「ある画家の数奇な運命」を観てきました。
ストーリーは、
ナチ党政権下のドイツ。叔母の影響で幼い頃から芸術に親しむ日々を送っていたクルトは、終戦後に東ドイツの美術学校に進学し、エリーと恋に落ちる。エリーの父親は、精神のバランスを崩して強制入院し、安楽死政策によって命を奪われた叔母を死に追いやったナチ党の元高官だった。しかし、誰もそのことに気づかぬまま、2人は結婚する。やがて、東のアート界に疑問を抱いたクルトは、エリーと⻄ドイツへ逃亡し、創作に没頭するが・・・。
というお話です。
ナチ政権下のドイツ。少年クルトは美しい叔母に美術館に連れてこられていた。家族で都会に住んでいたクルトだったが、父親がナチ党員になるのを拒んだ為に職を失くし、家族で母親の実家に引っ越していたのだ。叔母はクルトを可愛がり、絵の上手いクルトを芸術に触れさせるようにしていた。
ところが、ある時、精神のバランスを崩した叔母は、ナチの種の選別という考え方の為、強制入院の果て、安楽死政策によって命を奪われてしまう。
終戦後、クルトは東ドイツの美術学校に進学し、そこで出会ったエリーと恋におちる。元ナチ高官のエリーの父親は産婦人科の医師であり、ナチ時代に安楽死政策に関わっていたのだが、KGBの高官の妻を助けた事で戦犯の罪から逃れ、病院の院長職に就くことが出来た。本当なら大量殺戮をしたとして逮捕されるはずだったのだ。
クルトは恋人の父親が叔母を殺した人間とは知らず、彼女の望む通りに、彼女の自宅に部屋を借り、画家としての勉強を続けていく。事態は刻々と変わり、エリーの父親を保護していたKGBの高官が移動となり、東ドイツでは戦犯として逮捕される危険が出てきた為に、彼女の両親は西ドイツへと逃亡する。東ドイツに残っていたクルトも東ドイツのアート界に疑問を抱き、エリーと共に西ドイツへと逃亡する。
エリーと結婚したクルトは、東ドイツでも大学へ通い、職が無かったために、義父が紹介した病院での仕事に就くことになる。その仕事とは、病院の掃除係であり、自殺をした父が就いていた仕事だった。それでも仕事をしながら画家としての勉強を続けていく。
大学の教授に目をかけられたクルトは、教授に今の作品を全否定され、基本に戻り、叔母が遺した「真実は全て美しい」という言葉を胸に、新しい制作に取り掛かる。そして彼が作り上げた新しい作品は、運命を全て取り込んだ作品となり・・・。後は、映画を観てくださいね。
この映画、3時間以上の長い作品なのですが、本当に不思議な運命に導かれ、画家としてのスタートをきることになる主人公のお話は、とても面白かったです。でもね、観ている人たちは、誰がどう繋がっているのか解かっているんだけど、映画の中の人物たちは、運命がどう関わっていたのかを知らないんです。知らず知らずに、叔母の復讐をしていたりがあり、上手く出来ているなぁと楽しめました。
クルトの義父にあたるカール・ゼーバントですが、ナチの高官として種の保存計画を推進し、高等人種のアーリア人の種を保存し、害となるユダヤ人や障がいを持つ者は排除していたんです。クルトの叔母は、繊細で敏感だったので、ナチ政権下で抑圧された中で精神の状態を少し崩しただけだったのに、精神病と診断されてガス室に送られてしまうんです。
カールは、一度は戦犯として逮捕されましたが、ソ連高官の妻の出産を助けて、戦犯の罪を逃れ、良い地位を貰っていたんです。でも、その高官がいなくなれば、調べられて戦犯として捕まってしまうので、東ドイツから逃げるんです。自分は教授なんだと威張っているくせに、危なくなるとその場所から逃げるという人生を送ります。
クルトは、そんなカールを見ながら、画家としての才能を開花させていきます。古いドイツを纏って生きているようなカールに対して、新しい世界を切り開いていく芸術を探して行きます。その対比がとても面白く描かれていました。真実を追って行くクルトに対して、全て嘘で塗り固めて逃げ回るカールの姿は、新しいものと古いもの、戦後と戦前という感じで、上手く作ってあったと思いました。
ちょっと驚いたのは、カールの考え方です。エリーがカールの子供を妊娠するのですが、まだ結婚前だったからなのか、色々と難しい病名を付けて無理に堕胎させるんです。遺伝的な病気があるからという理由を付けていたのですが、嘘だったと思うんですよ。この堕胎によって、その後、エリーは妊娠出来なくなってしまいます。酷くありませんか?自分の孫を殺して、その上、もう子供が作れない身体にしてしまうなんて、父親のやる事じゃないですよね。いくら種がどーのって言っても、自分の娘ですよ。あまりの事にビックリしました。許せませんよね。
悪魔のようなカールの所業に対して、クルトはまるで天使のように、芸術に没頭して行きます。美しいものを求めて、叔母の「真実は美しい。」という言葉を胸に、真実を探していくと、嘘で塗り固めていたカールの罪が見えていくんです。クルトは全く知らないのですが、カールにだけは、その真実が見えて、自分の罪に抗えなくなっていくんです。この辺りが面白かったなぁ。ざまぁみろって思っちゃった。だって、カールって、ムカつくオヤジなんですもん。
このクルトのモデルとなったゲルハルト・リヒターという画家ですが、今、トップと言って良いほどの方ですよね。フォト・ペインティングという絵画から始まり、抽象画が多いのかな。モダニズム、コンテンポラリーアートというジャンルになるのかしら。不思議な感覚を与える絵ですよね。そこに物は無いのに、観る人には解るのだと思います。
3時間の映画ですが、ずーっと時間が流れていくので、それ程苦痛ではありません。話を追って行くと、結構、あっという間に終わると思います。私は、この映画、超!お薦めしたいと思います。私は好きなタイプの映画でした。善人と悪人がはっきり分かれていて、とても解りやすいし、人間の心の動きも良く描かれていました。誰が観ても、楽しめると思います。ぜひ、観に行ってみてください。
ぜひ、楽しんできてくださいね。