「火の鳥 エデンの花」原作の重要な部分がバッサリ切られて、命を繋ぐというテーマになっていません。 | ゆきがめのシネマ。劇場に映画を観に行こっ!!

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観てきた映画、全部、語っちゃいます!ほとんど1日に1本は観ているかな。映画祭も大好きで色々な映画祭に参加してみてます。最近は、演劇も好きで、良く観に行っていますよ。お気軽にコメントしてください。
スミマセンが、ペタの受付を一時中断しています。ごめんなさい。

 

「火の鳥 エデンの花」

 

を観てきました。

 

ストーリーは、

訳あって地球から逃亡し、辺境惑星エデン17に降り立ったロミと恋人ジョージ。未開の惑星での生活は厳しく、ジョージは事故で命を落としてしまう。ロミは1人息子のために自分の命を引き延ばそうとコールドスリープに入るが、機械の故障で1300年間も眠り続けてしまう。ようやく目覚めたロミは、新人類が築いた巨大な町・エデン17を目にする。知る人がいない地で、ロミは故郷への思いが膨らみ、少年コムとともに地球を目指す。

というお話です。

 

 

荒涼たる辺境惑星エデンに1台のロケットが降り立った。わけあって地球から逃亡してきたロミと恋人のジョージは、この星を2人の新天地にしようと誓うも、未開の惑星での生活は厳しく、水脈を探すのに苦労をしていた。

 

やっと水脈を見つけ、水が噴き出すも、ジョージは井戸の掘削作業中の事故で命を落としてしまう。ロミは一人息子のカインとAIロボットとともに、惑星エデンで孤独なサバイバル生活を送ることになってしまう。



 

ロミはカインのために自分の命を少しでも引き延ばすことを決意し、コールドスリープに入る。だが、機械の故障で1300年間も眠り続けることに。ようやく目覚めたロミは、新人類が築いた巨大な町・エデン17の女王となる。 

 

そんなある日、心優しい少年コムは、宮殿で悲しみに暮れる女王ロミと出会う。ロミの望郷の想いを知ったコムは、一緒に地球に行こうと、無謀な挑戦と知りながら、2人で広大な宇宙に飛び出していく。 旅の途上で、地球人の宇宙飛行士・牧村や宇宙のよろず屋・ズダーバン、そして人智を超えた未知の生命体の数々との出会いを重ねながら、故郷の地球を目指す。しかし、今の地球は様変わりしており…。後は、映画を観てくださいね。

 

 

スミマセン、原作を読んでいる私としては、ちょっと納得のいかない内容の変更でした。手塚先生の代表作・火の鳥の望郷編は、旧約聖書が基になっていて、ロトの娘たちの話がなければ、あまり意味が無いんです。

 

ロミが息子のカインとの子供を作るけど男子しか生まれず、またコールドスリープしてて、孫とも作るけど男の子しか生まれず、子孫たちの間で諍いが起きるからロミは逃げるしかなく、そこで火の鳥がムーピーを1匹連れてきたことで、ムーピーと人間のハーフが出来て、やっとロミが起きてくるという、その部分が重要なんですよ。

 

 

人間の根幹が、この部分で描かれているんです。旧約聖書では、近親者との婚姻で遺伝子に問題が起きてしまう心配がありながら、子孫を繋いでいくためには、止むを得ないとして、ロトの娘は父親であるロトと交わり、子孫を増やして行くんです。近親相姦は罪と思うけど、この状況で、命を繋がなければと考えたら、仕方がないでしょ。まず、大切なのは、命を繋ぐこと。火の鳥の一番重要な”命を繋ぐ”という事が、この部分に描かれているんです。

 

それが、全く切り取られてしまい、ロミがコールドスリープしたら、機械の故障で1300年眠ってしまい、起きたら、ムーピーと人間との混血で人が増えていたというのは、ちょっと、どうなんだろう。「望郷編」だから、地球へのホームシックで、地球に帰るロミを描いているから、確かに望郷なんだけど、でも、手塚先生が伝えたかったのは、それじゃないと思うんだけどね。

 

 

