仁王誕生日企画 夢小説 『First love』 第6話 | 肝っ玉かあちゃんのひとり言

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First love ~第6話~


どうして涙が零れたのか。

どうしてこんなに悲しいのか。


考えて考えて・・・・考えついた先に出た答えは、『マー君の事好きなのかもしれない』だった。


そんなわけない。

仲のいい親戚が離れて行ってしまって寂しいだけだ。

ちょっと感傷的になってるだけで、別にそこまで悲しいわけじゃない。


何度も否定の言葉を並べては、そうだ。そうに違いないと自分を納得させる。

だけど自分を納得させようとしている時点で、もう認めているようなものなのだ。


キスされて嫌じゃなかったのも、それどころか恥ずかしくてドキドキしたのも、マー君の事が好きだったからなのだと思えば不思議じゃない。

本気の彼女ができたと聞いてショックだったのも、マー君の事が好きなら当然の反応だ。


いつから好きだったのかなんてわからないけど、もしかするとずっと好きだったのかもしれない。

近すぎて気づかなかっただけで。

傍に居過ぎて気づけなかっただけで。

私にとって誰よりも大きな存在だったんだ。




「私、マー君の事・・・・好きなんだ・・・・。」




声に出して呟いてみれば、それは自然と胸に落ちて、じわりと胸を熱くした。








マー君に彼女ができた。今度は本気かもしれない。


そんな噂が飛び交ったのは、マー君への思いを自覚した数日後の事。

自分の気持ちに気づいたきっかけが、本気の彼女ができた事だなんて、なんとも皮肉で笑えない。


学校帰りに手を繋いで歩いていたとか、お昼は彼女の手作り弁当を一緒に食べているとか、

とにかく超がつくほどのラブラブッぷりだと、興奮気味に友達が話していた。


廊下で肩を抱いていた。

中庭で抱き合っていた。

屋上でキスをしていた。


日を追うごとに大きく、そして濃い内容になっていく噂。

噂が大きくなるにつれ、噂の真偽を問いに来たり、馴れ初めを聞いてくる人が後を立たない。

そんなこと私に聞かれたって知らないし、本人達に聞けばいいじゃないかと苛々する。




「なんだか疲れた顔してるね。」

「え?そう・・・かな?」

「親戚ってだけで巻き込まれて大変だね。」

「そう・・・・・だよね。ホント迷惑しちゃうよ。」




『親戚ってだけで』


そうだった。私とマー君は親戚なんだ・・・・・。

わかっていた事なのに、松尾君に言われて初めて気づいたようにハッとする。


何をいまさら驚いているんだろう。

マー君が私をかまってくれていたのは、親戚だからだ。

それ以上の感情も関係もない。


でももう親戚だって事にも意味はなくなってしまった。

今までのように過ごすことはもうないんだ・・・・・・。




「今日の放課後、何か予定ある?」

「放課後?何もないけど・・・」

「じゃぁさ、気晴らしにどこか出かけようか?」




私を気遣ってくれる松尾君の優しさに、ちくりと胸が痛む。
松尾君との関係もどうにかしなきゃいけないよね・・・。

マー君の事を好きだと自覚して、松尾君と付き合い続けるなんてできない。

だけど、叶わぬ恋をいつまでも引き摺っていくのは苦しい。

松尾君と一緒にいれば、彼を本気で好きになる日がくるかもしれない。

・・・・・・・なんて、ズル過ぎるかな?



