「のさりの島」を観てきました。
ストーリーは、
熊本県天草の商店街にオレオレ詐欺の旅を続ける若い男が流れ着いた。老女の艶子は、その男を孫の将太として招き入れ、若い男はいつの間にか艶子と奇妙な共同生活を送り、将太としての嘘の時間に居場所を見つけていく。地元FM局のパーソナリティを務める清らは将太を誘い、昔の天草の8ミリ映像や写真を集め、商店街の映画館で上映会を企画する。かつての賑わいのあった頃の天草・銀天街の痕跡を探す中、艶子の持っていた古い家族アルバムに、将太は一枚の写真を見つける。
というお話です。
オレオレ詐欺の旅を続ける若い男が、熊本・天草の寂れた商店街に流れ着いた。適当に電話をしていると、商店街の楽器店に電話がかかり、そこの店主の老女に孫だと言うと話に乗ってきた。友人がお金を取りに行くと言って、その楽器店に向かう。すると、老女の艶子は、若い男を孫の“将太”として招きいれる。孫じゃなく、その友人でお金を受け取りに来ただけだと言うのだが、人の話など全く聞かない。仕方なく、若い男は艶子の話に合わせ、そのまま、その家に泊まらせてもらう事に。
朝起きると、朝食を一緒に食べ、洗濯物を干してきてと言われ、そんな日を過ごす内に、いつの間にか、“将太”として艶子と奇妙な共同生活を送るようになり、やさしい“嘘”の時間に居場所を見つけていく。
地元FM局のパーソナリティを務める清ら(きよら)は、昔の天草の8ミリ映像や写真を集め、商店街の映画館で上映会を企画する。ひょんなことから“将太”と出会い、一緒にやろうと上映会の企画チームに連れ込まれてしまう。賑わいのあった頃の天草・銀天街の記憶を取り戻そうと夢中になる清ら。かつての銀天街の痕跡を探す中で、艶子の持っていた古い家族アルバムに、“将太”は一枚の写真を見つける。
清らの企画はどんどん盛り上がり、集めた古いフィルムを商店街の映画館で上映する日がやってくる。本渡の大火、焼け跡を片付ける町の人々、復興後の祭りの様子。街に流れるブルースハープの音色と共に、スクリーンに映し出された天草のかつての記憶が蘇る。
そして清らから、「将太さん、本当はどこのひとなの?」と聞かれ、何も答えられない将太として過ごしていた男。そして・・・。後は、映画を観てくださいね。
寂れた商店街と艶子お祖母ちゃんがリンクしているみたいに見えて、オレオレ詐欺の男を孫として受け入れた時から、何となく息をし始め、同じように、その時から商店街も少し息を吹き返したように見え始めるんです。それまでは、本当に寂れていて、人が居ないゴーストタウンのようになっているんだけど、その日から、電気が点いて、生き始めるんですよ。
ちょっとした嘘なんだけど、その嘘一つで、二人の人間がちょっとしあわせになって、息をし始めるなら、嘘も良いことです。嘘って、全てが悪いんじゃなくて、ついて良い嘘もあるのよね。嘘一つで、誰かがしあわせになるなら、いいじゃないですか。そんな事を思いながら観ていました。
艶子お祖母ちゃんは、しっかりしているのに、ボケているフリをして、孫としてオレオレ詐欺男を迎え入れるんです。私が思うに、きっと、最初は懲らしめてやろうくらいに思っていたんだと思うけど、来た男が、いやに素直で、小銭を盗むくらいで、他には悪い事をしなかったから、孫として面倒を見たんじゃないかなぁ。そんな風に思えました。
若い男も、元々、そんなに悪い奴じゃなくて、色々理由があって、オレオレ詐欺なんてやるようになっちゃったんじゃないかな。悪い仲間がいて、何となく、それで流されていたのかなと思いました。でも、艶子お祖母ちゃんの世話になって、ご飯を作って貰って、家族の温かさを思い出したのか、ここで知ったのかもしれません。
将太を演じている男が、古い写真を見て何かを感じたみたいなんだけど、それについての説明が一切なかったので、観る方が想像するしかないんだけど、何か見覚えがあったのかしら。もしかしたら、子供の頃に、親とか家族と来たことがあったのかもしれません。でも、今は、誰もいなくなって、一人になってしまったのかなと思いました。家族が懐かしくなっても、昔には戻れないと思ったのかもしれないですね。
艶子お祖母ちゃんと将太のお話はとっても良いんだけど、ラジオのパーソナリティーをしているという清らが出てきて、商店街の思い出を集めるという話が出てから、ちょっと色が変わって、あまり面白く無くなったような気がしました。この清らというキャラクターが、あまりにも真面目で、”良い子”を絵にしたような子だったので、イライラしたのかな。私が大嫌いなタイプだったんです。申し訳ないけど、女優さんのように美人とは言えないのに、自分は人より上に立っているというような言葉が、癪に障る感じだったんです。うーん、清らというキャラクター、嫌でした。
「のさり」という言葉は、「自分の今ある全ての境遇は、天からの授かりものである。」という考え方を表した言葉だそうです。なので、寂れた商店街も、一人になった自分も、それは天の思し召しなのだという事だという考えなんだと思います。艶子お祖母ちゃんは、たまたま自分の所に来たオレオレ詐欺の子を将太と偽って、受け入れて、それも、あるがままを受け入れるって事なのかしら。私は、艶子お祖母ちゃんは、一人になった境遇を天からの授かりものとして受け入れず、嘘をついて偽将太を受け入れる事で、神様の境遇を変えてやろうと思ったのかなと思いました。ただ、受け入れるだけなんて、面白くないでしょ。艶子お祖母ちゃんって、そんな可愛いところがあったんじゃないかな。
この映画、艶子お祖母ちゃんの原さんと偽将太役の藤原さんがとても良かったです。ワザとらしくなく、それでいて、お互いに嘘をつきながらだから、ちょっと距離がある感じが、とっても良かったんです。
私は、この映画、お薦めしたいと思います。全く初対面の人を、自分の孫と偽って、家族として生活をするという、ちょっと驚くような展開でしたが、それが、このお二人の演技で、しっくりしてしまうところが、素晴らしいと思いました。導入部はちょっと驚きですが、後は、大きな出来事がある訳でもなく、何となく流れていく感じが良い作品でした。単館系に慣れている方にお薦めしたいかな。ぜひ、観に行ってみてください。
ぜひ、楽しんできてくださいね。
「のさりの島」