丸井vs仁王連載  エピローグ (完結) | 肝っ玉かあちゃんのひとり言

肝っ玉かあちゃんのひとり言

妄想の世界に逝っちゃってるヤツの戯言

このお話は高校2年という設定です。
そういうのが苦手な方は観覧にご注意ください。


続き物となっております。 こちら↓を先にお読みください。


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絵梨ちゃんと別れた後、私は真っ直ぐと家に帰った。


今すぐブン太に逢いたいという想いはあったけど、

それと同じくらい、逢うのが怖かった。



ブン太と別れる時についたあの嘘を、今更信じてもらえるのか・・・・?

それ以前に、まだブン太に私を好きだという気持ちが残っているのか・・・?



そればかりが頭の中をぐるぐると回った。



『ブンちゃんと幸せになってね』



そう言ってくれた絵梨ちゃんの気持ちを考えれば、怖がっている場合ではないのだけど、

それでも気持ちを奮い起こす事が出来なくて、ベッドの上で小さく丸まるように膝を抱えた。


ブン太の携帯の番号もメアドも消してしまったけど、携帯の番号だけは今でも覚えている。

それに夏休みだけどブン太は部活があるはずだし、学校に行けば会えるだろう。


ブン太と連絡をとる手段なんて探せばいくらでもある。

いざとなれば家に押しかける事だって出来るのだから・・・・


それでも私は、ベッドの上から動く事が出来ずにいた。



ふとCDラックに立てかけられたCDに目が行った。


ブン太と別れてしばらくした頃に靴箱に入っていたものだ。


数曲・・・・しかも前奏を聴いただけのCD。


私はのそのそとベッドを降り這うようにしてラックの前まで行き、

CDを手にとってコンポにセットした。



流れ出したメロディに懐かしさを感じ、ベッドの上でしていたように、

今度はコンポの前で膝を抱え丸くなり、瞳を閉じた。



これは初めてブン太と一緒に聞いた曲。

アップテンポな曲で、ブン太らしい曲だと思った。

歌詞は愛を盛大に叫ぶ情熱的な歌詞で、

なんとなく一緒に聞いてて恥ずかしかったのを覚えている。


「なに?照れてんの?」

「違うよ。」

「こんな風に愛を囁かれたりしたいとか?」

「だから違うって!!」


そんな会話が鮮やかに思い出される。


2曲目は、過ぎた季節を振り返り、これからも共に歩んでいこう・・・

なんて感じの大人びた印象のバラード。


3曲目も・・・4曲目も・・・・・・、アーティストや曲調、ジャンルは違ったけど

どの曲も熱い愛を語る男性目線の歌詞だった。


ふと心に浮かぶ・・・・・



この選曲はワザとなんだろうか?

何かのメッセージだったりするのだろうか・・・・? 



確かにどの曲も一緒に聞いた覚えはあるし、ブン太も好きだといっていた曲。

だけどお気に入りの曲はもっと他にもあったし、「この曲スゲー好き!!」と言った曲が

いつまでたっても流れてこない。



ただ単にブン太が好きな曲なわけじゃない。

ただ一緒に聞いたからというわけじゃない。


だとしたら・・・・・・?



妙な興奮に胸がざわつきだす。



10曲目のメロディが流れ出した。


すぐにその曲が何の曲か気づく。


この曲は・・・・・・・・・



「いい曲だと思わない?」

「メロディはいいけど、歌詞があんま好きじゃない。」

「悲しいから?」

「なんか女々しいだろ?去って行った女に、戻ってくるのをいつまでも待ってる・・・なんてさ。」



ブン太はそう言って、その曲を歌う時、鼻歌でメロディを刻みはしたけど歌詞を口にする事はなかった。



その曲がなんで・・・・・・?



