ユッコこと岡田有希子さんと同じ1967年に誕生した、世界初の「寝台電車」国鉄581系特急型電車※1。
西日本地域専用の電車として、当時新大阪までだった新幹線からリレーし、九州方面を結ぶ連絡特急としてデビューしました。車体の塗り分けは新幹線のイメージに合わせ、淡いクリーム色に窓周りを濃いブルーに。先頭車両はそれまでの特急電車のボンネット型から仮面のような丸妻形状になりました。また出入り口の幅の狭い折戸は、かつて〝動くホテル〟と呼ばれた元祖ブルートレイン・20系寝台客車のドアの形態を踏襲していました。
大分からの昼行特急「みどり」は新大阪で折り返して博多ゆき寝台特急「月光」として、まさに休む間も無く走り続けました。この電車が生まれた背景として、新幹線が開業した1964年以降は毎年赤字決算だった当時の国鉄による〝昼は座席車・夜は寝台車となる車両を開発すれば、それぞれ専用の車両を製造する半分のコストで済む!〟との発想があったそうです。
やがて東北本線の電化に伴い既存のディーゼル特急を電車化するため、全国の電化区間を走れる583系電車が新たに製造されました。こんにちでは、この電車を愛する人びとからゴッパーさんと呼ばれていますね。
青森から鹿児島まで、昼夜分かたず日本中を神出鬼没に走り回っていた581・583系電車は、まさに高度成長を続ける日本経済を体現したような、鉄路に躍る〝月光仮面〟でした。
ユッコさんのラストアルバムとなった「ヴィーナス誕生」。
1曲目「Wonder Trip Lover」の作曲者・坂本龍一さんは、この曲の詩とタイトルを変えてセルフカバーし、「ヴィーナス誕生」の一カ月後にリリースされた自身のアルバム「未来派野郎」に収録しています。つくった本人にも、思い入れのある一曲なのでしょう。
この曲「Ballet Mécanique」を作詞したのが坂本さんのパートナーだった、青森県出身の矢野顕子さん。彼女は帰郷でよく利用した583系電車寝台特急「はくつる」にひとかたならぬ思い入れがあるらしく、なんとこの電車をテーマとした「Night Train Home」という曲まで発表しています。
この曲の歌詞がまた実にマニアックなんです!ご興味のある方は検索してみてください。
〝月光仮面〟に訪れた第一の転機は、新幹線が博多に至った1975年に九州連絡特急としての役目を失ったこと。そして第二の転機は1982年の東北新幹線開業により、東北・北海道連絡特急としての役割もなくしたこと。そうして400両以上も製造された581・583系電車は、その多くが失業することになりました。
その頃九州や北陸・東北など各地で、普通列車に使われていた老朽客車を置き換えるための電車が不足していました。こうして世界初の寝台電車は、稼働15年目にして特急列車から普通列車へと加齢なる?転身を遂げることになったのでした。
改造され車体の色も塗り替えられた581・583系改め、九州・東北向けの715系、北陸向けの419系電車。
各車両に1カ所から2カ所に増やした出入り口は、特急時代の狭い折戸と全く同じだったせいで、通勤ラッシュ時の乗り降りに時間がやたらかかって不評だったとか。三段ベッドの上段・中段は、撤去されず格納時の状態で固定されていたそう。車内で長い時間を過ごす寝台列車の特徴である、各車両に2カ所あったトイレや3つ並んだ洗面台。これらは大きなカバーを付けられそのまま車内に残っていたという、すごい魔改造・やっつけ仕事?ぶりだったようです。
極め付けは、特急列車時代に1列車12両だった編成を3両に再編するにあたり不足した先頭車両を補うため、中間車に無理やり運転台を後付けしたこと。その結果、もと寝台車ならではの天井の高さもあいまって山型食パンの断面のような面構えの、〝食パンマン〟電車が爆誕したのでした。
そんな「元・世界初の寝台電車」たちは、なんと寝台電車時代よりずーっと長い時間を「(もと特急用だけに)乗り心地のいい普通電車」として、乗客に愛されて過ごしました。最後まで残った北陸の419系は、2011年まで活躍していたそうです。
さて、この元寝台電車たち。まるで〝アイドルとして世に出たあと路線変更がうまくいって、その後の芸能人生を全うしているタレントさん〟のようだと思いませんか?
一方で、同じ時期にデビューしたのに、短い生涯を終えた悲運の機関車※2がいたりするのに。
ああ、ユッコさんが月光仮面だったら。食パンマンになったって、全然よかったのに。
…ユッコファンになった鉄オタの妄想は、線路とともにどこまでも続くのでした。
photo by yukikostarlight
※1↓今回取り上げた583系について、当ブログで最初に触れた記事です。
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