痛に耐えるような表情に、ギュッと胸が締め付けられて苦しい。


私の知らないところで、マー君はいつもこんな顔をしていたの・・・?

ずっと1人で苦痛に耐えていたの・・・・?


最後の一歩を踏み出して、マー君の正面に立つ。

私を見上げるマー君に精一杯の笑顔を浮かべながら、抑えきれない想いを伝えた。




「私気づいたの。本当の恋がどんなものなのか。本当に好きな人が誰なのか。」

「本当に好きな人・・・・・?」

「マー君が好き。」

「悠・・・・?」

「マー君が、好きだよ・・・・きゃっ!?」




手首を掴まれたかと思うと思いっきり前方に引かれ、バランスを失った体がベッドへ沈んだ。
スプリングで弾んだ体は、すぐに何かに押さえつけられる。
衝撃で閉じた瞳を開けば、目の前にはマー君の顔あった。

真剣な瞳で私を見下ろすマー君に、ドクンと心臓が波打つ。
ヒュッと息を吸い込むよりも早く、マー君の唇が私の唇を塞いだ。

あの日浅い眠りの中で触れた唇の感触が蘇る。
少し冷たくて、柔らかい・・・・胸をしびれさせる感触。

「んっ・・・」と漏れた声を弾みに、口付けが激しさを増した。
唇は触れ合ったまま、角度と深さだけを変えていく。



「ぁ・・・・」



開いた唇の隙間から滑り込んできた舌が、逃げる私の舌を素早く絡み取った。


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初めての深いキスに、熱くなっていた思考が少しだけ冷静さを取り戻し、唇を離そうと顎を引く。
だけどマー君の手が顎を持ちあげ、顔を逸らす事を許さない。
唇を、漏れる吐息を、私の全てを吸い尽くすように再び唇が合わさる。
下唇を甘く噛まれ、ジンとした疼きが腰を走った。

乱れた息に上下する胸。
そこから伝わる早い鼓動。


酔ったみたいに頭がクラクラとして、シロップに浸かった様に全身が甘くてとろけそう。

お互いの熱い吐息と唇の触れ合う音だけが私達の周りに響く。
噛み付くような激しい口付けは呼吸さえも奪って、息苦しさに視界が霞む。
それでも止めて欲しくなくて、もっと触れていたくて、私はマー君の首に腕を回した。



「積極的じゃな。」

「もっと他に言うことないの?」

「なんのことかの?」

「まだマー君の気持ち聞いてない。」

「そうじゃったか?」

「聞かせてくれないの?」

「もう十分に伝わったかと思ったんじゃがのう?」

「やだ。言葉で聞きたい。」


おでこを合わせてマー君の目を覗きこめば、挑発的で強気な瞳がふっと愛しそうに細められる。

瞼に、頬に、鼻先に。口付けを落としていく唇。
だけどその唇から、欲しい言葉はなかなか出てこない。

意地悪なんだから・・・と、頬を膨らませてみるも、この状況が幸せすぎてすぐに表情が緩んでしまう。





「そんな可愛い顔するんじゃなか。抑えきれんようになるじゃろ?」
「なにが?」
「色々ナリ。」
「ん・・・・・・・・ふぁっ・・・・ んんっ。」



重ねあった唇が、混じりあった吐息が、熱く甘い世界に二人を誘う。
思考能力が奪われて、もうマー君の事しか考えられない。



「好いとうよ。誰よりも悠を・・・・・好いとる。」
「もっと。」
「欲張りじゃな。」
「本気の恋は、貪欲になるみたい。」
「ククッ。ならもっとおねだりしてもらおうかのう。」
「マー君。」
「ん?」
「大好き。」



赤く染まったマー君の顔が、とても可愛くて、とても愛しくて・・・。

顔と同じ様に赤くなった耳元に唇を寄せ、「大好きだよ」と、もう1度囁いた。



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