「TAR ター」素晴らしい才能に恵まれた指揮者リディア・ター。でも、足りないものが幾つもあった。 | ゆきがめのシネマ。劇場に映画を観に行こっ!!

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観てきた映画、全部、語っちゃいます!ほとんど1日に1本は観ているかな。映画祭も大好きで色々な映画祭に参加してみてます。最近は、演劇も好きで、良く観に行っていますよ。お気軽にコメントしてください。
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「TAR ター」

 

を観てきました。Fan’s Voiceさんの、独占最速試写会が当たり、観せていただきました。(@fansvoicejp)

 

ストーリーは、

ドイツの有名オーケストラで、女性としてはじめて首席指揮者に任命されたリディア・ター。天才的能力とたぐいまれなプロデュース力で、その地位を築いた彼女だったが、いまはマーラーの交響曲第5番の演奏と録音のプレッシャーと、新曲の創作に苦しんでいた。そんなある時、かつて彼女が指導した若手指揮者の訃報が入り、ある疑惑をかけられたターは追い詰められていく。

というお話です。

 

 

リディア・ターはベルリン・フィルハーモニー管弦楽団初の女性首席指揮者。作曲家としても指揮者としても素晴らしい才能を発揮しており、現在の音楽業界を率いていると言ってもよい存在だと言われている。

リディアは、レズビアンであることを公表しており、妻でありコンサートマスターのシャロンとの間に娘がいる。そして、フランチェスカという指揮者を目指す女性を個人秘書として雇っており、この二人が、今のターを支えていた。

それまで男性社会と思われていた音楽業界でトップに立ったターは、その権力を手に入れ、傲慢で我が儘な振る舞いを続けていた。何処までも完璧を目指し、ストイックな彼女は、気に入らないモノは外し、自分は絶対だと言わんばかりの仕事をしていた。



 

リディアは、ジュリアード音楽院でマスタークラスを開催しており、そこの生徒にも自分の考えを押し付けるような教育をし、拒否されてしまう事もあった。孤高の女性指揮者と言われながらも、多く問題を抱えており、周りの人間が彼女を守っていたのだ。

 

ある日、チェロのブラインドオーディションで、気になる女性を見つける。才能のあるオルガをチェリストとして迎え入れ、独断で、次のレコーディングでソリストとして使う事を決める。そんなリディアに耐えきれなくなったフランチェスカが仕事を辞めてしまう。


その頃から、リディアは些細な音が気になり始め、何かに追われているような感覚に蝕まれていく。そして、ある事件により、リディアの地位が脅かされることとなり、それを期に、それまでの問題行動がSNSなどにばら撒かれ、彼女に対する悪意が噴出します。シャロンは問題を相談しなかったリディアを責め、ベルリンフィルでは、リディアの進退についての会議が開かれることとなり…。後は、映画を観てくださいね。

 


 

およそ160分の壮大な映画ですが、まるで時間を感じさせない、それこそ完璧なまでの、壮大な指揮者の転落が描かれて行きます。もう、凄かったとしか言葉が出てこないほど、惹き付けられて、全く目が離せない状態の映画でした。些細な場面にも、リディアという指揮者が追い詰められて行くヒントが隠されていて、見逃せないといった感じなんです。1度観ただけでは、全てを把握しきれないほどの情報量と、リディアという人間の中に帰来する、音楽に対する真摯な心と人間としての傲慢な心が、観ている人間の心までも、どんどんかき乱して行くんです。

リディアという女性は、男性社会であった音楽界でトップに立ち、誰からも崇められるような存在となっています。それは、彼女が今まで、類稀な才能と努力を続けてきた証であり、その努力の上に立っているので、強く傲慢であるのは、ある意味仕方が無いのだと思います。そうでなければ、トップになどなれませんからね。

 

 

でもね、トップに立ったなら、今度は、下の人間を従えていかなければならない立場になるため、強さは持たなければいけないけど、傲慢は消して行かなければいけないんです。下の人間の言葉にも耳を傾けなければ、誰もついてきません。そうなると全てが敵となり、必ず引きずり降ろそうと考える人が増えていきます。上に立つと、才能だけでは続かないんですよ。
 

