1776年明和四年 | 二世杵屋六三郎 |
この曲の本名題は「春調娘七種(はるのしらべむすめななくさ)」という題名です。
なんか意外なのですが、この曲も曽我物です。
登場人物は、曽我十郎・五郎、そして、何故か静御前が登場します。
この三人が「怨敵退散、国土安泰、千秋楽々万歳」と願いをこめて、春の七草をたたくというもの。
つまり現在も一月七日に「七草粥」を食べる行事がありますが、あの行事が背景となっている物語(?)です。
何故かこの曲に何故か静御前が出てくると先ほど言いましたが、ご存知のように静御前の恋人は源義経で「曽我物」とは物語が違います。
ここに、十郎の恋人である虎御前や五郎の恋人である化粧坂の少将が出てくるなら納得なんですけれど。。。どうしてなんでしょうね。
時代的には、似たような時代背景です。
十郎・五郎の仇は工藤祐経という、源頼朝の家来です。詳しくは『勢い』ページを参照してください。
そして、静御前の恋人の源義経は頼朝の弟ですが、兄弟の仲違いで敵同士です。
つまり、頂点を辿って行くと頼朝にぶつかる。
まあ、曽我兄弟の仇は直接的には頼朝ではありませんが、大まかに言うと三人の「怨敵」というのは頼朝という事になります。
さて、「あら大胆な人じゃえ」で一段落終了して「若菜のご祝儀」までは鼓唄です。
三味線が付く事もありますが、三味線無しで小鼓の拍子で唄を唄う事もあります。
この部分で難しいなぁと思うのは、小鼓で鶯を表現する部分です。
鶯は小さくて可憐な鳥ですから。。。未熟な人が演奏すると、鶯ではなく烏になっちゃったり、酷い時はダチョウになってしまう事もあります。
この一調(「鼓唄」)が終了すると、出端越の段。あの部分が私はとっても好きです。
三味線の旋律がとってもしっとりしていて綺麗です。なんとなくフラットしたような旋律なんですよね。いかにも「和」を感じる部分です。
「出端」というのは、もともとは能のお囃子の手法で、神仏とか鬼畜など非人間的なものの登場に用いるものなのだそうですが、長唄系では人物の出に用いる手なのだそうです。
小鼓の一調とこの部分をやりたいが為に、この曲をお稽古したいなぁといつも思っています。けれど、これはお正月の曲で季節限定という雰囲気があるので。。。そうですね、来年のお正月くらいにリクエストしちゃおうかな?!
皆様、春の七草を全部言う事が出来ますか?
私は、この曲で七草の名前を覚えました。
歌詞に七草全部の名前が出てくるんですよね。
・菘(かぶ)
・蘿蔔(だいこん)
・芹
・薺
・御形
・田平子
・仏の座
よく七草粥の時期になると、スーパーで七草を売っていますが、どれもただの雑草にしか見えないですけれど。。。それぞれこんなに綺麗な名前が付いているんですね。
曲の後半に「七草の合方」があります。これは登場人物が七草を叩いているんですよね。
昔は七草をまな板に載せて「七草なずな、唐土の鳥が~♪」と言いながら、摺子木と包丁で叩くという行事があったそうです。すなわち、この場面ではこの行事をやっている風景なんですね。
そうそう、雑学的な事ですが「七草」の行事の起源は、宮中でお正月上子の日に七種類の若菜を内膳司から天子に奉るという慣わしがあってそれが起源となっているようです。へえ~ぇ(*^。^*)起源は宮中にあるのね。
な~んだ!お正月気分で食べ過ぎた胃腸を休める為に胃腸によい薬草を食べるという行事ではなかったのですね。いえいえ、一月七日に七草粥を食べるのは、疲れた胃腸を労わるためと昔聞いた事があるので。。。
この曲の後半はとっても賑やかでノリノリです。
前半はしっとり静にお正月という感じですけれど、後半はグッとイメージが変わって華やか!
このメリハリがこの曲の素晴らしさだと思います。
曽我物というと、「五郎」とか「勢い」とか「正札付け」とか威勢のよい曲をイメージします。
こういった女性っぽい華やかな曲もあるんですね。初めてこの曲が「曽我物」と知った時は超意外で吃驚しちゃいました。