「じゃぁ、クレープ食べたいな。」

「いいよ。今日は中田にとことん付き合うよ。」

「ほんと?ありがとう松尾君。」




ごめんね松尾君。今はもう少し、その優しさに甘えさせて・・・・。








学校の最寄り駅から電車を乗り継いでやってきた場所は、ショッピングモールや巨大アミューズメント施設の集まるベイエリア。

早くもクリスマスのイルミネーションが施されて、どこもかしこも煌びやかだ。


30分並んでやっと買ったクレープを頬張りながら街行く人を眺めていると、見慣れた制服が視界の端を過ぎった。

できるなら学校の人には会いたくないと、わざわざこんな遠くまで来たというのに・・・。


どうか知り合いじゃありませんようにと心で祈りながら、視線を上へとずらし顔を見る。

相手を誰だか認識した瞬間、持っていたクレープを落としそうになった。




「マー君・・・・。」

「え?」




無意識に零れた呟きに、松尾君が反応する。

その声に私は慌てて視線を松尾君に戻し、なんでもないと笑ってみせた。

だけど私の呟きは松尾君の耳にははっきりと届いていたようで、すぐにマー君を見つけてしまった。

優しい松尾君の瞳が、一瞬にして鋭くなる。

それは、あの日私の家の前でマー君が松尾君に向けた視線と同じで、やっぱり二人には何かあるんだろうか?という疑問が再び湧き出した。




「松尾・・・・君?」

「仁王も彼女とデート中みたいだね。」

「え?」




言われてマー君の方へ向けば、マー君の隣には噂の彼女が腕を絡ませ寄り添うように立っていた。


一生懸命マー君に話しかけ、マー君の返事に笑顔を漏らす彼女。

マー君が彼女に笑いかければ、嬉しそうに頬を染め、上目遣いにマー君を見つめる。

周りにはもっとイチャつくカップルがいるのに、マー君と彼女がどのカップルよりも幸せそうに見えた。


あんなマー君・・・・初めて見た。


いつも彼女に冷たくて、彼女が可哀相だと抗議していたのは私だ。

マー君と彼女の姿は、本来あるべき恋人同士の姿で、どこもおかしい事なんてない。

やっとマー君にも本気で好きになった彼女ができた。なんとも喜ばしいことじゃないか。


・・・・喜ばしい?

そんなわけない。

喜ぶなんて・・・・・出来るはずない。



ズキリ――――



ずんと胸に響いた鈍い音が、胸に痛みを走らせる。

ヒリヒリとする切り傷でも、ズキズキする擦り傷でもない、言葉で言い表すには難しい痛みが胸を襲う。

痛くて苦しくてうずくまってしまいそう。




「中田・・・・?」




耳がキーンとして松尾君の声が篭って聞こえる。

返事をしなきゃと思うのに、喉が詰まって声が出ない。


目の前を通り過ぎていく人の波が、マー君達の姿を隠してしまう。

見たくないはずなのに、私の視線は必死にマー君を探す。


マー君・・・・・・


マー君・・・・・・


マー君・・・・・・




「中田!」

「え・・・?」




肩を揺さぶられハッと我に返った。

色を失くしていた視界に色彩が戻り、止まっていた時間が動きだす。


松尾君に「クリーム垂れてるよ」と指摘されて、ぐちゃぐちゃになるほどクレープを握り締めていた事に気づいた。




「わっ。ティッシュ・・・・。」

「動かない方がいいよ。俺が拭いてあげるから。」




形を崩したクレープを持った私の手を、松尾君が紙ナプキンで拭いてくれる。

子供をあやす様な目で見られて、恥ずかしさに顔を伏せながら「ごめん」と呟いた。




「俺も一口欲しかったんだけどな。」

「え?じゃぁもう1つ買って来る・・・・・」

「いいよ。これで許してあげる。」

「え?」




ぐちゃぐちゃのクレープからはみ出たクリームを指で掬い、私の下唇に乗せる。

ヒヤッとした冷たさと甘味が唇に広がる。

何をする気なんだろうと見つめた松尾君の顔が、一気に距離を詰めてきた。


冷たかった唇に触れた温もり。

キスされた・・・・・・・そう思った瞬間瞳の奥からじわりと涙が込み上げてきた。


ゆっくりと離された唇。

松尾君の真剣な目が私の瞳を覗きこむ。


だけど私の目は松尾君ではなく、松尾君の向こうに側にいたマー君の姿に向けられていた。

じっとこっちを見るマー君の視線。

無表情すぎて感情は読めないけど、こっちを見ているのは確か。


マー君に見られた。

キスしているところを、マー君に見られてしまった。


そう言えば前にも松尾君に抱き締められている所を見られた。

でもあの時はただ恥ずかしいだけで、こんなにショックじゃなかった。

マー君への思いを自覚してしまったから・・・・・・こんなに悲しくて苦しいんだ。


驚きで1度引っ込んだ涙が瞳を濡らす。

滲む視界の中でもはっきりとマー君の姿は見えて、それがひどく悲しくて余計に涙が溢れた。



松尾君を押し退けるようにしてふらりと立ち上がる。

どうすればいいのかなんてわからないけど、とにかくこの場を離れたかった。




「中田!」




掴まれた腕を振りほどく。

哀し気に瞳を揺らす中田君に、掠れ声で「ごめん」だけを告げそのまま背中を向けた。


私は馬鹿だ。


結局中田君を傷つけて、自分も傷ついて・・・・・。

失恋の傷を他人で誤魔化そうなんて、ズルをした罰だ。




遠くに見えていた観覧車のライトが点灯して、冬の夜空に浮かび上がる。

ゆっくりと進んでは同じ場所に戻る観覧車。

私もあの観覧車のように、同じ場所に戻れたらいいのに・・・・。


でも、もう戻れない。

もう・・・・・戻れないんだ・・・・。


次から次へと溢れる涙が自然と止まるまで、私は長い間観覧車を見上げていた。



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