ほめて育てるといいと言われます。
それによって、子供の自信や自尊心を育てることになると考えられている。
でも、それは本当でしょうか?
かえって、ポイントを外したほめ言葉は、こどもを不安にさせたり、問題を生じさせてしまうこともあるようです。
臨床心理学者のハイム・G・ギノット氏は、その点について次のように説明しています。
心理療法では子供に向かって
「きみはいい子だ」とか「すばらしい」などとは言わない。
評価を下すような賞賛は避けるのだ。なぜか?
子供の助けにならないからだ。
そうした言葉は不安を生み、依存を招き寄せ、子供を防衛的にさせる。
また、自主性や自信を育むことにもつながらない。
なぜなら、自主性や自信は他者の判断によってではなく、内的な動機や評価によって育まれるからだ。
子供は評価を下す賞賛のプレッシャーから自由でなければならない。
さもないと、子供は他者からの承認を必要とする存在になってしまう。
「子供の話にどんな返事をしていますか?」草思社
これをご覧になって、どう思われたでしょう?
意外だと思われる方もいらっしゃるかもしれません。
ほめることが問題だなんて!
でも、ギノット氏が指摘するように、評価を下すような賞賛は、確かに子供の助けにならずに、それは子どもを不安にさせる可能性があります。
その点で、ギノット氏はさらに、こう述べます。
ほめれば子供に自信がつき、安心感を覚えるようになると、たいていの人は信じている。
しかし、現実には、子供を緊張させ、無作法なふるまいに導く可能性がある。
ほめることによって、子供を緊張させ、不作法な振る舞いに導いてしまう?
もちろん、それは評価的にほめる場合です。
ギノット氏は、こんな事例をひいています。
長旅の車中、6歳のロンは、静かに物思いにふけっていた。
静かに落ち着いているわが子を見て、お母さんは、言います。
「あなた、ほんとうにいい子ね、ロン。とっても行儀がいいわ」
その直後、・・・
どうなったと思いますか?
ロンは車の中の灰皿を引き出して中身を親たちの上にぶちまけてしまったのです。
当然、お母さんは困惑します。
しかし、数週間たって、ロンはその理由を自分から明かしました。
その理由は?
彼は、前の座席に座っている両親の間で、すやすやと寝ている弟を見て、嫉妬の念に駆られていました。
そして、どうすれば弟を追い出せるか考えていた。
ちょうどその時、お母さんに「ほんとうにいい子ね」とほめられたのです。
ほめられたロンは罪の意識を感じ、自分が賞賛に値しないことを示そうとして灰皿をぶちまけてしまったわけです。
(要約しました)
この事例、おもしろいですね。
ここで、静かに落ち着いていることを、お母さんは評価的に「あなたはほんとうにいい子ね」とほめています。
しかし、当の本人は、親が望むような意味で、大人しくしていたわけではないのです。
結果として、ロンは感情を爆発させてしまった!
では、この場合、お母さんは、どう言えばこのような事態を避けることができた?
「ほんとうにいい子ね」は、評価的なほめ言葉ですね。
この部分を、ちょっと変えて、もし、「静かにしていてくれて助かるわ」と私メッセージで伝えたら?
この表現なら、子どもを勇気づけるはず。