綻び始めた梅の花のピンク色が、2日前よりも少し濃くなったように思う。
昨日の雨のせいで、やっと温かくなってきた気温がまたぐんと下がってしまった。
それでも春は近づいているのだ。
「はぁ・・・。」と大きくついた溜息で、窓が白く曇った。
私の心のようだ。
仕方がないとわかっていても、やっぱり寂しいものは寂しい。
4月からはお互い違う高校へと通う事になった私達。
もう・・・・同じ校舎で過ごす事はない。
幼い頃からずっと彼の姿を見て来た。
それももう・・・・後少しで終わってしまう。
もう1度窓に息を吹きかけ、白く曇った場所に人差し指を置く。
ひんやりとした冷たさを指先に感じながら、『アキラ大好き』と文字を書いた。
だけどそれはすぐに消えてしまって、窓の向こうの景色が戻る。
こんな風に私の中のアキラへの気持ちもスーッと消えてしまえば楽なのに・・・。
「どうしてアキラなのかな・・・・?」
「俺がなんだよ?」
静まり返った教室に響いたその声に、びくんと肩が跳ね上がる。
ついでに心臓も大きく跳ねた。
恐る恐る振り返れば、学ラン姿のアキラが教室の後の扉からこちらに向かって歩いて来る。
「ア、アキラ・・・どうして・・・?」
「梨花の姿が下から見えたからさ。」
梅の花ばかりを見ていて、アキラがこっちを見ていた事に気かなかったなんて・・・。
ボーっとした顔を見られたのかと思うと恥ずかしい。
アキラが私を見つけてここまで来てくれた事に喜びを感じながらも、
恥ずかしさとドキドキで、彼を真っ直ぐ見る事ができなくて、
私の前の席の机の上に座ったアキラの膝辺りへ視線を落とした。
「で?俺がなんだって?」
「へ?」
「『どうしてアキラなのかな?』って言ってただろ?」
呟くほどの小さな声だったはずなのに、アキラの耳にはしっかりと届いてしまっていたようだ。
焦りと動揺で視線が泳ぎ頬が引き攣る。
「いや・・・それは・・・・えっと・・・・」
「なんだよ?」
「ど、どうして私の幼馴染はアキラなのかな・・・・?って。」
「はぁ?意味わかんねぇ。」
「や、だから・・・・もっとカッコイイ幼馴染だったらよかったな・・・・ってね。」
「・・・・悪かったな。俺みたいなのが幼馴染で。」
違うのに。
そんな事を言いたいわけじゃないのに・・・・。
顔を合わせればいつもこう。
可愛くない事ばっかり言って、アキラを怒らせて・・・・・。
どうしてアキラを前にすると素直になれないんだろう。
「はぁ・・・」
自分で自分が嫌になる。
アキラの視線から逃げるように顔窓に向けながら溜息を吐き出した。
その次の瞬間。
「あぁ~!!」
「えぇ~!?」
私とアキラの叫び声が同時に響き渡った。
窓を指を指して口をパクパクさせるアキラと、その前に立ち塞がる私。
立ち上がった時に椅子が倒れたけど、そんな事気にしている場合ではない。
「い、今の・・・・・」
「見た!?見たの!?」
返事を聞かずとも、これ以上ないくらい真っ赤に染まったアキラの顔が『見た』と言っている。
アキラに知られてしまった。
ずっと隠していた私の気持ちを・・・・
いたたまれない恥ずかしさに涙が溢れそうになって、その顔を隠すように鞄を掴み扉に向かって駆け出した。
だけど数歩も行かないうちに腕を掴まれてしまう。
振り払えないほどの力でもなかったけど、私は大人しく足を止めた。
「あれって・・・・梨花が書いたんだよな?」
「・・・・・・・・・・。」
そうだよ。なんて恥ずかしくて言えない。
もうバレバレだとしても、それを認めてしまう勇気はない。
でも、否定もしないのは・・・・・・こんな風に引き止めてくれた『理由』を、期待しているから。
「梨花の気持ち知ってからこんな事言うのは、ずりぃと思うけど・・・・」
掴まれた腕の力が強くなる。
掴まれているのは腕なのに、心臓を掴まれたように苦しい。
ドキドキと大きくなる鼓動。
どんどんと膨らんでいく期待。
「俺も・・・・・梨花が好きだ。」
後から抱き締められた温もりは、まるで春の暖かさのように優しくて・・・・・・
長い間蕾のままだった私の心の花が、やっと花開いた。
白く浮かんだ告白
(この窓貰えねぇかな?)
(貰えるわけないでしょ!!)
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梨花さんリクの神尾SSでした。
神尾も初書きです。
学プリやってイメージ掴もうとしましたが、成功したかは不明です。←