イタリア映画祭、7作目は、「錆び」でした。ちょっと順番が前後しますが、先にアップします。
ストーリーは、
1970年代後半、北イタリアの町はずれに、優秀な医者が赴任する。尊敬の念で見る大人たちだったが、子供たちの目に映るのは全く違う姿だった。やがて、凶悪な事件が連続して発生、少年少女の三人に大きなトラウマを残すことになる。30年後、大人になった彼らははたして…。フィリッポ・ティーミ、ステファノ・アッコルシ、ヴァレリオ・マスタンドレアが出演。鬼才ガッリャノーネ監督がスターとタッグを組んだ意欲作は、昨年のヴェネチア映画祭で高く評価された。
というお話です。
1970年代のイタリアで、恐ろしい事件が起こります。大都市ではないけど、団地がいくつも建っている中都市かな。そこでは、小学生くらいの子供が多く、みんなで大騒ぎしながら、走り回って遊んでいるのですが、子供は、大人を良く見ているので、大人が噂していることをそのまま受け取っているんですね。南部のイタリア人はイヤとか、あの地域の人は良くないとか、大人の話を聞いて、子供同士でも敵対したりするんです。そんな日常で、不思議なことが起こり始めます。
子供の頃って、大人に性的虐待などをされた時、それを親に話すべきなのか、話したら怒られるのか、悪い事なのか、悪い事をしたのは自分のせいなのかと、子供なりにすごく考えると思うんです。そして、自分が汚いような気持ちになって、引きこもってしまう。助けてあげたいけど、話してくれないと何も解らないですよね。そして、この秘密は、その子供が大人になるまで背負っていかなければならないものになり、トラウマになってしまう。いつもいつも、自分に付きまとうんです。そんな悲劇を背負った子供をこの映画は描いています。
大人は狡猾で、見た目はとても聖人君子で、誰もが羨むような経歴を持ち、誰からも疑われないような羊の皮を被り、子供の前では、その羊の皮を脱いで狼になります。子供が必死で、この人は狼だよって訴えても、大人は、表面しか見ていないので、その恐ろしさが解りません。
悲劇が何度も起こり、子供達は、自分達が立ち上がらなければ、身近な者が犠牲になると思い、対処し始めます。これ、少しネタバレになってしまいますが、クライマックスに突入するきっかけの事件で犠牲となる女の子の名前は”ロザリオ”と言います。そうです、十字架です。子供達は、彼女の為に、一生、十字架を背負うことになるという暗示なんです。
大人になった彼らは、何かにつけ、その事件を思い出します。思い出すというよりも、身体に染み付いてしまっていて、離れないんです。ノイローゼの人が、自分の臭いが気になってしまい、いつも手を洗ってしまうような、そんな感じでしょうか。いつでも浮かんでくる悪魔の顔。そして、それに気がつかない、いや、見ない振りをしている大人に対してのイラつきが湧き上がってきます。酷い経験をしてしまった子供は、一生、そういうものに付きまとわれるんです。だからこそ、子供の言葉を聞いて、信じることが、大人が出来る唯一の方法なのではないかと考えました。映画の中に悲鳴の場面はありませんが、子供の頃の彼らからも、大人になった彼らからも、心の奥底から湧き出る悲鳴が聞えていました。
観た後の、会場の印象があまり良くなかったようで、Q&Aでも、音が合わないとか、大人になった子供達の部分はどーだとか、色々な疑問点や意見が出ていましたが、聞いていて、大人って、やっぱり子供の気持ちが解ってないんだなって思いました。この映画、自分も子供の一人になって、幼児性愛者に出会ってしまったら、どうしていただろうということを考えたら、すごく深くて、辛い映画なんです。音の効果も、緊迫した場面で緊張して倉庫の中を進む子供にとって、全身が敏感になっているので、音が高く、キーンとした金属音のように聞えるというのは、当たり前なんです。身体全部で音を感じてしまっているんですから、音が異常に大きいのも当たり前です。こういう事を大人になって忘れてしまったのか、それとも、子供の頃から、あまり敏感な人ではなかったのか解りませんが、繊細な子供ならば、必ず、こうなります。
周りの人と私の印象って、結構、違ったのかなって思いました。確かに、私も、最初の方の子供の闘争部分では、ウトウトしてしまったりしましたが、子供を襲う事件が起こり始めた辺りから、もう、引き込まれて、心が締め付けられるようでした。どうして大人は、解ってくれないの?私も、もう、大人だけど、でも、映画を観ている時は、子供になり、繊細な子供の気持ちを体験していました。犯人は、絶対に許せない。悪魔は倒してやるって・・・。
どうしたら、こういう幼児性愛者から子供を守れるのでしょうか。大人が子供に対しての仕事につく場合は、何かの機械で、その精神構造を調べる必要が出てきているのではないかと思います。そして、親による虐待も、もっと警察や福祉事務所が踏み込めるような法律が必要です。子供の駆け込み寺らしきところも、あっても良いのでは?少子化を叫ぶより、まず、生きている子供を守ることを考えて欲しいです。
私は、すごく考えさせられる映画でした。これから、子供に対する職業につくような人間は、こういう映画を観て、どれほど子供が傷つくのか、知ったほうが良いと思います。ああー、考えすぎて、感想も長くなってしまった。私は、素晴らしい映画だったと思います。出来たら、日本公開して欲しいなって思いました。
ダニエーレ監督、素晴らしい映画、ありがとう。