TIFF2022 コンペティション部門
「1976」
を観ました。
ストーリーは、
1976年、ピノチェト独裁政権が3年目を迎えたチリ。家族と共に休暇を過ごす海辺の別荘を、リノベーションのために、一足先に訪れた裕福な医師の妻カルメン。リビングの壁を夕焼けの色に近いピンクで塗る為に、塗料を購入しにペンキ屋へ来ていた。塗料を作って貰っていると、女性の叫び声が聞こえ、警察が連行して行ったようだった。政府に反抗するテロリストは、見つかると直ぐに逮捕されているのだ。
物騒だと思いながら家に帰ると、その地域の司祭から来て欲しいとの連絡がくる。教会へ行ってみると、傷を負ったひとりの青年を匿って欲しいと依頼される。軽い盗みを働いて、足を撃たれたらしい。カルメンは同意し、青年の世話をするようになる。
足は化膿しており、医者の夫に抗生物質を持ってきて欲しいと頼むが、患者を診ていないのに出すことは出来ないと断られる。このままでは酷くなってしまうと思ったカルメンは、医者へ行き、犬用に薬を出して欲しいと強引に頼む。犬の体重は50kgくらいと話し、明らかに嘘だと判るが、薬を出してくれる。カルメンは若い頃に赤十字に勤めており、その時の証明書で押し切ったのだった。
親身になって介護を続けているが、その事については家族にも内緒にすると司祭と約束していて、夫にも子供たちにも話せない。その内、その青年が盗みで追われているのではなく、反政府者として追われている事を知る。このまま、ここで匿っていたのでは見つかってしまうので、青年をどこかへ逃がそうと動き出すのだが…。後は、映画を観てくださいね。
このお話ですが、監督のお婆様が、この時代にとてもふさぎ込んでいるように見えていて、子供の頃に不思議に思っていたそうです。大人になってから、この時代の事を調べて、酷い状況を知って、それを映画にしようと思ったとおっしゃっていました。
1976年頃は、ピノチェト独裁政権が3年目で、反抗勢力をキツく押さえつけていた時代のようでした。この映画を観ていると、誰もが敵というか、密告者のように見えてしまい、家族にも話が出来ないように見えました。それまで、友人と思っていた人でも、明日には自分を告発しているかもしれない、それ程に怖い時代のようでした。
そんな時代に、教会の司祭様に頼まれて、一人の青年の世話を任されます。彼女には、医療の経験があり、青年は銃で足を撃たれていたんです。このままでは、傷が化膿して、死んでしまうと思ったのだろうと思いますが、この時代に、他人を危ないことに巻き込むというのは、司祭としてどうなんだろうと思いました。
みんな、困っているのは解るけど、下手したら、関わった人が全員殺されるかもしれないんです。それなのに、人々を導くべき司祭様が、これはダメでしょと思いました。自分一人で背負うならまだしも、誰かに頼んだら、その頼んだ人も、その家族も、殺されることになるかもしれない。そんな時代だと判っているのに、カルメンに頼むなんて、酷い司祭です。
カルメンは、最初、もしかして危ない事かなと思いながらも、怪我人と聞かされただけなので、知らないものとして簡単に頼みを聞いているように見えました。自分は平穏な日々だし、時々、街でおかしなことが起こっているけど、自分には関係無いと思っていたんです。でも、この青年に関わったことから、自分の国が危ない国だと思い知らされていくんです。
彼が反政府の人間だと知り、仲間と連絡を取りたいから協力して欲しいと頼まれたカルメンは、恐いと思いながらも、ちょっといつもとは違う興奮を覚えながら、何度もバスを乗り換えたりして、彼の仲間と連絡を取ります。一瞬だけ言葉を交わして別れますが、これを機に、カルメンは青年を助けるために動き始めます。平穏な日々に、少し退屈していたのかもしれません。
だけど、素人が手助けしたことから、計画にほつれが出始めます。まぁ、そうなるでしょうね。だって、命を賭けて活動している人たちとは違い、カルメンには、少し面白半分的な部分があるように見えましたもん。もし、危ないと思ったなら、家族の為に手を引くべきでしょ。でも、その好奇心をどうしても抑えられなかったんじゃないかな。そして、悪い方へと動いて行ってしまいます。
最初は、ピンク色の塗料を買いに行って、そこで女性が逮捕される声を聞き、最後の方では、強い色の服や靴を身に付けているんです。平穏な生活に浸っていたのに、青年との出会いで、国の状況を知り、恐さを知っていって、目を開いたというか、真実を理解したのだと思います。
こういう政治的な出来事って、必ず、政権側で良い暮らしをしている人間と、貧困層で反発して新しい世界を作ろうと動く人間と2種類に分かれますよね。いつも弾圧されるのは貧しい方で、富裕層は何も知らず、何も理解せず、安穏と暮らしているんです。
そんな富裕層のカルメンは、自分の立場はそのままで、青年を助けられると思っていたのかな。カルメンが全てを捨てるくらいの覚悟が無ければ、青年を助ける事は出来なかったのだと思いました。生半可な気持ちで助けるなんて、甘いんだよって言われちゃいます。それくらい、過酷な状況を、カルメンは解っていなかったんです。
良い映画だと思いました。色でカルメンの精神状態を表したり、置いて行かれる靴で、その人がその後、辿るであろう道を描いていたり、上手い描き方だなと思いました。
私は、この映画、お薦めしたいと思います。面白かったです。イマイチ、カルメンの動きが解り難かったけど、まぁ、テロリストを助けようとするなら、色々な事をしますよね。独裁政権になると、こんな風になるのだという事を、よく描いてくれていました。日本公開は解りませんが、もし、観る機会があったら、ぜひ、観てみてください。
ぜひ、楽しんできてくださいね。
「1976」