犇犇と小川に犇めく釣船草

 ( ひしひしと おがわにひしめく つりふねそう )


今日取り上げる「釣船草(つりふねそう)」は、かつて田舎の小川や田畑の用水路で普通に見られた草花だが、近辺ではほとんど見かけない。今年も見たのは京都の植物園で、「植物生態園」の小川を覆うように、多くの花を咲かせていた。


本日の掲句は、その情景を詠んだ句だが、その様子を「犇めく(ひしめく)」と表現した。「釣船草」は秋の季語。

 


 

ところで、この「犇めく」という言葉は、「大勢の人が1か所にすきまなく集まること」を言うが、もともと、牛が驚いて走る、あるいは押し合って騒ぐ様子を表しているとのこと。


更に、擬態語として「犇犇と(ひしひしと)」があり、それを上五に使った。本句は、「牛」を沢山登場させたことが自慢の遊び句だが、できれば以下のように使いたかった。しかし、残念ながら、その情景はテレビでしか見たことがない。


犇犇と水牛犇めく大地かな

( ひしひしと すいぎゅうひしめく だいちかな )

 


 

ここで、いきなりクイズだが、同じ漢字三つで一つの漢字になっている漢字には、「犇」の他にどんなものがあるか。画面を下にスクロールせずに三つ以上答えて欲しい。

 


 

同じ漢字三つで一つの漢字になっている漢字を、手元の漢和辞典からざっと拾ってみたところ20程あった。今使われているものは「犇」を除いて6つほどだが、これを全部答えた人は「たいへん優秀」といって良いだろう。


*(訓、音、熟語例)
① 品 (しな、ヒン:商品) ② 森 (もり、シン:森林) ③ 晶 (あきらか、ショウ:結晶) ④ 姦 (かしましい、カン:姦通) ⑤ 轟 (とどろく、ゴウ:轟音) ⑥ 磊 (ライ:磊落)


他にも 聶、毳、叒、灥、鑫、驫、鱻、譶、厵、矗、嚞、矗、焱、畾、蟲 などがあったが、現在はほとんど使われていない。

 


 

話は戻って、「釣船草」に関しては、過去に以下の句を詠んでいる。


【関連句】
① 小池には向きを違えて釣船草
② 船底に甘い蜜あり釣船草
③ 釣船草数多集結何やらむ

 


 

①は、数年前の衆議院選における小池新党騒動を風刺して詠んだ句。「事実は小説より奇なり」でドタバタ劇を見ているようだった。
②は、この花の後方の渦巻状になっているところに、甘い蜜がいっぱい入っていることを知り詠んだ句。その蜜を求めて、いろんな虫が寄り付いてくる。
③は、釣船草が群生している状況を、当時ニュースにもなった隣国からの漁船団に重ねて詠んだ句。何か異様なものを感じた。

 


 

釣船草(釣舟草とも)は、ツリフネソウ科ツリフネソウ属の一年草で、原産地は東アジア。花期は8月~10月。花色は紫色が主だが、白、黄などもある。それらを区別するために、紫釣船、白釣船、黄釣船ということもある。


果実はさく果で、熟すと同科同属の鳳仙花(ほうせんか)などと同様に、種子が弾けて飛び散るように拡がる。そのことから、野鳳仙花(のほうせんか)とも呼ばれる。他に法螺貝草(ほらがいそう)という別名もある。

 


 

釣船草(釣舟草)の参考句に関しては、本ブログでも二十句以上紹介したことがあるが、今回は、その中から特に好むもの選んで再掲した。


【釣船草(釣舟草)の参考句】
奥社まで花は釣舟草ばかり (森田峠)
滴りのあつまるひびき釣船草 (滝春一)
猪垣へ消えゆく径や釣舟草 (八木林之介)
釣舟草耳をすませば波の音 (山崎ルリ子)
滝風に揺れ止まざりし釣船草 (若月瑞峰)

 

 

 

 

秋明菊思う花とは違いけり

( しゅうめいぎく おもうはなとは ちがいけり )


今日取り上げる「秋明菊(しゅうめいぎく)」の名を聞いて、どんな花を思い浮かべるだろうか。実は、この花、いくつかの種類があるが、一重と八重では見た印象がかなり違う。自分が最初に見たのは、下の写真の一重のピンク。
 


これを見て、初めて詠んだのが以下の句である。


菊よりもコスモス似かな秋明菊



何とも愛らしい花で、「菊」よりも「コスモス」に似ていると思った。また、花びら(実はがく)が不揃いで歪なことから、以下の句も詠んでいる。


不揃いの花弁も愛嬌秋明菊




しかし、下の写真のものが原種だと知り、イメージが大きく変わった。なるほど、これなら「菊」と言っても全く問題がない。ただ、これこそ「秋明菊」だという人にとって、先に詠んだ句は理解不能ということになる。




更に、それらとも違う、下の写真のような「秋明菊」もある。本日の掲句は、そんなことも後から知り詠んだ。恐らく、「秋明菊」とは、どんな花かと尋ねられた時、どの種の花を最初に見たかによって、説明の仕方も相当違うのではないだろうか。またその好みも。