口の中がパサパサして、唇が乾く。

胸の動機が早くなるのを感じた。



その曲が終わると、CDは静かに回転を止め、ディスプレイには総時間が表示された。



静まり返る部屋。

だけど私の耳の中には、さっきの曲がいつまでも流れていた―――――








夜になっても気温は高い。

それでも今日は風があるせいか幾分涼しく感じた。


住宅街の中にある公園は、公園の真ん中に街灯が1つあるだけ。

小さな公園とはいえ、それだけでは中を全て照らし出す事はできない。


だけど私はその暗さがちょうどよかった。


恥ずかしくて赤くなった顔も、泣きそうな気持ちを隠して浮かべた微笑も、

その暗さが隠してくれたから・・・・・・・



もう来ないと誓った公園。

全ての想いを封印したはずの公園。



私はその公園の前に立っていた。




ブン太からのあのCDに込められたメッセージが、もし私の自惚れでないのなら・・・・・・

ブン太は私と寄りを戻したいと言ってくれている。


私の嘘を信じたのか、信じていないのか、それはわからないけど、

それでも私ともう一度、同じ時を歩んでいきたい。


そんな想いが込められているように感じられた。



それは不安で震え、踏み出せずにいる私の背中を大きく押してくれたけど、

ただ、CDをもらってから1ヶ月が経ってしまっている事が、私の心をぐずつかせた。


これは1ヶ月前の話であって、今でもそうなのかはわからないじゃないかと・・・・


だから私は、ブン太に会いにいく勇気をつける為に、

この公園に埋めた、テニスボールを掘り返しに来たのだ。


あのボールがあれば、もう1度ブン太にぶつかっていける気がしたから・・・・・




軽く深呼吸をし、公園の中へと足を踏み入れた。

ジーっと耳鳴りのような虫の鳴き声に混じり、ジャリッと砂を踏む靴音が響く。


懐かしいその響きに、思い出が溢れかけた時、

視界の端でサッと影が動いた。



誰かいる・・・・?



視線を向けた先は、私とブン太がいつも座っていた・・・・

思い出のテニスボールを埋めた、あのベンチ。


薄暗い灯りの中で浮かび上がった人影は、

私と同じように、立ち尽くしたまま私をじっと見ていた。




「歌織・・・・・・・・」

「ブン・・・・・太?」




ドクン――――



懐かしいその声に、血が沸き立つような感覚が身体に走り、

脈打つ鼓動が耳奥で鳴り響く。


声にならない声が、喉の奥を震わせ、

声を出す事も、身動きする事も、瞬きする事さえできない。



突然出会ってしまった事への、驚きとか、戸惑いとか・・・・

まだ名前を呼んでくれた事の喜びとか、嬉しさとか・・・・・


そんな感情さえも感じられぬほどに、私の心は動揺していた。




「ここで待ってたら・・・・・絶対逢えるって信じてた。」




1歩・・・・1歩とブン太が近づく。

薄暗らさで隠れていた表情が、街灯の灯りに照らし出された。


鮮やかな赤い髪。

幼さを残した大きな瞳。


最後にこの場所で見た時と何一つ変わらない。


だけどどこか男らしく、そして大人びえて見えて、

動揺とは違う動悸が胸を激しく打った。



ふと目ブン太の手に握られているものに気づく。


なぜそれが・・・・・・・?




