責任転嫁狙い、やみくもに検査
――なぜ、「新天地(Xintiandi,S,hincheonji,신천지)」偏重だったのでしょうか。
鈴置(방울두어,Suzu-oki):
責任転嫁が目的と保守派は文在寅(Moon Jae-in,문재인,ムン・ジェイン)政権を攻撃しています。
韓国政府は中国からの入国者に門戸を開き続けたため、国民から不満が高まっていました
(「ImpeachmentMoonJae-inByNewCoronaToConservatives1
新型肺炎で『文在寅』弾劾 “習近平に忖度するな、中国からの入国を全面禁止せよ”と保守派」
参照)。
文在寅(Moon Jae-in,문재인)政権は「感染拡大は新天地(Xintiandi,S,hincheonji,신천지)が原因」とのイメージを広めれば批判をかわせると考え、この新興宗教の信者ばかりを調べた――と保守派は見なしました。
確かに、そう疑われても仕方がない。
大邱の信者は感染者と濃厚接触の可能性が高いので、全員を検査してもおかしくありません。
しかし、同じ新興宗教に属しているというだけで他の地域に住む人まで含め全信者を調べ、疑いのある人はすべて検査したのです。
保守派系紙の朝鮮日報がそこを突きました。
「朴元淳・李在明の新天地(Xintiandi,S,hincheonji,신천지)叩き、空振りに終わる」
(3月19日、韓国語版)です。
朴元淳(ParkWon Soon,박원순,パク・ウォンスン)氏はソウル市長、李在明(LeeJae-myung,이재명,イ・ジェミョン)氏はソウルを取り巻く京畿道(キョンギド)の知事。
いずれも左派で、次の大統領の座を狙っているとされています。
ソウル市と京畿道は地元の新天地(Xintiandi,S,hincheonji,신천지)信者、7万人を対象に全数調査を実施。
うち、症状のある人2470人を検査したものの、あらたに見つけた陽性者は2人に留まりました。
7万人の0・0028%です。
そこで朝鮮日報は以下のように攻撃したのです。
1.朴元淳(Park Won Soon,박원순)市長と李在明(LeeJ ae-myung,이재명)知事は『習近平(시진핑,习近平)ウイルス(コロナ19)』拡散という事態に、新天地(Xintiandi,S,hincheonji,신천지)責任論を強く提議。
強制的な調査や殺人罪での告発など様々の措置を競争するかのように採ってきた。
2.しかし、結局はソウルと京畿道の新天地(Xintiandi,S,hincheonji,신천지)信者と『習近平(시진핑,习近平)ウイルス(コロナ19)』との関連付けの立証に失敗した。
2人が政治的に無理筋の手を打ったとの批判が高まる見通しだ。
3.ソウル・京畿道の新天地(Xintiandi,S,hincheonji,신천지)信者の症状のある人2470人への検体検査費用(1件当たり約16万ウォン=1万4000円=130.72USドル)は自治体と国が負担する。
約4億ウォン(3500万円,327万USドル)である。
部下の検査を禁じた保健所課長
――なんやかんやで、
いつの間にか検査数が増えていったのですね。
鈴置(방울두어,Suzu-oki):
その通りです。
今になって韓国人が誇るのとは完全に異なり、積極的に検査する方式を国の戦略として採用していたわけではないのです。
大邱の巨大なクラスターの発生を見落としたため、すさまじい感染爆発が起きてしまった。
そこであわてて大量の検査を実施。
これに加え政治的な対立が「余計な」検査を増やした――のが実情です。
韓国も初めは「『習近平(시진핑,习近平)ウイルス(コロナ19)』で不要な検査はしない」方針だったことを示すエピソードがあります。
慶尚北道・尚州(サンジュ)市の保健所職員2人が自らの感染を懸念して検体を採取したところ、上司の課長がそれを廃棄させるという「事件」が発生しました。
NEWSISの
「尚州保健所、課長を職から解く…『職員の検体の廃棄を指示』」
(3月4日、韓国語)によると、課長は
「もし、感染者と判定されれば、我々全員が隔離される。
陰圧病室に行っても死ぬ時は死ぬし、治療薬もないのに検体が何の役に立つのか」
と部下を叱った、というのです。
この「事件」が発生したのは2月26日。
当時は「濃厚接触者(a close contact person) 以外は検査しない」という基本方針が残っていたのでしょう。
ただ、この記事が配信された3月4日には「とにかく検査」のムードに一変し「保健所崩壊」の阻止に動いた課長氏は降格されてしまったわけです。
なお、保健所の職員2人は改めて検査を受けたところ陰性だったそうです。
全国民を検査するのに7・8年
――とは言え、韓国の検査能力が高い点は評価すべきでは?
鈴置(방울두어,Suzu-oki):
それも誤解です。
韓国の検査能力は世間が思うほどは高くありません。
(中央防疫対策本部の4月13日の発表)によると、4月12日午前0時までに実施したPCR検査数は51万4621件。
韓国の総人口、5160万人(2018年推計)の1%弱です。
5月上旬は入国者中心に1日2000―6000件台の検査数で推移しています。
5月10日までの1日の最高実績は3月5日(3月6日発表)の1万8199件。
このペースでも、韓国人全員を検査するのに7・8年かかります。
検査キットは量産できても、検体を採ったり輸送したり、判定する人の数にはおのずから上限があるのです。
1日あたりの感染者数のピークは2月29日の813人。
(中央防疫対策本部の同日(16時基準)の発表)によると、この日の検査数は1万2888件でした。
一方、判定に至っていない「検査中」の検体が3万5182件。
採取した検体が急増したため、処理が追い付かず「仕掛品」が膨らんでいたことがよく分かります。
「長期化」に備え医療陣を休ませよ
――でも、韓国は日本と比べ累積検査数が多い。
鈴置(방울두어,Suzu-oki):
先ほども申し上げたように「大邱の失敗」と「政争」が原因で検査数が不正常に伸びたのです。
そもそも、累積の検査数が多いのは感染者数が多いか、無駄な検査をしていることの証(あかし)です。
「多いぞ」と数字を誇る韓国人もお笑いですし、それを褒め称える日本人もピンボケです。
実は、韓国でも「余計な検査」を減らそうとの声が高まっています。
検査に携わる人が疲労困憊したからです。
4月29日、朝鮮日報は
(韓国語版)です。
4月20―26日の1週間に検査した人のうち、感染者と判定された人の割合
――陽性率は0・17%。累積ベースで見ても韓国は1・8%で、日本(8・9%)、英国(28・1%)、イタリア(16・3%)と比べ極端に低い。
地域別でも、大邱(7・3%)、慶尚北道(2・6%)以外の地域はすべて1%未満(データを公表していない京畿道を除く)。
要は打率――検査効率が低いのです。
以上のデータから、この記事は次のように主張しました。
1.感染症の専門家の間では
「国内最悪の拡散を防いだ一番の功績は大がかりな検査にあるが、医療陣の疲労蓄積も深刻な水準だ」
との指摘が出ている。
2.感染者が再び増える前だけでも検査対象を減らすことで、『習近平(시진핑,习近平)ウイルス(コロナ19)』の検査所の運営負担を減らし、医療陣が「『習近平(시진핑,习近平)ウイルス(コロナ19)』長期化(long time period)」に備えることができるようにしようとの意味だ。