そんな事を、あからさまに描いていて、唸ってしまいました。きっと、リディアは、”私はベルリンフィルの首席指揮者よ。”となり、誰もが自分に従い、助けるのが当たり前で、自分は奉仕されるのが当たり前と思ってしまったんじゃないかな。誰も、傲慢な人間に奉仕なんてしたくないですよ。時々、政治家など有名人になると、自分は偉くなったと思って、何でも許されると思っちゃう人、いますよね。ホント、自分は気を付けようと思って、”実るほど頭が下がる稲穂かな”ってことわざを思い出すようにしているけど、酷い人がいますもんね。

 

 

そんな風にトップに君臨しているリディアですが、やっぱり傲慢で我が儘な性格のツケは溜まって来ていて、段々と不安な空気が流れ始めます。そして、それまで彼女を助けてくれていた人々が、段々と彼女から離れていくんです。そりゃ、そうよね。誰だって泥船に乗りたくないし、リディアと一緒に沈んでもいいと思ってくれる人は居なかったという事です。もちろん、リディアだって、反撃しない訳じゃありませんよ。ちゃんと戦うけど、どうなるかはお楽しみです。

 

この映画、一部で、能力のある女性を叩いて男性がスカッとする映画だと言われているそうですが、私は、そうではないと思いました。男とか女とかいうのではなく、リディア・ターという人間が、必死で音楽の世界で努力をしてトップに立ったけど、周りの事、世界の事に目を向けず、人間に対しても向き合ってこなかったせいで、自分の身を滅ぼすことになっていくという映画だと思いました。

 

 

だってね、世界情勢をほとんど知らず、学生たちが話す言葉も、理解しようとはしないんです。ジュリアードの学生とのシーンで、学生は、バッハは子供を20人も産ませて酷い男なので嫌いだと言うのですが、彼は貧乏ゆすりをしていて、明らかに怖がりながらリディアに対峙しているんです。

 

そこでリディアは、ジェンダー差別と音楽とは別のもので、良い音楽は聞くべきだと言うんです。確かに正解だと思います。でもね、少し言い方を考えればイイじゃん。音楽と人格は別と考えて見ることは出来ないかしらと問いかけて、私は人格は軽蔑しても、良い音楽なら一度は経験してみるべきだと思うと言ってあげれば、学生だって、ドキドキしてリディアに対峙しているんだから、そうかなぁと考えたかもしれない。そういう人間に対しての愛情や優しさを持つべきだと思ったのは私だけかしら。

 

 

同じことが、彼女が問題になった事件に関しても言えることだし、何事も、対処の仕方が問題で、それを学んでこなかった彼女自身が問題なんだよと言っている映画なのかなと思いました。だって、周りの人々は、普通の人々だし、彼女を尊敬しているし、悪い感情は持っていないんです。彼女がぶつかるから、問題になるんです。そんな部分なんじゃないかな。

 

色々な理解が出来る作品なので、観る人によって、考え方が違うと思います。沢山の社会的な問題が盛り込まれていますし、素晴らしいクラシック音楽も聞けて、観る度に、今回は、これをメインで観ていこうとか、考えて楽しめる作品じゃないかなと思いました。そうそう、マーラーの交響曲5番が印象的に使われますが、私は、リディアの指揮では聞きたく無いなぁ。この曲は恋愛を描いている様に私には思えるので、優しくサラッと聞かせて欲しい。あまりに情熱的だと疲れちゃいそうですもん。

 

 

私はこの映画、超!超!お薦めしたいと思います。面白いです。サスペンス調になっていて、映像も美しく、リディア・ターという人物がどれ程凄い人なのか、だけど、こんな人間なんだよねって言う事が、よく描かれていると思いました。1回観ただけでは、全体の理解が出来ないので、また観に行きたいです。これは、アカデミー賞を受賞していなくても、それ以上に観るべき作品だと思いました。ぜひ、観に行ってみてください。

ぜひ、楽しんできてくださいね。カメ

 

 

「TAR ター」