「ある男」差別と偏見が蔓延する社会の中で生きて行くのは誰でも大変です。名前は変えないけどね。 | ゆきがめのシネマ。劇場に映画を観に行こっ!!

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観てきた映画、全部、語っちゃいます!ほとんど1日に1本は観ているかな。映画祭も大好きで色々な映画祭に参加してみてます。最近は、演劇も好きで、良く観に行っていますよ。お気軽にコメントしてください。
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「ある男」

 

を観てきました。

 

ストーリーは、

弁護士の城戸は、かつての依頼者・里枝から、亡くなった夫・大祐の身元調査をして欲しいという相談を受ける。里枝は離婚後、故郷へ帰り、そこで出会った大祐と再婚。新たに生まれた子どもと4人で幸せな家庭を築いていたが、大祐は不慮の事故で亡くなる。ところが大祐の兄が、遺影の写真は大祐ではないと話したことから、夫が全くの別人だったことが判明したのだ。城戸は男の正体を追う中で様々な人物と出会い、驚くべき真実に近づいていく。

というお話です。

 

 

地方の田舎に住む里枝は、息子二人と実家に暮らしている。2人目の子供を病気で亡くし、その治療の事で夫と相容れず、結局、子供を亡くした後に離婚をしたのだった。

子供の死をまだ悲しんでいる里枝の前に、大祐という男性が現れる。林業に就くためにやって来たらしい。文具屋の里枝の店に、絵を描く道具を買いに来るようになり、二人は心を通わせ、そして結婚。子供を授かり、しあわせな家庭を築いていた。

ある日、大祐は仕事中に足を滑らせ、そこへ木が倒れてきて事故死をしてしまう。夫を亡くし悲しむ里枝は、一周忌を迎え、連絡するなと言われていた、疎遠になっていた大祐の家族に連絡をする。大祐の兄・恭一が法要に訪れ、仏壇の前に座ると、遺影を見て「これ、大祐じゃないです。」と言う。驚いた里枝は、あまりの事に驚き、以前、世話になった弁護士の城戸に助けを求める。



 

弁護士の城戸は、依頼者の里枝から、亡くなった夫「大祐」の身辺調査と言われ驚く。話しを聞き、大祐と名乗っていた人物の調査を始め、大祐改め「X」の足取りを追って行きます。

名前を変えたという事は、何か犯罪を犯したのだろうかと考え探っていくと、自身が犯罪に関わるなどという事ではなく、子供の頃からの生い立ちから、彼の複雑な思いや考えなどが解って行く。

彼は、何故別人として生きたのか。弁護士・城戸がその真実に辿り着いた時、感動が湧き上がる。後は、映画を観てくださいね。

 

 

この映画、良い映画でした。深い映画だったなぁ。ストーリーも素晴らしいんだけど、これ、キャストがピッタリでした。妻夫木さん、安藤さん、窪田さん、この3人の素晴らしい演技だけで、もう泣けてくるんです。そして、脇にも凄い方が沢山出てくるので、本当に良かったなぁ。ちょっと「流浪の月」を思い出すような空気感がありました。映像が美しかったんです。

 

最初は、普通に男女が出会って、結婚して、しあわせな家庭を持ってと言うお話なんです。そして大祐が亡くなってしまい、悲しんでいる里枝に、夫の兄が、「大祐じゃない。」と告げるんです。凄い展開ですよね。その人間のアイデンティティを根底から覆すんですから、じゃあ、今までの話しは何だったんだという感じになってしまいます。

 

この話を観ていて思ったのですが、例えば、私はAという人間だと思っているけど、ある日、誰かが現れて、あなたは本当はBなんですって言われて、本当の戸籍やら写真やらを出されたら、今までAとして生きて来た自分は何だったんだろうという事になりますよね。過去を全部、新しい名前に書き換えるって事でしょ。私には信じられない事だけど、そんな事を、どうしてもやりたいと思う人もいるんですね。この映画を観て、名前を変えたいと思う人の気持ちが少し解った気がしました。

 

 

