「Cloud クラウド」
を観てきました。すみません、今回はネタバレさせてください。完全にはしていませんが、幾つかネタバレしないと解説が出来なくて、ごめんなさい。観た後に読んだ方が良い方は引き返してください。
ストーリーは、
世間から忌み嫌われる“転売ヤー”として真面目に働く主人公・吉井。彼が知らず知らずのうちにバラまいた憎悪の粒はネット社会の闇を吸って成長し、どす黒い“集団狂気”へとエスカレートしてゆく。悪意のスパイラルによって拡がった憎悪は、実体をもった不特定多数の集団へと姿を変え、暴走をはじめる。
というお話です。
ラーテルというハンドルネームで転売屋として日銭を稼ぐ吉井良介。普段はクリーニング会社の作業員としてコツコツと働く青年だ。会社の社長から頼れる人間として管理職への昇進を打診されるのだが、固辞する吉井。そしてクリーニング会社を退職してしまう。実は今後の事を色々と考えていたのだった。
転売について教わった高専の先輩・村岡と再会し、儲け話に乗らないかと言われるがそれも断ってしまう。村岡に連絡先を聞かれても教えず、悪い印象を与えたまま別れてしまう。後味は悪いが、計画を変えるつもりは無かった。
吉井は郊外の湖畔に事務所兼自宅を借りて、恋人・秋子と新生活を始める。そして転売業を専門にやっていくことに決めたのだった。一人ではさばき切れず地元の若者・佐野を雇い、転売業は軌道に乗り始めるが、そんな矢先、吉井の周囲で不審な出来事が相次ぐようになっていく。
吉井が自覚のないままばらまいた憎悪の種はネット社会の闇を吸って急成長を遂げ、どす黒い集団狂気へとエスカレート。得体の知れない集団による“狩りゲーム”の標的となった吉井の日常は急激に破壊されていく。後は、映画を観てくださいね。
この映画、私は面白かったなぁ。黒沢監督の映画は深読みしないと解らないから難しいかなぁと思ったけど楽しめました。吉井という男は金さえ儲かれば良くて、罪悪感も何もない男のように見えました。労働に何の感情も無く、ただ目的の金さえ手に入ればいいと考えているので表情が全く無いんです。
転売の仕事で簡単に大金が入るので、クリーニングの仕事なんてやってるのが馬鹿らしくなったんでしょうね。転売が起動に乗ると見極めた時点で直ぐに仕事を退職してしまいます。吉井に期待していた社長は裏切られたと思っただろうなぁ。私は雇用する方の立場も経験したので、この社長の気持ちはよく解ります。
そして転売の先輩である村岡。最初は自分の手下くらいに思っていた吉井が偉そうに一人で転売を始めるというのでムカついたと思います。村岡も金さえ手に入ればという人種なので、自分より儲ける人間は排除したいと考えるでしょうね。目障りですから。この人、最初から眼つきが尋常じゃないのでヤバい人だと思いました。
それ以外にも吉井を恨んでいる人はどんどん出てきます。そりゃそうですよ。だって販売元を買い叩いて高く売るんですから、彼が儲ける分、損をする人がいるということです。あと限定商品を買い閉めて定価の倍以上で売るという極悪な販売方法もありました。酷いですよね。欲しい人は、そりゃ怒りますよ。
1万円で買えるモノを10万円くらいで売るんですから極悪でしょ。それって犯罪にはならないんだろうか。古物商ということで問題が無くなるのかな。チケットなどもそうだけど、やっぱり規制が必要だと思いました。私はネットオークションなどに出したり買ったりしたことはありませんが、買う人がいるから出す人がいるんですよね。私はモノに固執したりが無いので、どこからでも良いから購入するという気持ちが解らないんです。手に入らなければ縁が無かったと忘れてしまうんです。ごめんなさい。
そんな極悪な転売を繰り返すのですから恨まれて当然です。ネットで情報共有して追い詰めていく姿は、本当にこんな感じなんだろうなと思いました。だって誰か近くにいる人が関わっているに決まってるでしょ。本名も住所も解っているんだから。でも、殺すまで行ってしまうのかなぁ。大損害を与えればイイんじゃないの?生かして苦しめた方が面白そうだけど、そうじゃないんですかね。
吉井は追い詰められていきますが、誰も味方がいないんです。というか吉井は誰も信じていないようでした。自分の恋人でさえも信じていないようでしたね。人間って一人で生きている訳じゃないから、誰か信じる人を見つけないと商売は無理だと思いますよ。転売屋だって商売なんだから、一人で全部出来るなんて言ってるから追われることになるんです。
