【東京国際映画祭2024】
「雨の中の慾情」
を観てきました。
ストーリーは、
貧しい北町に住む売れない漫画家の義男は大家の尾弥次から、自称小説家の伊守とともに引っ越しの手伝いに駆り出される。そこで福子と出会った義男は彼女にひかれるが、彼女にはすでに恋人がいる様子。伊守は裕福な南町PR誌を真似て北町PR誌を企画するが協力者が詐欺を働き、やがて福子と伊守が義男の家に転がり込み、3人の奇妙な共同生活が始まる。
というお話です。
貧しい北町に住む売れない漫画家・義男は、怪しい商売をしているらしい大家の尾弥次に自称小説家の伊守とともに引っ越しの手伝いに駆り出される。軽トラックで着いたのは、離婚したばかりだという女性の家だった。女性の名は福子という。
艶めかしい福子に心奪われた義男。一人住まいを始めた福子はカフェの女給を始め、人気となっていた。義男も彼女のカフェへ通うが、そこで会った伊守に「福子を狙っているんだろうが彼女には付き合っている男がいるようだ。」と言われる。
伊守は自作の小説を掲載するため、怪しげな出版社員と裕福な南町で流行っているPR誌を真似て、北町のPR誌を企画する。その広告営業を手伝わないかと言われ、無理やり駆り出される義男。ほどなく出版社員が詐欺で捕まり、福子と伊守も追われて、義男の家に転がり込んでくる。伊守と福子は既に付き合っていたのだった。
義男は福子への思いを抱えたたま、三人の奇妙な共同生活が始まる。そして…。
目を覚ました義男。何故かベッドに寝ている。よく見ると左腕と右足が無くなっており下半身に感覚が無い。そこは戦争で怪我を負った兵士が入院する病院で、上官の伊守が声をかけてくる。そういえば戦場で少女に撃たれたのだった。あれは義男の慾が見せた夢だったのだ。後は、映画を観てくださいね。
今回はネタバレです。私もよく理解が出来ていないし、この映画、理解する映画じゃないような気がして、思ったままを書かせていただこうと思いました。何たってつげ義春先生の短編を膨らませた内容で、その上、片山監督が撮られているというので、一筋縄では行かないだろうなと思っていたんです。
実は、公開前に東京国際映画祭で観たのですが公開時まで温めていました。だってネタバレしないと感想が書けないんですもん。という訳で公開してから感想を書きました。はっきり言って夢落ち作品なのですが、何故、欲望まっしぐらのような夢を見ていたのかというとそこに戦争が絡んでくるんです。戦争に行き、未来を夢見ていた若者たちが沢山亡くなったのだということを訴えている作品だと思いました。
最初に雨の中のバス停で女性と出会い、雷が鳴るから何も身に着けていてはダメだと言って二人で全裸になり、田んぼの中でSEXをするという場面から始まります。うーん、欲望まっしぐら!猫まっしぐらのチュールじゃないよ。何故最初にこの場面だったのかと後から考えたのですが、これからという若者が戦争で下半身不随になり未来が消える。頭の中には欲があるのに現実にはならない。戦争は未来を消しているということなのかなと思いました。
そして義男は売れない漫画家として生活をしている夢を見て、伊守と出会い福子と出会い、愛憎劇を繰り広げていく。不思議な戦争犯罪にも加担させられ、訳も解らず子供の脳から”なにか”を抜き取っていく。この子供の脳から抜き取るという行為ですが、プライドや信念、強い精神などを子供から抜き取り、腑抜けにしていたのかなと思いました。日本にマッカーサーが上陸し、子供の教育を全て米国式に変えたということを描いているのかなと思いました。
日本の戦時中の偏った教育はあってはならない内容だと思うけど、だからと言って全てを否定されて、古き良き時代の日本を捨てさせたというのは犯罪じゃないのかな。天皇は神じゃなくなり政治介入はしないというのは民主化として良いことだと思うけど、今の日本のように政治が腐敗しまくっている状態を見たら、昔の日本の政治の方が、よっぽど国民の事を思っての政治だったような気がします。
映画の内容は恋愛あり犯罪ありの、ちょっと笑えてとぼけた内容に見せながら、実は戦争反対を訴えており、日本国家にしっかりしろと言っているような内容だったのかなと思いました。つげ義春先生の作品って、本当によくわからないんだけど、どこか滑稽で人間の欲を描きながらも社会的な問題を描いているんです。それが、この映画にも観れたような気がします。
それにしても、観ている時は何をやっているのかよく分かりませんでした。突然に戦争の映像に入ったり、狭い部屋で漫画を描いていたり、隣の部屋でSEXをする伊守と福子を覗いていたり、よく分からないシチュエーションが連なっていて、んん~よくわからない、何をやっているんだろうと悩みながら観ていたんです。
そして観た後に映画の内容を反芻して考えた結果が、今回の感想です。義男が夢を見て、平和な人生でやりたかったことを頭の中で描いているんです。でも義男は平和な人生は送れず、今はベッドの上で、左手も右足も無く下半身不随にもなっている。もう命も尽きてしまいそう、それならば少しでも良い夢を見たいと思っていたのに、平和な世界を夢見ながらも戦争での体験を見てしまうという悲しいお話なのかなと思いました。
戦争はダメだよね。この映画はストレートに戦争反対とは描かず、戦争によって絶たれた未来を描いていたのだと思いました。夢の中の恋愛やSEXを中心に観てしまうと、本当に描かれていることが解らないのかなと思いました。それにしてもハードな映画だったな。SEXシーンが激しかったし美しかった。でもあのシーンがあったからこそ、人間の欲望が全ての未来に繋がっているのに途切れてしまったということが強く印象に残りました。
子供の脳汁を吸い取るっていう発想が面白かったな。あの黄色い水って膝とかに溜まる水と同じ色だったなぁ。子供からあんなの吸いだしたらダメですよ。(笑) あういう表現で子供から発想力などを奪い、一種のロボトミー化するという考えは面白いと思いました。自由意志を奪えば簡単に自分たちの好きなように教育出来ますからね。義男の脳の中の発想、凄ーい!
色々と面白く観させていただけた映画でした。これ、ネタバレ出来てないと、全く感想が書けない内容でしょ。夢落ちが書けないとなると感想は書けないんです。なので、今回はガッツリとネタバレしてしまいました。ごめんなさい。
私はこの映画、お薦めしたいと思います。超!を付けたいんだけど、全ての人に私と同じように考えて欲しいとは言えないので、面白くない、訳が分らないという方も出るのではと思い、超を付けるのを辞めました。それぞれがそれぞれの感覚で観て良い映画だと思います。ぜひ、観に行ってみてください。
ぜひ、楽しんできてくださいね。
「雨の中の慾情」