学校から程近い所にあるたこ焼き屋。
味は絶品やけど、店が汚いせいかあまり客はいない。
やけど店のおっちゃんの愛想のよさと、麦茶が飲み放題ってことで、うちの生徒の溜まり場になっている。
部活後、友達とふらりと寄ってみれば、店の隅で一人ぽつんと座る光を見つけた。
「あれ?光やん。あんたなにしてんの?」
「たこ焼き屋でたこ焼き食う以外になにする事あるんすか?」
出会った場所がたこ焼き屋やねんから、そりゃたこ焼きを食べる以外ないやろうけど、
その言い方と顔が憎たらしいと言うか・・・・・ほんまに可愛くない!!
昔はもっと可愛かったのにな・・・・。
だんだん生意気になってきて、年下のくせに偉そうで・・・。
中学に入ってから使い出した敬語も、バカにされているようにしか思われへん。
「光一人なん?」
「謙也さんがさっきまでおったけど、なんや用事思い出したとかでマッハで帰りましたわ。」
「ふーん。」
友達と並んで光の向かいの席に座ると、ちょうどおっちゃんが光のたこ焼きを運んできた。
6個入りのはずやのに、トレイの上に乗ったたこ焼きは8個。
今日のおっちゃんは機嫌がいいらしい。
店主の機嫌でたこ焼きの数が増えるってどうなん?って感じやけど、それで多く食べれるなら文句はない。
それにおっちゃんは、特に女の子には甘い。
光で8個なら、私達は10個かもしれん。
4個もおまけがついてくるなんてラッキーや。
「顔、キモイ事なってるし。食い意地張りすぎちゃうますん?」
「うっさいわ!!」
「最近太ったみたいやし、ダイエットした方がええっすよ?」
「な、なんで太った事知ってんねんな!!」
太ったって言うたって2㎏くらいやし!!
見た目的にそんな変わってへんはずやのに・・・・・。
ふふんと鼻を鳴らすように笑う光を睨みつけるも効果はなし。
相変わらず仲いいな・・・・と笑う友達に、どこをどう見たら仲がよく見えんねんと眉間に皺を寄せた。
「はぁ。まあええわ。それよりはよ注文しよ。」
「祭先輩には俺の半分あげますわ。」
「はぁ?」
なんで光のを食べなあかん?
私が自分で頼めばいいだけやん?
意味がわからんと、さらに眉間の皺を深くする私の前に、爪楊枝に指したたこ焼きを突き出してきた。
「8個も食うたら太るやろうから、俺の半分で我慢せいってことっすわ。」
「余計なお世話や!!」
「食わんのすか?」
「食う!」
バカにされてるみたいでムカつくけど、くれるって言うもんは貰わな損。
そんな風に思う大阪人根性を悲しく思いながらも、そのたこ焼きに噛り付いた。
「うん。ウマイ!」
「指まで食われるかと思ったっすわ。」
「そんな大口開けてへんし!」
「はいはい。ほら、次。」
「ん。あーん。」
口に運ばれるがまま食べる私を、満足そうに見つめる光。
その顔がなんていうか・・・今まで見たことないくらいに優しくて、不覚にもドキンとする。
「これで3キロは痩せるんちゃいます?」
「や、痩せるわけないやろ!それに誰も注文せぇへんとか言うてへんし!これ食べたら頼むもんね!」
「ふーん。ま、頼めるもんなら頼んだらええんちゃいます?」
「なにその意味有り気な言い方。」
光はそれに返事はせず、ただ小さく笑みを浮かべた。
なんなんよ・・・・・その笑い。
「祭先輩、歯に青のりついてんで。」
「えっ!?」
「つーのは嘘で、ここにソースついてる。」
光の親指が、グイッと唇の端を擦る。
そしてそのままその親指をペロリと舐めるもんやから、私は目を剥いた。
「ひ、光!?」
「なんすか?」
「あ、あ、あんた・・・・・」
「祭先輩。顔めっちゃ赤いけど、どうしたんすか?」
こ、こいつ、わかって聞いてるー!!!
そのにっくたらしい笑みがムカつく!!
「まだ2個残ってるけど・・・・・どうしますん?」
「食べるに決まってるやろ!」
ムカつくのに、そんな光にドキドキする。
いやいや、違う。
これはたこ焼きが熱すぎたせいや!
そうに決まってる!!
「祭先輩。」
「な、なによ?」
「今度から、たこ焼き食う時は俺同伴って事でええっすよね?」
「はぁ?なんでやねん!」
「そしたらいつでも半分あげれますやん。ま、俺はそれ以外の時も同伴でええけど?」
「それってどういう・・・・・?」
「おっちゃんご馳走さん。また来るわ。・・・・・・今度は祭先輩と。」
意味深な言葉と視線。そして最後の一個のたこ焼きをを残し、立ち去っていく光。
ポツンとトレイに残ったたこ焼きが、『頼めるもんなら頼んだらええんちゃいます?」』と言った光の声を蘇らせる。
「祭。たこ焼き頼むん?」
「・・・・・ううん。なんか・・・・・・お腹いっぱい。」
冷めてぺちゃんこになっていくたこ焼きにとは反対に、自分の胸が熱く膨らんでいくのを感じていた。
お腹いっぱい胸いっぱい
(翌日。光とおったらすぐに満腹なんねんけど・・・・と言った私の言葉に、なぜか光は嬉しそうに笑った。)
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~恋~サマリクの光SSでした。
恋愛要素なしでいこうかと思ったんですが、出来上がってみればこんな感じになりました。ww
たこ焼き屋の設定は私の中学時代に本当にあったお店です。
おっちゃんの機嫌でたこ焼きの数が増えたり、店が開いてたり開いてなかったりします(笑)
今でもあるのかな・・・・?