アルバイトの青年・佐野が出てきますが、謎の人物なんです。でもね、これ上手いと思いました。大体、裏の汚い仕事の匂いを嗅ぎつけてくるのは裏の人間なんですよ。それも頭の良い人間。自分が全部動かしていると思っているんだけど、いつの間にかすべてを握られてしまうというのが常だと思います。裏仕事のあるあるをここで描いていました。
吉井はこの後どうなっていくのか。観ていない方には解らないかもしれないけど、もう籠の鳥になってしまったのだと思いました。やっと一人で飛びたてたと思ったのに、また籠に舞い戻ってしまう。可愛そうな小鳥です。出ようとすれば直ぐに頭をズドンでしょうから、逃げられませんよね。(笑)
この映画の怖いところは、転売ヤーが恨まれて追われて殺されそうになるというのも怖いけど、これ、本当に仕組んだのは誰だったのかということを考えると、もっと怖いでしょ。アホなヤツらを集めて吉井を追わせて殺させても良し、吉井が助かってアホなヤツらを殺したとしても恨んでいる人間を一掃出来て良し、どちらにしても損をしなかったのは誰なのかと考えれば解ります。そして吉井は籠の鳥になってしまう。
ここで何故そんな事をしたのかとなるけど、彼は武器を手に入れる時、組織には戻らないって言いますよね。ということは、自分で組織を作るつもりとなると既にノウハウはあるしルートもあるから、後はお金だけ。自分のいうことを聞くようにさせるには派手な演出と恐怖を植え付ければ文句を言わずにお金を稼ぐでしょ。うーん、せっかく吉井は全てを手に入れたと思ったのに、結局、誰かの駒になるしかなかったということです。
だから転売ヤーなんてことを始めたら、必ず報いを受けますよという暗示なのかなと思いました。楽して金を手に入れるなんて許されないんです。それにしてもキャストは上手かったなぁ。菅田さんも良かったけど、周りの方々が舞台でバリバリの役者ばかりでしょ。赤堀さんや荒川さん、岡山さん、吉岡さん、そして窪田さんが不気味な先輩を演じていて、もー、誰もかれも狂っているようで良かったです。窪田さん、眼つきが良かったなぁ。
一つだけ、荒川さん演じる社長が凶行に及んだ理由が解りませんでした。記事に書いてありましたかね。一瞬だったので読めなかったのですが、自分の片腕になってくれると思っていた吉井が居なくなり、既にギリギリだった会社が傾いたのかしら。だから家族もってことなのかな。ごめん、完全にネタバレですね。
バイトの佐野役の奥平さん、良い役者になりましたね。マザーの時は可愛かったけど成長してカッコよくなりました。そして恋人役の古川さん、全く吉井を愛していないのに楽するために一緒にいるというのがあからさまに見えて良かったわぁ。2人で一緒にいても全然楽しそうじゃなかったもん。こういう若いカップルって、今、街中に多いですよね。金目当てで付き合う人が多いのかな。残念な世の中ですね。
そんな濃い役者によって、深い映画が出来ていました。これ、表面だけ観ていても解らないと思います。そうそうなんでこんな人々が集まって吉井を狩っているのか、それは「踊る大捜査線 THE MOVIE」を観ていれば解るでしょ。遊びなんですよ。恨みはあるけど、既に狩って殺すのがゲームになっているの。意味なんて無いんです。
繋がりが薄くなった現代にネットで繋がる人々。価値をお金でしか量れない人々。生きていても楽しいことが無いので凶行に走ってしまう人々。そういう一般人を食いモノにする裏社会に生きる人々。そんな現代社会の闇を詰め込んでいる映画でした。面白かったなぁ。誰もが無表情なところが本当に凄かった。菅田さんも感情を抑えるのが大変だったんじゃないかしら。面白い作品をありがとうございました。
私はこの映画、超!超!お薦めしたいと思います。これは賛否別れるだろうなぁ。裏を読み続ければいくらでも読めてしまうし、読まなければ何をやっているのか全く解らない。まるで迷宮に入ってしまうような映画でした。もう一度観ないと、細かい部分が観れなかったので、時間が出来たらまた行きたいと思います。ぜひ、観に行ってみてください。
ぜひ、楽しんできてくださいね。
「Cloud クラウド」