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時刻表の片隅にひっそりと載っている、その列車の行先は「明日」。
燻んだプラットホームに辿り着けば、古色蒼然とした濃紺の客車が旅人を待っていた。手動の乗降扉には、真鍮の取手が鈍く光っている。
A寝台車の二段ベッドで早くも寝息をたてている、カーテンを閉めた誰にも内緒の夢。
三段ベッドがずらり並ぶB寝台車に集うのは、美しき世界への憧れ。
グリーン車で赤い背もたれを深く倒して憩う、願いが叶った喜び。
そして、直角な背もたれが硬い普通車に陣取る、眠れぬ夜の悲しみ。
さまざまな旅人たちを乗せて、人生の縮図みたいな夜汽車はゆっくりとホームを離れていく。
車内の古めかしいスピーカーから、儚げなオルゴールの音色が静かに流れる。どこか懐かしいそのメロディーは、かつてユッコこと岡田有希子さんが唄った「ロンサム・シーズン」。
〝♪ソレハイツモ ハシャギスギタ キセツノアトニ ヤッテクル…〟
窓の外に流れ去る街灯りはやがて消え、漆黒の闇になった。
やがて夜が明ければ、真っ白なアルプスの山々が、きっと旅人を慰めてくれるはずだ。
この駄文は「やこうれっしゃ」という絵本から着想しました。1983年初版のこの本はいまでも版を重ねていて、新幹線がなかった頃の汽車旅の一夜を垣間見れます。
photo by yukikostarlight