ある男である大祐は、大祐ではなかったのですが、ある人の紹介で、戸籍を入れ替えたんです。何故かというのは詳しく書けないんだけど、それまでの「X」過去が、それはもう壮絶なんです。大変だったんだろうし、自分の中でも自分が嫌だったんじゃないかな。その苦しみは、観ているこちらに伝わってきました。小さな頃から、自分を全否定して生きてきたようなもんですもん。誰か一人でも、彼に”大丈夫だよ。”と言ってあげる人がいてくれたら、もっと自分に自信を持てたかもしれないけど、そんな事が無かったのでしょう。本当に可哀想でした。

 

里枝は、もちろん騙されてしまった被害者ではあるけど、”X”は、騙したくて騙していた訳ではなく、彼女と過ごした時は、本当に大祐だったのだと思います。それは紛れもない真実で、名前なんてどうでも良くて、彼自身は、素晴らしい人だったのだと思います。本当に優しくて、勤勉で、家族を愛していたんだろうと思いました。

 

 

弁護士の城戸は、”大祐”と呼ばれていた男の過去を追跡していき、色々な差別や偏見、社会の中の歪みを見ていくことになります。この社会って、差別や偏見が無い場所って無いですよね。何処にでもあるし、自分の中にもあると思うんです。それは子供の頃から、自分の中に埋め込まれてしまった意識だし、そんな差別はいけないと脳では思っていても、ふとした拍子に出てしまう事があると思うんです。

 

そんな一言が、相手を傷つけているんだろうと思いました。自分でも、言ってしまってから、何でこんな事を言ったんだろうと思うことがあります。差別や偏見はいけないと思いながらも、子供の頃からの習慣は抜けません。だからこそ、いつも気を付けるべきだし、子供たちにはそんな事を埋め込まないようにしなければと思います。大人のやる事って、子供は真似するので、子供の前では、差別や偏見は決して見せてはいけないと思うんです。

 

 

私の子供の頃は、在日の方をチョ〇と呼んだりしたし、犯罪者の家族とは関わらないようにと言われたり、もっと言うと、あの地域に住む人とは友達になるなとか、そんな事がありました。今思うと、何なんだろうと思いますが、その時代は、そんな事がまかり通っていたんです。差別や偏見があれば、お互いに憎しみ合うし、良いことは一つもありません。人間の一番良くない部分です。この映画でも、在日の方への差別が一部描かれていますが、なんで在日として括るんだろう。生活保護を受けている人が一日パチンコをして遊んでいるというのは解るけど、それを在日と言うのはおかしいでしょ。在日の人だって、しっかり働いている人たちが沢山いるんですよ。

 

そういう偏見が、今も溢れている事に憤りを感じます。やっぱり間違ってるでしょ。生活保護で遊んでいる人は糾弾されるべきだけど、本当に貧しくて苦しんでいる人や、外国人や在日だからって何か言われるのはおかしいと思います。みんな、必死で生きているんだから、そういう人たちを変な目で見るのはおかしいですよ。パチンコしてる生活保護の人は、私もムカつきます。パチンコが出来るなら仕事出来るでしょーが。いい加減にしろっつーの。

 

 

この映画を観ていたら、今の生活を捨てて、他の自分になりたいと思う人の気持ちも解ってきました。城戸に共感してしまうと、それが解るんです。どんなに今の生活が幸せと思えるように見えていても、ふと、違う自分になってみたくなるという気持ちが解るんです。きっと、誰でも、そんな時が一度はくると思います。それをやるかどうかは、解りませんけどね。でも、違う自分を夢見ることは、きっとあるんじゃないかな。それは、もしかして生きていく上で必要なことかもしれません。そんな逃げ道もあるという、自分を追い詰めない為の手段なのだと思いました。

 

私の好きなカトウシンスケさんも出演してました。ボクシングジムの先輩役です。やっぱイイなぁ~。仲野さんもちょっとだけだけど、良い役でした。彼の役は微妙だな。何役とは言えません。そして、里枝の息子役の子役の坂本くん、良かったです。お父さんが大好きな男の子って感じがよく出ていて、これからお父さんがいないお家を守っていくんだねという意志が見えました。

 

 

私は、この映画、超!超!お薦めしたいと思います。良い映画でした。私は好きです。こんな事が、もしかしたら自分の周りでも起きているかもしれないけど、気が付いていないだけかもしれない。でも、名前なんて何でもいいんですよ。その人がその人であれば、別に表紙は関係無いんです。内容が大切なんですから。ぜひ、観に行ってみてください。

ぜひ、楽しんできてくださいね。カメ

 

 

「ある男」