 

「秋明菊」は秋の季語。

 


 

因みに、「秋明菊」に関しては、他に以下の句を詠んでいる。


【関連句】
① 石庭に蝶の乱舞か秋明菊
③ 白々と秋明菊や町の辻  
*白々(しらしら)
 


 

①は、大原の里にある三千院の石庭で、一重のピンクの花を見て詠んだ句。花の咲いている様子を「蝶の乱舞」とした。
②は、明け方に、近くの町の辻で、白い秋明菊を見て詠んだ句。白々とした明け方の感じと秋明菊の白を重ねて詠んでみた。

 


 

「秋明菊」は、キンポウゲ科イチリンソウ属の多年草。中国原産で、日本には、かなり古い時代に渡来したと言われている。*キク科ではなくキンポウゲ科のアネモネの仲間。英名では「ジャパニーズ・アネモネ」という。


花期は9月~11月。花には一重と八重があり、花色には、白、薄紅、ピンクなどがある。尚、花弁に見えるのは、萼(がく)片で、それ故か、形大きさが揃わないことがある。

 


 

「秋明菊」の名は当初、可憐であり、この世の花とは思えない「黄泉の国の菊」という意味で「秋冥菊」と付けられた。しかし、「冥」はイメージが悪いということでが、後に「明」に変えられたとのこと。


また、別名の「貴船菊(きぶねぎく)」は、京都市の貴船という地域に多く咲いていたからというのが通説。俳句では、この名で詠まれることが多い。

 


 

「秋明菊」「貴船菊」を詠んだ句は、それほど多くはないが、ネットで見つけたいくつかの句を以下に掲載した。(過去に掲載したものを除く。)


【秋明菊、貴船菊の参考句】
貴船菊数奇凝らしたる黒髪庵 (角田双柿)
秋明菊カレーを食べし息に触れ (大林清子)
夕月に細き首のべ貴船菊 (関木瓜)
秋明菊死後の遊びを思いけり (山崎聰)
滅亡史秋は読むべく貴船菊 (齊藤史)

 

 

 

コスモスの揺れの止まざる世界かな

( こすもすの ゆれのやまざる せかいかな )


台風19号は、漸くおさまったようだが、全国的に大きな惨禍をもたらした。被害にあわれた方、今も避難生活を余儀なくされている方々には、心よりお見舞い申し上げたい。


京都市には、12日の昼頃に最接近したようだが、近辺では幸いなことに大きな被害はなかった。また、昨日(13日)は台風一過の晴天に恵まれ、2週間ぶりに植物園に行ってきた。

 


主たるお目当ては「コスモス」だったが、まだ二分咲きといったところ。そのため。「コスモス」を取り上げるのは来週にしようとも思ったが、いつも行く近くの川辺の「コスモス」は五分咲きになっていたので、今日取り上げることにした。

 


本日の掲句は、その様子を見ながら詠んだ句。これは写生の句というよりも、「コスモス」という言葉の原義を揺れ動く世界の情勢にかけて詠んだもの。「コスモス」は「秋桜(あきざくら)」とも言い、秋の季語。

 


ところで、「コスモス」という言葉は、ギリシア語の"kosmos"から来ており、「秩序」「調和」を意味する。それが更に、「秩序整然とした統一体としての宇宙、または世界」を意味するようになったとのこと。


尚、植物の「コスモス」の名は、語源は同じで、「秩序整然とした美しい花」ということでつけられたそうだ。

 


因みに、「コスモス」に関しては、過去に以下句を詠んでいる。


【関連句】
① コスモスの平らに和む夢を見し
② 川べりに揺れてコスモス五六輪
③ コスモスのゆらぐ場末のカオスかな

 


①は、コスモスの元の意味である「宇宙」「世界」と、花の姿から感じとれる「平和」を結び付けて詠んだ句である。
②は、川辺に植えてある数本のコスモスが、白とピンクの花を咲かせているのを見て詠んだ句。コスモス園とは違い、静かに数輪の花を咲かせているのも風情があって良い。
③は、「コスモス」の原義を「カオス」に対比させて詠んだ句。「カオス」とは、「天地創造以前の世界の状態。混沌(こんとん)。混乱。」のことで、「コスモス」の対義語でもある。掲句と着想は類似。

 


コスモス(秋桜)は、キク科コスモス属の一年草。メキシコ原産で日本には明治時代に渡来。花期は8月~10月。花色は、白、ピンク、赤色など様々。花弁の形が桜に似ているところから「あきざくら」と呼ばれ「秋桜」の字が当てられた。

 


「コスモス」を詠んだ句は非常に多い。以下には、ネットで見つけた句をいくつか参考まで掲載した。(過去に掲載したものを除く。)

 

【コスモスの参考句】
コスモスを離れし蝶に谿深し (水原秋桜子)
コスモスの花揺れて来て唇に (星野立子)
コスモスの花見えて駅現はれし (右城暮石)
コスモスの花ゆるがせて鼓笛隊 (大河原一石)
コスモスの花の上行く肩車 (大高時子)