「凶悪」を観てきました。
ストーリーは、
ある日、ジャーナリストの藤井(山田孝之)は、死刑囚の須藤(ピエール瀧)が書いた手紙を持って刑務所に面会に訪れる。須藤の話の内容は、自らの余罪を告白すると同時に、仲間内では先生と呼ばれていた全ての事件の首謀者である男(リリー・フランキー)の罪を告発する衝撃的なものだった。藤井は上司の忠告も無視して事件にのめり込み始め……。
というお話です。
この映画、深かったなぁ~。人間の中に潜んでいる狂気と狂喜が同じものだって気づかされました。恐ろしい殺人をしているのに、楽しくなってきちゃう人たちの姿が、なんとも滑稽で、恐ろしくて、グロテスクに見えるんです。そして、それを観ている私も、何となく、おかしくなってきてしまう。笑ってしまう・・・。自分が怖くなりました。
死刑囚の須藤から手紙を貰い、面会に行った藤井に、須藤は、まだ話していない殺人が3件あると告白します。それは、その殺人を主導した”先生”と呼ばれる男に復讐をしたいと思ったからです。どこにでも居るような不動産屋のオヤジなんですが、それが、とんでもない極悪野郎で、最初は、オドオドしているんだけど、あっと言う間に、その状況に慣れて、人殺しが日常の出来事のようになっちゃって、歯止めが利かなくなっていく姿が描かれています。
不動産屋って、都市伝説で、地主を殺したとか、監禁して印鑑を押させたとか言われるけど、これ、都市伝説じゃないんですよ。人殺しをした人は知らないけど、監禁して無理やり印鑑を押させるなんて、大手の不動産屋だってバブルの時期はやっていた事です。いきなり山奥に連れて行くとかね。これ、マジな話ですから。だから、人殺しだって、やっていた人、居ると思うんですよ。だって、朝、取引した1億の土地が、昼には2億になっている時代ですよ。そりゃ、人を殺して、土地を奪って、転がしたくなるのは当たり前。今の時代は、土地の値段が動かないから、人殺しをするほどの価値は無いんだろうけどね。
だから、この話、凄く私には理解出来るものでした。自分の利益の為には、何でもしてしまう男。不動産は、大きなお金が動くから、動かしている人間は、その欲も膨大になるし、お金に取りつかれて行く。それは、仕方のない事だと思うけど、やっぱり恐ろしいと思います。現代は、為替で大きなお金を動かす人が多いから、その方面の方も、気を付けてくださいねぇ。
話を戻して、須藤から聞いた話を元に、事件を追い詰めて行く藤井なのですが、そこには凶悪としか言いようのない事実がいくつもありました。藤井は、その事件にどんどんのめり込み、まるで自分が裁く側の神になったような気持ちになって行きます。自分が裁かなければ、誰が裁くのか、そんなように見えました。

マスコミは、自分が、さも、正しい事をしているような顔をするけど、人間として間違ったことをしているという感覚は無いのでしょうね。とても傲慢で、自分たちは真実を伝えているのだから間違えは無いと言い放つ。でも、人間は、知る必要が無い真実もあるんです。どんな事件だって、被害者の生活とか知る必要なんてないでしょ。面白おかしく記事にするけど、被害者は被害者で、その人の事を知る必要は無いんです。そして、真実と言いながら、真実を湾曲して伝える事も多い。どこかからの賄賂で随分と都合良く真実を曲げたり、隠したりも多いじゃないですか。どこがジャーナリズムなんだか、解りません。
藤井は、正義の味方なんだと思いながらも、自分が一番凶悪だという事に気が付いたと思います。事件を追っていく過程で、のめり込んで、憎しみが膨らんでいくのに気が付いたはずですから。それは、実際に人殺しをするのとは違いますが、人を陥れたり、精神的に壊したり、追い詰めたり、人間としての心を殺すことと同じなんです。
もちろん、人殺しなどの犯罪を起こす人間は悪人ですし、裁かれるべきだと思います。だけど、それは、マスコミがやるべきことでは無く、裁判の中で、選ばれた人がするべきことです。勘違いするなって事じゃ。マスゴミが口を出すなって事よ。いやぁ、マジで、ワイドショーとかで偉そうな事言っている奴、最悪ですもんね。映画の中では、藤井は、とても真面目で誠実そうに見えるんだけど、真面目だからこそ、勘違いしてしまうんじゃないかなって思いました。自分はマスゴミなんだって自覚していれば、自分の中に悪を取り込むことは無いと思うんですよね。
私は、この映画、お勧めしたい映画の1本に入れたいと思います。すごく深いのよ。考えれば考えるほど、観ている自分が、もしかしたら一番凶悪なのかも知れないって思ってしまう。映画の中の人物を追い詰めているつもりで、自分が攻められていくんです。この作り方、面白いなぁって思いました。あまり考えたくない人には、お勧め出来ないかな。そういう人だと、ピエールさんとリリーさんが悪い人って思って終わりになっちゃう。(笑)
ぜひ、楽しんできてくださいね。
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