イタリア映画祭にて、「グレート・ビューテイー/追憶のローマ」を観ました。
ストーリーは、
ジェップは、ローマの社交界に君臨するジャーナリストです。40年前の小説は、高い評価を得たが、以来、一冊も書けずに、リッチで空虚な仲間と夜を明かす。作家として書くべきものを見出せず、夜明けに一人帰途に着き、追憶にふける彼の日常は、65歳の誕生日を迎え、ほころび始める。元カノのエリーザの夫が訪れ、亡くなったエリーザの日記にジェップへの思いが綴られていたと語る。売れない劇作家の友人ロマーノは、ローマに失望し、故郷に帰る。ヌードダンサーで旧友の娘ラモーナと心を通わせるが、彼女は病気で亡くなる。そんな折、ジェップは、昔、彼の小説に感銘を受けたという104歳の修道女にインタビューする事に。そして・・・。
というお話です。
不思議な映画でした。これ、アカデミー賞の最優秀外国語賞だったんですね。観た後に気が付きました。
この映画、とっても不思議な世界に連れて行ってくれて、主人公のジェップと一緒に、ローマを旅しながら、美しいものを捜し歩いて、その歴史を内包したローマに魅了されて行くんです。そして、自分には何が必要だったのかと言う事に、何となく気が付き始めるという感じなんです。
ただ、空虚で何もない無駄な時間を消費するだけの日常だったジェップ。自分では楽しんでいるつもりだったのですが、ふと気が付くと、既に65歳。自分に何もない事に気が付くんです。40年間、小説は1作しか書いておらず、ジャーナリストと名乗りながら、何もしていないんです。何と、無駄な時間を過ごしてきてしまったのかと思い、無駄な事をしている時間は無いのだと言う事に気が付きます。
自分が書きたかったもの、それは「偉大な美」であり、それを探し続けて来たのですが、今もまだ見つからないんです。周りの人々が一人、二人と居なくなり、自分も、人生の末期に差し掛かったと思い、深夜に街を彷徨い続けて、眠れぬ夜を過ごしています。そんな時に、不思議な104歳の修道女に出会います。彼女は、聖女であり、彼女からの「どうして新作を書かないのか。」という質問を受け、ジェップは、自分の頭の中に、記憶の中に、偉大な美というものが隠されていた事に気が付きます。

映像が、素晴らしく美しいんです。それこそ、偉大な美というものを追っているように、精練な美しさを、そこに描いているんです。ローマと言えば、古い歴史があり、その街自体が、歴史的な書物のようですよね。美しい文章が、どの建築物にも描かれていて、光を湛えているんです。バランス良く、シンメトリーなどが使われていて、その街を訪れると、まるで、自分も古代ローマの一員のような気持ちになる。不思議な街です。その中で、美を探して彷徨い歩くジェップは、まるで、タイムワープしてきた古代ローマ人が、自分の家に帰りたいと思い、家を探し続けているように見えて、その不安感が伝わってきました。自分の居る場所が見つからないのは、不安ですよね。

家が見つかった時、それは、モヤモヤした頭の中に、サーッと青空が広がるような、狭い箱の中から、外に出たような、そんな気持ちになります。きっと、ジェップにも、そんな事が起こったんじゃないかな。表情が、それまでの下向き加減の顔から、晴れやかな顔に変わって行くんです。その表情一つで、彼が何かに気が付いたということが判るんです。

ジェップを演じたトニ・セルヴィッロさんは、「自由に乾杯」にも主演されていて、素晴らしい役者さんですね。同じ映画祭の中の作品で、全く違う人物を演じているのに、違和感が無いんです。まして、「自由に乾杯」では、2役も演じているのに、それでも、全く問題が無いなんて、凄いです。ステキなオジさまですね。

私は、この映画、とてもお勧めしたい映画です。でも、これ、フィーリングの映画なので、映像とか、美しさとか、そういう雰囲気を読んでいくことが好きな人には良いけど、話の筋を追って、起承転結が欲しいような人には、あまり面白いと思われないかも知れません。これは、話が面白いとかでは無く、ストーリーと映像のバランスが、1:1なんです。どちらかに重きを置いて観ると、バランスが悪いように見えるんですけど、話を読みながら、映像のバランスの美しさを観て行くと、その対比が上手く組み合わされていて、観ていて、とっても気持ち良くなるんです。上手く伝えられないけど、解って欲しい。今夏8月に公開予定なので、ぜひ、観に行ってみて下さい。
ぜひ、楽しんできてくださいね。
