「過ぐる日のやまねこ」の試写会に行ってきました。感想を書く前に、先日、公開されちゃいましたね。
ストーリーは、
ある夏の晩、21歳の時子(木下美咲)はガールズバーの仕事を失い、目的もなく東京の街をさまよい歩く。ふと思い付きで長野行きの深夜バスに乗り込んだ彼女は、8歳まで父と住んでいた山間の田舎町を目指す。一方、時子のおぼろげな記憶に残る小さな町で成長した高校2年生の陽平(泉澤祐希)は、絵を描くことが好きで……。
というお話です。
長野の田舎町にある小さな工場の経営者である陽平の父親。彼は、以前、自分の工場で働いていた若者の遺骨をどうしたものかと悩んでいます。ふらっとやって来て、自分の工場に居ついて、仕事をしてくれていた若者は、ある日、山の中の渓谷で転落死をしました。自殺なのか、事故なのか分かりませんが、若者の遺骨を自分のところで供養して良いものか、もしかして御両親とかが居るのかと思い、警察に問い合わせてみたのですが、身よりが無いそうで、親族の墓が、あると言う事を聞き、そこに連れて行ってやるべきなのか、悩んでいたんです。
そんな父親を見て、若者に可愛がられていた陽平は、若者が、この地に居たい、家族などいないんだと言っていた事を思い出し、今更ながら親族と一緒にするなんてと怒ります。そして家を飛び出して、ふらふらしていると、ある女性に出会います。その女性は、時子。彼女は、8歳まで、この町に住んでいたようで、東京で上手く行かず、いつの間にか、自分の故郷に帰ってきたようでした。
2人は、廃墟になった住宅に入ります。そこは、陽平が亡くなってしまった若者と一緒に過ごした場所で、陽平はそこで絵を描いていたんです。そして、実は、その家は、昔、時子が父親と住んでいた住宅でした。そんな因縁もあり、その家に来たんです。何も思い通りに行かず、上手く未来を見つめる事が出来ない2人は、何を話すでも無いのですが、その痛みを分かち合っているようでした。
そんな2人の事は知らずに、飲み屋で話をする陽平の父親と町の人々。派手な服装をした女が町をウロウロしていると話していて、心配しています。そんな陽平の父親に、陽平の同級生の女の子が、陽平が変な女と一緒に森へ入って行ったと言い付けます。驚いた父親は、心配し、陽平の様子を伺っていると、若者の遺骨を持って、森へ消えて行く陽平の姿を目撃します。
急いで、車で追う父親は、陽平と時子の姿を見つけ・・・。後は、映画を観て下さいね。
この映画、PFFスカラシップから出てきた鶴岡監督作品です。PFFと言えば、園監督、内田監督、石井監督など、名だたる監督を送り出した”ぴあ”のフィルムフェスティバルです。ここを出てきたと言う事は、それだけで、おおっ!という感じですよね。私は、特に、内田監督と石井監督が印象的でした。スタートダッシュが凄かったですもん。
なので、期待して観に行きましたが、ちゃんと期待を裏切らない作品でした。お寺での試写会で、畳の上に座っての鑑賞でしたが、なんか、お寺という、特殊な空間で観たからなのか、印象に強く残りました。亡くなった人を思う色々な気持ちを描いていて、うーんと唸ってしまいました。

陽平は、兄と慕っていた人の死を、上手く処理出来ずに、どうしてよいのか分からず、もやもやイライラしているんです。ただ、大泣きして、悲しめれば良いのですが、男の子だし、自分の本当の家族では無かったし、かと言って、兄と思っていた人だし、でも、彼の過去を何も知らないという自分に、イライラしてしまうんです。
そんな息子を、上手く慰められない父親。これは、当たり前ですよねぇ。大人だったら、どんなに可愛がっていた従業員でも、彼に家族が居たかも知れないし、調べて、それなりに供養をしてやりたいと思うのは当然の事だと思います。でもね、陽平には、その行為が、亡くなった若者をどこかへやってしまって、忘れようとしているようにしか見えないんです。
時子の方は、子供の頃に住んでいた家で、自分の家族との事を思い出し、やっぱり、納得出来ていないんです。子供だった時の事件なので、その時は、ただ、呆然とする事しか出来なかったけど、大人になった今は、それがどういう事だったかは解るし、だけど、それを受け容れられないんです。うーん、きっと、私でも、幾つになっても、受け容れられない、いや、受け容れたくないという気持ちがあると思います。でも、それを自分で納得出来るように整理しない限り、先へ進む事が出来ないんです。

そんな、人の死というものに出会った人々の気持ちが、繊細に描かれていて、良かったと思います。私は、唸りました。うーん、解るなぁって。人間、誰でも死ぬものだし、誰もが、それに関わらなければならなくなるんです。だからこそ、それはそれ、自分は自分として、生きて行かなければならないし、受け容れなければね。
悼むって言葉は、死んだ人間の為じゃなくて、生きている人間が納得する為にする事なんです。ハッキリ言って、死んでしまえば”人間”では無く”物質”になるの。魂が抜けてしまうから。だから、物質に意味は無く、ただ、その思いだけが、生きている人間の中に残るだけ。それを理解して、ただ、自分たちが納得する為に、悼みましょうって事。直ぐには無理だけど、段々と受け容れましょう。
私は、この作品、超!お薦めしたいと思います。まだまだ、粗いとは思いましたが、心にぐさっと来る感じは、今までのPFFから出てきた監督たちに負けず劣らずだと思います。これからも、色々な作品を撮ってみて欲しいなって思いました。もっと観てみたいです。ぜひ、観てみて下さい。
ぜひ、楽しんできてくださいね。