「それ・・・・・」




小さく掠れはしたけど何とか声がでた。


私の視線がどこに向いているのか気づいたブン太は、

その手を胸の当たり前上げた。




「雨の次の日にここに来たら、地面から黄色いのが見えててさ。掘り出してみたら・・・これだった。」




ブン太が手に持っているのは、紛れもなく私が埋めたテニスボール。

深く埋めたはずなのに・・・・・・・・。




「歌織と逢えたら渡そうと思ってずっと持ってた・・・・・」

「・・・・え?」

「ジャッカルの顔は消えちまったけど・・・・代わりに俺の気持ち書いたんだ。」




「受け取ってくれねぇ?」


そう言って私の目の前まで来たブン太は、私にボールを差し出した。


汚れて茶色くくすんだテニスボール。


恐る恐る手を差し出す・・・・・。

その上にブン太がゆっくりとボールを置いた。



掌でころりと転がったボールには


『好きだ』


その3文字が書かれていた。



ドキドキと胸が上下する。

大きく息を吸っては吐き出して、うまく呼吸ができない。



やっと動き出した思考に、1番に浮かんだ想いは


『ブン太が好き』


ただそれだけだった・・・・・。




「ブン太・・・・・・っ!!」




身体が自然と動いた。

目の前のブン太の胸に飛び込む。


確かに感じたその温もりに、頬に涙が伝った。




「歌織・・・・・お前が好きだ。もう絶対離さねぇ・・・・。」




お互いの存在を確かめ合うように、そして1度離れた想いを重ねあうように・・・・・

私達は長い間抱きしめあっていた――――











「それ、この間行った旅行のお土産。」

「なんじゃ俺へのあてつけか?」

「なんでよ。お礼だよお礼。」




迎えた新学期。

夏休みは終わったけど、まだまだ夏日和である。


講堂で行われる始業式に向う途中、私は仁王君を屋上へ誘った。


夏休み最後にブン太と行った旅行先で買ったお土産を渡すと、

意地悪いからかいが返ってきた。


仁王君とこうして話すのは、あの海岸以来・・・・。


何も変わらぬ仁王君の態度に、心でありがとうと呟く。




「うまくいっとるようじゃのう。」

「うん。おかげさまで。」




仁王君へは、ブン太が「俺から話す」と言っていた。


ブン太がCDで想いを伝えようとしたのも、あの公園で私を待つと決めたのも、

仁王君が相談に乗って、背中を押してくれたからだと聞いている。


仁王君には私もブン太もお世話になってばかりだ。


私からもちゃんとお礼を言いたいと思っていたけど、ブン太があまりいい顔をしないので

今日まで顔を合わす事も、話をする事もできずにいた。




「仁王君・・・・・本当にありがとう。」

「別に俺は礼を言われるような事はしとらん。」




仁王君らしい。


本当は「ごめん」と言う言葉も伝えたかったけど、それは口にしてはいけない気がして

もう1度「ありがとう」と、微笑んだ。




「ま、何かあったら俺に言いんしゃい。」

「もう何もないよ・・・・。」

「相手はブン太じゃ。何があるかわからん。その時はいつでも奪いに―――」

「何もないっつーの!!人の彼女勝手に口説くな!!」




ギュッと腰に腕が巻きつき、温もりが背中を包む。

背中越しに見上げたブン太の顔が、拗ねたように仁王君を睨んでいて、

おかしくて笑ってしまいそうになる。


仁王君はブン太がいる事を知っていたんだろう。


私達ってこれからこうやって遊ばれ続けるのかも・・・・?と、思うと少し気が重いけど、

またこうして笑いあえる事がとても嬉しかった。


仁王くんから守るように私を抱きしめるブン太に、仁王君はニヤニヤと口端を上げながら、

「西崎も大変じゃのう。まぁ、頑張りんしゃい」と、手を振って屋上から去って行った。



遠くで屋上の扉がばたんと閉まる音が鳴ると同時に

グイッと顎を掴まれて、唇にブン太の唇が重なった。


抱きしめる腕の力も強く、いつもより強引な口付け。


息苦しくて、食い込む腕が少し痛い。

それでも繰り返される口付けに、心が喜びで震えているのがわかる。


ブン太を求めるように私も背中に手を回し、

止む事のない口付けを受け止めた。



唇が離れた時にはお互い息も上がり、私は一人で立っていらえずブン太の胸に身体を預けた。


2人っきりになった屋上。

