東京国際映画祭のコンペティションで、「テセウスの船」を観ました。
ストーリーは、
製薬会社の動物実験に抗議する一方、自らが病に倒れ薬に頼らざるを得なくなる男性。薬を拒否し、衰弱していくが…。人間の選択した行為と、その行為が内包するパラドックスをテーマにムンバイを舞台にした3つの物語。巧みなストーリーテリングと深い人間洞察が刺激的。
という内容です。
テセウスの船とは、パラドックス(メビウスの帯とかクラインの壷みたいの。)の1つであり、テセウスのパラドックスとも呼ばれる。ある物体(オブジェクト)の全ての構成要素(部品)が置き換えられたとき、基本的に同じであると言えるのか、という問題です。ギリシャの伝統から来ているようです。
これ、海外ではパラドックスかも知れないけど、日本では、パラドックスになりえないですよね。だって、日本には、八百万の神が居て、どんな物にも魂が存在し、付喪神(つくもがみ)という神が宿っているという教えだから、どの部分を取り替えようと、そこに存在する付喪神は変わらないでしょ。人間だって、その魂(ゴースト)は変わらないということだから、どんなに移植を受けようと、iPS細胞で新しいものに変えようと、その人はその人。変わらないんです。
この映画でも、たとえ内臓を移植しようと、何をしようと、その人は変わらずその人で、もちろん、臓器移植によって、考え方などは変わるかも知れないけど、それは、その人がバージョンアップしたというだけで、人が変わった訳ではないんです。きっと、そういう事を言っているのだと思いました。
魂とはなんなのか。動物実験に抗議するけど、動物実験をしなければ人間を助ける為の薬の開発も出来ないし、かと言って、人間の為に動物を苦しませて殺していいのかという問題もありますよね。出来たら、動物実験なんて無くなれば良いけど、でも、必要悪だと思うんです。それって、人間が豚肉や牛肉を食べるのと一緒でしょ。命を奪って、人間が生きている。それは、人間が負わなければならない罪なんです。
3つの話がオムニバスで構成され、最後にその3つの話が繋がるということなんですが、結構、あー、そうなのかって感動しました。最後に、ある理由で洞窟の映像が流れるのですが、人間の人生なんて、洞窟の中をもがいて進むようなもので、時々、隙間から差し込む光を求めて、彷徨い続けるのだという哲学的なものを描いているようで、すごく感動でした。なんか、とっても良かったなぁ。
魂とは、肉体とは、物質とは、色々な事を、哲学的に考えると、とても面白いものが見えてくる。それが、この映画が描いていることだと思いました。考えれば考えるほど、面白いの。
でも、日本には、付喪神(つくもがみ)という考え方があって、本当に良かった。難しく考えず、神社にも、鍵にも、ぬいぐるみにも、魂があると思えば、物を大切にするし、ただ新しいものに変えるのではなく、その物の事を思って、手直ししたり、いつまでも大切に受け継いでいく。とても素晴らしい思想だと思います。
私、この映画、すごくお薦めしたい映画です。私は、こういう映画、大好き。映画を観ながら、一緒になって、答えを探しながら、頭を回転させていく、まるで本を読んでいるような展開に、引き込まれました。でも、あまり哲学的なものを深く考えるのが苦手な方には、ちょっとつまらないかも。
もし、公開されるか、DVDになったら、ぜひ観てみてください。これ、学校とかで観たら、すごい勉強になるんじゃないかなぁ。素晴らしい映画です。
http://2012.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=23