昨日、「許されざる者」の完成披露試写会に行ってきました。キャストの方、勢ぞろいで、ステキでしたよ。この様子は、ワイドショーで流れると思うので、観てくださいね。
ストーリーは、
1880年、開拓が進む江戸幕府崩壊後の北海道。人里離れた土地で子どもたちとひっそりと暮らす釜田十兵衛(渡辺謙)だが、その正体は徳川幕府の命を受けて志士たちを惨殺して回った刺客であった。幕末の京都で人斬(き)りとして名をとどろかせるも、幕府崩壊を機に各地を転々と流れ歩くようになり、五稜郭を舞台にした箱館戦争終結を境に新政府の追手をかわして失踪。それから10年あまり、十兵衛に刀を捨てさせる決意をさせた妻には先立たれ、経済的に困窮する日々を送っていた。そこから抜け出そうと、再び刀を手にする彼だが……。
というお話です。
人切りとして、誰からも珍重された十兵衛だったのに、時代が変われば、唯の人殺しとして追われる事となってしまう。ある時は英雄で、ある時は罪人。考えてみると、”勝てば官軍負ければ賊軍”なんですよね。いつの世でも、勝った者が自分の良いように歴史を書き換えてしまう。だから、全ての人間が許されない者なんです。勝とうが負けようが、罪を重ねているんですから。
そんな人間の性というか、抗えない生き方を、明治初期の荒れた北海道を舞台に、深く深くえぐって、描いています。私、クリント・イーストウッドの「許されざる者」を観ていないんです。この映画を観る前に観ようかとも思ったのですが、あえて、何も知らずに観てみました。日本人の感覚のみで観てみたかったんです。でも、この映画を観てみて、許されざる者というテーマが、やっぱり、キリスト教の”罪に対しての神の許し”という救いが基礎にあるからこその内容なのかなと思いました。どんな人間も罪人であり、許されざる者だけれども、ただ神だけが許してくれるのだと言っているように思えました。
十兵衛は、あまりにも貧しく、子供にも食べさせて行くことが困難になり、賞金稼ぎの話に乗る事にするのですが、賞金首が居る街には、大石という警察署長が居て、街を牛耳っているんです。武器の持ち込みは禁止だし、自分の思い通りに部下を使う。だから、住民は文句を言う事も出来ないんです。
大石の側から見れば、街を安全に取り締まる為に武器を持たないようにさせて、力で恐怖を覚えさせて、犯罪を減らすという方式を取っているだけ。混乱した時代に、町を無法地帯としない為には、こういう手段も仕方なかったのではないかと思います。彼の側からすれば、住民の為だったのですが、人々からは、その剛腕を嫌われたのではと思います。
女郎の側からすれば、かわいい仲間の顔を切り刻まれ、犯人の男を裁いて欲しいと思うのが当たり前ですが、大石は、犯人の男に馬7頭で罪をチャラにしてやると言い、女郎たちの満足行く裁きをしません。それは、きっと、開拓時代に労働者を殺すのは勿体無いし、もっと蝦夷の地を開発しなければならないという使命を考えたのだと思います。むろん、女郎はそれを納得せずに、犯人の首に賞金を懸けます。これも、当たり前ですよね。仲間をやられ、次は自分達かも知れないんですから。
どこまで行っても、殺った殺られたという話になってしまう。すべての人間が、納得する答えなんて無いんです。それは、今の社会でも同じ。十兵衛も、妻との生活で、俗世のそういう納得出来ない現実と離れていたのですが、子供たちを生かすために、自分が俗世へ降りて、賞金を稼いでくることを決意します。

ここで、やっぱり彼が罪人だと思うのは、お金の為に殺人をすることを良しと考えている事です。子供のためとは言え、殺人は殺人。もし、一度でもやってしまったら、妻と暮らした世界には戻れなくなると思わなかったのかしら。結構、簡単に賞金稼ぎに出かけて行く姿に驚きました。もし、私が死んだ妻なら、人を殺した手で子供たちを触って欲しくないと言うと思うな。
賞金を懸けられた男を殺す為に街へ行き、街全体を敵に回す事になってしまう十兵衛たち。残酷なクライマックスに突入することになります。そこは、観て楽しんでくださいね。
どのキャラクターも、それぞれに正しいと思う事をしていて、極悪人では無い気がしました。女郎の顔を切った男も、実は、アソコが小さいと笑われて、耐えられなくて切ってしまうんです。それくらいと思うけど、彼にとっては、すごいコンプレックスだったのではないかと思います。それぞれに、理由があるんですよ。だけど、悪いことは悪いの。罪は罪だから。本当に、難しい話だよね。
アイヌ民族の受難も描いているのですが、アイヌは酷い扱いをされていたんですね。柳楽くんが、アイヌの男を演じているのですが、彼の行動によって、アイヌがどれほど差別され、辛い暮らしを強いられていたのかということが解ります。柳楽くん、上手いよねぇ。今回の彼の役を観ていて、ジョニー・デップを重ねてしまいました。まるでトントなの。先住民で、面白おかしい態度をしているけど、すごい悲しみを抱えているんです。柳楽くん、ジョニー・デップのように、色々な面白い役もシリアスな役も、なんでも挑戦して欲しいな。きっと、日本のジョニーになれると思うな。
とても良い映画で、感じる事があり過ぎるんだけど、長くなっちゃうからここら辺で止めます。既に長いけどね。(笑)
私は、とてもお勧めしたい映画だと思います。深くて、考えれば考えるほど、人間の業や、罪、性など、たくさんの事が頭の中にいっぱいになります。悲しいけど、全てを背負って、人間は生きて行かなければならない。でも、それで良いんだって、人間なんだから仕方ないんだって思おうと思います。仕方ないじゃん、人間だもの。(by.ミツオ)(笑) ここで、アメリカなら、神が救ってくれるんだろうけど、日本ですからね。(笑)
ぜひ、観に行ってみてください。素晴らしい映像と、確実な演技で固めている俳優が、満足させてくれるはずです。但し、クリント・イーストウッドの「許されざる者」を私は観ていないので、それと比べてと言われると、待ったく解りません。そこは、観た方が比べてみてください。
ぜひ、楽しんできてくださいね。
・許されざる者@ぴあ映画生活