仁王君といた時とは違う甘い感情が胸をドキドキと鳴らす。


ブン太の胸からも同じように早い鼓動が聞こえて、

同じように感じてくれてるのかと思うと嬉しくて頬が緩んだ。




「お前さ、仁王と二人で会うの禁止な。」

「ブン太のヤキモチ妬き。」

「そうだよ。・・・・・悪ぃーかよ。」




意外とヤキモチ妬きで、人前でもすぐにこうして私を抱きしめてくるブン太。


でもそれは・・・・ただ嫉妬して愛情を押し付けているわけじゃないと知ってる。




「お前が好き過ぎてどうにかなりそう・・・・・・」




ブン太のストレートな言葉に顔が熱くなる。


どうにかなりそうなのは私の方だ。



肩に額を乗せていたブン太が頭を起こし、胸に抱く私を見下ろす。

眉を寄せて困った顔を見せたブン太が、サッと視線を逸らした。




「あぁ~なんかすんげー情けない男じゃね?嫉妬とか・・・カッコわりぃ・・・・。」
「ブン太・・・・・。」

「でもそれは・・・・それだけ歌織が好きだって事だからな!」




照れ隠しなのか怒鳴るブン太に、我慢ができず笑い声を上げてしまう。




「笑ってんじゃねーよ。」

「あはは。だって・・・・嬉しいから。」

「え?」

「嫉妬してくれて嬉しいよ。不安になる暇もないくらいブン太が好きって伝えてくれて嬉しい・・・・。」

「歌織・・・・」




ブン太が、嫉妬したり人前で抱きしめたりするのは、

私が不安にならぬようにするため・・・。


もう二度と傷つけないと誓ったくれたブン太は、

あれから言葉も態度もいつも素直に伝えてくれる。




だから私も・・・・素直な想いを伝える・・・・・




「私が心から好きなのも、全てを捧げられるのもブン太だけ・・・・・ブン太だけだよ。」




たくさん傷つき、たくさん泣いて、それでもブン太だけを想い続けた。


諦めたつもりでいても、忘れたつもりでいても、結局はブン太に惹かれてしまう。


ブン太に恋する為に生まれてきたなんて言ったら大袈裟かもしれないけど、


きっと私は、ブン太以外の人を好きにはなれないんだと思う。


こんなに好きだと思えるのも、こんなに愛しさを感じるのも・・・・・ブン太だけ・・・・・




この先もずっと未来が続く限り、私の身も心も・・・・・・



                  ただ、あなたのためだけに――――





    Just for you




~Fin~

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★あとがき★

『Just for you』 無事完結いたしました。

42話と言う長い話となりましたが、最後までお読みいただきありがとうございます。


最初からお付き合いいただいた方、途中がらお読み下さった方など様々だとは思いますが

楽しんでいただけたなら幸いです。


このお話は書上げる前からストーリーが出来上がっていたので

けっこうスムーズに書けたきがします。

あまりの仁王人気に「やっちまった!!」と焦ったり、

終盤ちょこっとスランプに陥りそうになったり・・・ってのはありましたけどね。ww



最近の高校生の恋愛がどんなもんかわかりませんが、書いててすごく懐かしい気持ちになりました。

第3者からみればつまらない事だったり、過ぎてみれば馬鹿だな・・・って笑える事も

その時は必死に悩んで、泣いて、もがいて、全身で恋してた気がします。

そんな熱い恋が出来るって素敵な事ですよ。


たまに独身の友達や後輩から恋愛相談を受けますが、

失恋したと言って泣いている友達が時々羨ましく思う事があります。

泣くほど人を好きになれるっていいな・・・って。


このお話を読んでどう思われたのかはわかりませんが、

「熱い恋してみたい!!」「恋愛って素敵だな」と、思ってくださった方がいらしたら嬉しいですね。


人生恋愛が全てではないですけど、恋愛っていいと思いますよ。

片思いだって失恋だって立派な恋愛ですし、どんどん恋して欲しいと思いますね!


ま、こう思うのも、私が結婚して子供も生まれちゃってるからかもしれませんが・・・・(苦笑)



あとがきが長くなりましたね。

この辺でそろそろ〆たいと思います。


皆さん、最後までお付き合いいただき本当にありがとうございました。



2010.1.14  雪萌