「無名の人生」
を観てきました。
ストーリーは、
ある男が東京から仙台の田舎に帰ってくる。タクシーに乗り、ある広い場所で降りると丘の上に立つ屋敷から銃で彼を狙っているのだが撃たれることはなく、彼はその場を離れる。タクシー運転手の女性と恋に落ち子供を設けるが、別れることとなり、女性は再婚をする。
再婚をした数年後、元夫と再会しコンビニで談笑をしていると老人の運転する車が飛び込んできて二人を轢いてしまう。男は即死、女は意識不明となり、その瞬間を息子が全て見てしまう。
その息子せいちゃんは、仙台の団地で暮らす、いじめられっ子の孤独な少年となる。母と再婚した義父に育てられ、事故からはほとんど話をしなくなってしまった。そんな息子の前にキンという転校生が現れる。彼はアイドルグループが好きで、せいちゃんの父親が入っていたアイドルグループを推していた。
せいちゃんは父親の背中を追ってアイドルを夢見るようになり、思いがけず成りあがっていく。しかし事務所社長の性的虐待の事実を知りブチ切れて傷害事件を起こしクビ。その容姿でホストとなるが騙されて半殺しにさせられ捨てられる。そこから神様になったり、俳優になったり、さまざまな呼称で呼ばれながらも「誰からも本当の名前を呼ばれることのなかった男」は100年の生涯を終える。後は、映画を観てくださいね。
この映画、全く知らなかったのですが、川崎チネチッタで上映する作品だったので、時間合わせで観てみたら、これが凄かった。全然宣伝をしていないので知らなかったのですが、これは凄い作品でした。沢山の人に観て欲しい映画だと思いました。私は観逃さないで良かった。
ある男の100年の生涯を描くのですが、その両親の話から始まります。この両親、老人が運転する軽トラックにひき殺されます。そしてその老人は痴呆症があるとかで不起訴になるんです。どんなに老人で痴ほうだと言っても罪は償わせようよ。それに車の運転を止めなかった家族に罪を償わせるべきです。ずっとおかしいと思ってました。痴ほうでも精神病でも罪は償わせるべきなんです。映画ではずっとその老人と家族を憎んでいて、最後には神の裁きが下ってましたけどね。
そして息子のせいちゃん。彼は父の後を追ってアイドルの道に進むんです。それ実は罠が貼ってありまして、せいちゃんがアイドルになるように仕組まれているんです。これ”あの事務所”のことだと思うけど、えげつない事してたんだなと思いました。きっとこの映画の通りのことをしてたんだと思うのよね。それを拒否すると潰されることになり、せいちゃんの父親もそうだったんだろうと想像がつくんです。
せいちゃんの人生は、まるで神の手のひらの上でコロコロと弄ばれているように天国と地獄を行ったり来たりするようになるんです。彼は意図していないのに、勝手に周りが動いて彼の人生は変わって行ってしまうんです。せいちゃんの人生は動きが激しいですが、人間生きていれば誰にでも色々な出来事が起きるし、自分ではどうしようもない事が多いのも事実だと思います。それでも生きていかなければいけないというのはどうしてなんだろう。
生きるのが嫌になったら自分で死ぬ選択肢もありだと思うのですが、それを良しとするところはありません。いつも”生きろ”と言ってますよね。確かにその方が可能性が広がるし面白いけど、人間って逃げ場があった方が頑張れるんじゃないかなぁ。
とにかくこの映画、社会で問題となった出来事を取り入れて、実際に自分の身に起こったらどう思うのか、自分の心の中でどう折り合いをつけていくのかを描いていて、どうしても納得が出来ないことはやっぱり復讐しようと思うし、嫌な事をされそうになったら反撃するだろうという考えを描いていました。
それにホストの世界の酷い状況や、新興宗教のご都合主義や、戦争になったらどうなるかなどなど、考えさせられるお話が沢山入っていました。この内容は何度か観ないと全部を理解出来ないかもしれません。アニメーションなのですが、全部を説明せずに絵だけで伝えていたりと、あまり説明する部分が無いんです。それがまた素敵なんですけどね。
このアニメーション、鈴木監督がクラウドファウンディングで製作費を集め、お一人で作成されたと書いてあり驚きました。長編映画を初めて製作されたそうで、最初っからこんなにブッ飛ばしちゃって大丈夫なんでしょうか。最初の作品からこんなにレベルが高かったら次からも辛いと思うのだけど。いやぁ、次から凄い期待がかかっちゃうだろうから大変かもしれませんが、もっともっと彼の作品が観たくなりました。
あまりにもレベルの高いアニメーションだったので、ちょっと興奮してしまって、感想がバラバラしていたかもしれません。ごめんなさい。それくらいカルチャーショックを受ける作品でした。これ、もっと宣伝して欲しいなぁ。口コミ広がらないかなぁ。このまま上映が終わってしまったら勿体ないです。もっと色々なところで上映して欲しい。
この映画は誰が観ても、思い出すニュースがあるだろうし、主人公の行動に共感出来る部分もあるだろうし、これまでの色々な出来事を思い出しながら、未来に起こるかもしれない出来事に想いを馳せることになると思います。そして生きるとは何かと考えることになると思いました。
私はこの映画、超!超!お薦めしたいと思います。流されて生きるのも人生だし、時には抗うのも人生。最後に良かったと思えたら良いですよね。そんな事を思う映画でした。ぜひ、観に行ってみてください。
ぜひ、楽しんできてくださいね。
「無名の人生」