火の鳥望郷編を読むと、現代の地球を描いているようで、凄く恐ろしくなるんです。エデンは、やっと人も増えて、安定したエデンになって来たのに、人間の欲望が強くなり、結局、自分たちで滅ぼしてしまうんです。いつの世も、人の欲望が、全てを滅ぼしてしまう。今も、色々な国で戦争が起きて、周りは自分の利益ばかりを考えて、止めようとしていないでしょ。ヤバい状況になってきたなと思っています。

 

牧村という人物が出てくるのですが、この牧村は、火の鳥シリーズでは重要な人物です。永遠の命が欲しくて火の鳥の血を舐めたために、永遠に生き続ける人間となってしまい苦しむのですが、同じ姿で生き続けるなら、まだ良いけど、普通に年を取って、ある所から若返り、赤ちゃんに戻ったら、また年を取って行くという、行ったり来たり的な生き方なんです。

 

 

記憶だけは残っているから、大変な人生になるんだけど、この牧村は、命を繋ぐことが出来ないでしょ。自分が生き続けるだけだから、本来の人間の生きる意味が無いんです。意味が無いのに生き続けるって、地獄でしょ。ここら辺が、火の鳥の残酷な部分なんですよね。

 

この話、本当は、凄く深い物語なんだけど、どーも、理解されていなかったようで、倫理的に問題な近親相姦部分が簡単に削除されてしまい、スカッとかすってしまったという感じでした。この部分が重要だから、今まで、それが描けなくて、映像化が出来なかったのに、そこを簡単に削ってしまったということで、内容自体に、あまり意味が無くなってしまったということですかね。

 

 

ちゃんと近親相姦も描いて、どうしてそうならなくちゃいけなかったのか、なんで罪を犯してまで子孫を残したのかという意味を、しっかりと伝えれば、許される内容だと思うんですけど、どうして、それをしなかったのか、理解が出来ません。

 

簡単に、手塚先生の作品を映像化すれば、売れるだろうと思ったのかしら。原作を読んでいる方なら、これは重要な部分を省いているという事に気が付くだろうし、知らないで映画を観た人は、何が言いたかったのか解らないとなるんじゃないかな。この映画の内容だけだと、命を繋いでいくではなく、命を作って失敗したらまた作れば良い、としか思えませんでした。そんな簡単に、命を作ったり、滅ぼしたりは出来ません。命は繋ぐものです。そういう考えが希薄になってきている現代だからこそ、火の鳥の”命を繋ぐ”というテーマが大切なんじゃないですか?

 

 

そんな内容になっていたので、私は、とても残念でした。手塚先生が好きで、手塚作品が大好きだからこそ、映画化は嬉しかったのですが、今回の映画は残念でした。映画を作る時は、原作者が伝えたい事、物語が描いている事、社会的に重要な事、をしっかりと認識した上で映画化して欲しいです。

 

ちなみに、原作でコムは、地球に根を降ろし、植物となって生き続けます。それも命を繋ぐことですよね。花が咲いたら、きっと子孫を増やして行くのでしょう。もしかしたら、地球にある草木も、そんな宇宙人が姿を変えた命なのかもしれません。やっぱり、命は大切にしないとね。ソーラーパネルを置くために、全部、木を伐採するなんて、絶対に許せません。

 

 

私は、この映画、お薦めしたくないなぁ。火の鳥という漫画には、興味を持って欲しいけど、この映画の内容では、あまりお薦めしたくないと思いました。本当は、もっと良いお話だからです。でも、もし、この映画をきっかけに、手塚治虫先生の作品を読んでくださる人がいるなら、観て欲しいかなとも思います。うーん、制作者には、あまり手塚愛が無かったのかなぁ。私は、手塚先生への愛が一杯だから、どうしても、文句を言いたくなってしまいました。ごめんなさい。一応、手塚作品なので、観に行ってみてください。

ぜひ、楽しんできてくださいね。カメ

 

P.S : ディズニープラスにて、”エデンの宙”という題名で、この映画の配信版が観られます。但し、結末が違います。一応、私は劇場版も観て、配信も観てみました。

 

 

「火の鳥 エデンの花」