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「失うものなど、何もない」

都心近郊の風呂無し共同便所、家賃2万3000円。コタツに万年床の四畳半で過ごした二十歳の頃、半ば本気で思ってた。

 

共用の玄関、みしみし軋む板張り廊下、古色蒼然な木枠の窓。

住人はみな同郷の先輩で、部屋に鍵をかけることなどほぼ無かった。

 

深酒した翌朝、目覚めると見知らぬ女性が部屋に立って、わたしを覗き込んでいた。何が起きたかわからず固まっていると「あのう、漬物買ってもらえませんか?」…金など無いのは解りそうなものなのに。

 

年号が平成に変わり、首相が何人も入れ替わっていった。

アパートが取り壊され、定食屋が潰れて、銭湯が消えていった。

すっかり様変わりした街で、あの頃と少しも変わらないのは、星が見えない夜空くらいだ。

 

「失うときには、何もかも」

五十代半ばを過ぎ、上京した頃の父親の歳も超えて。

いつしか遠くまで来てしまったわたしは、家族や健康、信用…絶対失いたくないものを両手に抱えて、よたよた歩き続けてる。

 

何も持ってなかった、でも夢も希望もあった頃。遠い記憶の彼方に霞んでいく二十歳のわたしは、星の見えない夜空を見上げて、いったい何を願ったのだろう。

 

夜空に浮かぶ雲と街の光

 

ユッコこと岡田有希子さんは、両目の視力が0.1以下だったといいます。彼女がどんなに目を凝らしても、東京で夜空の星を数えることができなかったと思うと切ないです。

photo by yukikostarlight