「その夜の侍」人間の業と道理、どう折り合いを付けていくのか。侍なら理解出来るはず。 | ゆきがめのシネマ。劇場に映画を観に行こっ!!

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観てきた映画、全部、語っちゃいます!ほとんど1日に1本は観ているかな。映画祭も大好きで色々な映画祭に参加してみてます。最近は、演劇も好きで、良く観に行っていますよ。お気軽にコメントしてください。
スミマセンが、ペタの受付を一時中断しています。ごめんなさい。

今日は、「その夜の侍」の舞台挨拶が川崎であるというので、チケットを購入し、行ってきました。


ストーリーは、

小さな鉄工所を経営する中年男の中村(堺雅人)は、5年前に木島(山田孝之)が起こしたひき逃げ事件で最愛の妻を失ってしまい、抜け殻のようになりながらも復讐(ふくしゅう)することだけを考えて日々を生きていた。やがて、刑期を終えて出所した木島のもとに、復讐(ふくしゅう)を遂げる日までのカウントダウンを告げる差出人不明の脅迫状が届くようになる。そして妻の命日の夜が訪れ、ついに中村と木島は対面を果たすが……。
というお話です。

ゆきがめのシネマ。試写と劇場に行こっ!!-侍

この作品、私、すごい感動でした。最後のシーンを観ながら、涙がぼろぼろ流れて、人間って、日本人って、侍というか、何か心の深いところに、人間としてのプライドと優しさを持っていて、最後の最後には、その芯にたどり着き、そして起き上がるのだと思いました。辛さや悲しみを表に出すような、みっともないことを良しとせず、それを内に秘めて、強く美しく立ち上がるのだと感じました。


事故が起きれば、必ず被害者と加害者がいますよね。普通に暮らしている私たちだって、いつ、その被害者に、加害者になってしまうかもしれない。この映画でも、はっきり言って、どちらの側も、悪意はまったく無かったと思うんです。誰も、自動車事故を起こしたくて起こしている訳ではないし、たまたま、そこで出会って、事故が起きてしまった。観ていただければ、加害者が全面的に悪いとは言えないのではないかと思います。確かに、車の不注意ではあるけど、自転車側も、道路の真ん中を、回りを見ないで飛ばして来るのは間違っているでしょ。


ゆきがめのシネマ。試写と劇場に行こっ!!-侍

もちろん、事故を起こして、被害者をそのまま放置して逃げてしまうのは、ありえないし、絶対に許せないけど、でも、観ていると、もし、自分が加害者になってしまったら、怖いし、動転してしまうし、逃げてしまいたいという気持ちが沸き起こってくるのも解る気がするんです。そこで逃げてしまうのは弱い人間だと思いますけど。


妻を殺されてしまった中村(堺さん)は、加害者の木島(山田くん)が出所してくるのを待ち、復讐をしようとします。彼は、妻を亡くした後、ずっと引きこもり、妻の衣類を抱き、少し精神的に狂ってしまったような状態なんです。そんな彼を心配して、亡き妻の兄(新井さん)は、女性を紹介したり、色々気遣って、彼が復讐なんて考えを辞めてくれる事を願っているんです。

中村は、復讐をすると心に決めているのですが、周りの人々の気遣いも感じ、色々悩みます。このまま復讐することが良いのか、それとも・・・と・・・。愛する妻を殺されたら、そりゃ、相手を殺そうと思いますよね。私だって、夫を殺されたら、必ず殺してやると思うもん。でも、それを実行するかどうかは別ですよね。だって、相手も人間なんですもん。相手にも家族がいるし、感情を持っている。殺人を好んでやっている怪物ではないんですから。

ゆきがめのシネマ。試写と劇場に行こっ!!-侍


そして木島も、オレは悪い奴だからって行動しながらも、どこかに悲しみがあり、情があるように見えたんです。事故を起こし未来も潰れてしまい、自爆放棄になっているけど、でも、やっぱり心の奥に悪いことをしてしまったという良心の呵責があり、殺してしまったのだから償いようが無いと自分を責めているんです。


この二人を見ていると、もし自分がどちらかの立場になったら、本当にどうしようという気持ちが沸いてきて、悲しくて、苦しくて、でもどうしようもない、償えない、償わせられない、何もしようが無いという堂々巡りの考えに陥ってしまい、本当に観ていて辛かったです。これは、この二人だけの話じゃない、誰もがいつ抱くかもしれない問題なんです。


ゆきがめのシネマ。試写と劇場に行こっ!!-侍


映画の中に印象的なセリフがいくつも在りました。まず、ある場面で「普通に生きる為には、全力で戦わなければならない。」というようなセリフがあって、本当にそうだなって思いました。普通に生きるってことは、何もしないことじゃなくて、必死で働いて生きて学んで、それでやっと普通の生活が出来るのだと思います。ボンヤリしているのは、普通に生きているとは言えません。


もう一つが、デリヘル嬢(安藤サクラさん)が、どうしてそんな仕事しているのと聞かれ、「暇だから。」って答えるんです。現代の人間の姿を、その一言で表しているようで、突き刺さりました。何の為に生きているの?って聞きたくなるような人って、街中にたくさん居ますよね。暇って何なのよっ!!自分で自分がやることを見つけないで、生きている意味なんてあるの?意味が無いなら、死んでしまえばいい!あ、ちょっとエキサイトしてしまいました。ゴメンナサイ。

ゆきがめのシネマ。試写と劇場に行こっ!!-侍

本当に、自分たちの、今のやる気の無い、泥水に浸かったまま、たゆたっているような日常を描いているようで、心に突き刺さりました。そして、生きるってこと、人間ってこと、侍=日本人のプライドを思い出させてくれるようで、感動しました。憎しみは誰でも持っているけど、相手を人間として認識し、もちろん自分も人間として自覚して、未来を見る必要があるのだと考えさせられました。

彼らがどういう結末を選ぶのか、その目で観てきて下さい。感動すると思います。私は、なんとなく、このラスト、藤沢周平さんの小説の最後っぽい気がしました。そこに、侍としての男を見ることが出来たんです。きっと、彼らは、それぞれに解放され、未来を見て歩いて行けると思います。そこに、傷は残っても、傷は勲章のようなもの。それが在るからこそ、カッコよく生きていける。そう、カッコ良くなくちゃ、生きる意味なんて無いですもん。表面のカッコ良さじゃないですよ、内面のカッコ良さです。


キャストは、ピッタリだと思いました。堺さんは、堺さんに見えないようなオッサンでしたし、山田くんも新井さんもすごかった。やっぱり、上手い人たちが、こういう感情劇をやってくれると、その表情としぐさで、内面が読み取れて、心にグッときますね。


ゆきがめのシネマ。試写と劇場に行こっ!!-侍

この映画、私は、超お薦めしたい1作です。舞台挨拶で、監督や堺さん、山田さん、新井さんが、映画が終わると、暗くなって出て行くことになると思うけどっておっしゃっていたけど、私は、ラストの向こうに、未来が見えました。心の重荷を捨てて、きっと未来に歩いて行ける彼らの姿が、そこに見えると思います。私には、頑張ろうっていう映画に思えました。ぜひ、観に行ってみて下さい。カメ


P.S : これ、舞台でも観たかったな。舞台で、魂の咆哮を聞いたら、号泣してしまいそうです。


スミマセン、あまりにも感動して、感想が長くなっちゃいました。ゴメンナサイ。



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