本物をひたすら見つめる | The Sence of Wonder

The Sence of Wonder

呼吸器医として、喘息・結核の診療の傍ら、卒煙支援もしています。
二児の母として、妻として、医師として・・・
日常のほんのちょっとした Sense of wonder を発信しています。

先日、我が家の鈴虫の赤ちゃんたちが孵りました。
生まれたばかりの鈴虫は2mmぐらい、
体も白くて、本当に米粒みたい。
娘と二人、とにかくじーっとみています。

「夏休みこども科学電話相談」でもおなじみの
ぐんま昆虫の森園長の矢島稔先生が
先日、ラジオでこんな話をしていました。

 近頃、子どもたちの質問が少し変わってきたように思える。
 なんとなく薄っぺらいというか、厚みがないというか。
 本で読んだりして、知識はすごくあるんだけれど、
 本物をじっくりと観察して、

 そこからでてきた不思議っていうのが減ってきた。

 たとえば虫を卵から孵化して、成虫になるまでを
 とにかくじっと見てきた子からでた質問は、

 ぜんぜん重みが違う。

「ボクは絵を描きたいのではなく、
 鳥やケモノが好きでたまらないから
 その姿を絵に描いているのだ」

これは、動物画の薮内正幸さんの言葉です。

吉祥寺美術館「動物画の奇才・薮内正幸の世界展」を見てきました。

女医・ゆきみんと先生の診察室から

ヤブさんこと、薮内正幸さん。
図鑑や動物絵本の、躍動感あふれる動物画を数多く手がけた方です。
サントリーの愛鳥キャンペーンのポスターといえば
記憶にある方も多いのではないでしょうか。

彼は、小学生のときからひたすら動物が好きで好きで、
暇さえあれば天王寺動物園に通って、目的の動物のオリの前で
日がな一日、鉄柵に顎を乗せ、微動だにせず見ていたそうです。

文通を通じて知り合った国立科学博物館の動物学者、
今泉博士に送った手紙にそえた動物のペン画が、
素人ながら動きといぶきがあり
「動物が好きでないとかけない絵だ」と認められ
のちの彼の人生を決めることになるのですが、
彼は高校を卒業して上京した後、動物図鑑の標本画を描くため、
ひたすら今泉先生の研究室に通って、
何年間も動物の骨格と筋肉をスケッチし続けたそうです。

レイチェルカーソンはこういってます。

 子どもにとっても、どのようにして子どもを教育すべきか
 頭を悩ませている親にとっても、「知る」ことは
 「感じる」ことの半分も重要ではないと固く信じています。

 美しいものを美しいと感じる感覚、新しいものや未知なものに
 触れたときの感激、思いやり、憐れみ、賛嘆や愛情などの
 さまざまな形の感情がひとたびよびさまされると、
 次はその対象となるものについて
 もっと知りたいと思うようになります。
 そのようにして見つけ出した知識は、しっかりと見につきます。

ヤブさんの絵を見ていてると、この言葉、
そして矢島先生の言われたことが、すごく判る気がしました。

井の頭自然文化園で共同企画された
「薮内正幸氏の動物絵本を楽しむ」もあわせて見てきました。

娘はモルモットとたくさん触れあえて嬉しかったよう。
かわいい姿が間近で見られるリスの小径もお勧めです。

薮内さんの絵本でリスがくるみを食べる姿を見ていた娘が
実際に目の前でリスがくるみを上手に食べているのを見て
「ごほんとおなじだ~」とよろこんでいました。

女医・ゆきみんと先生の診察室から

薮内さんの絵は、本当に動きも表情も精巧で
目の前のリスが、まるで絵から飛び出してきたように、
私にも思えたのでした。

2000年に60才の若さで亡くなられたヤブさん。
駄洒落の「裏ヤブ作品」も楽しませていただきました。
今度、白州の美術館をたずねてみようと思います。