街人の話し3 Take



武の道を志しているTakeという人がいた。


ある時、生涯忘れられない恋に落ちたそうだ。

寝ても、覚めても、その女の子のことしか考えられなくなった。

好きで、好きで、たまらなく好きになり、彼女の情報収集をしたそうだ。

日に日に想いは増し、ついに告白をすることにした。

そして、付き合うことになったそうだ。


ところが、Takeが思い描いていたような付き合い方はできなかった。

一緒に帰ろうと誘っても、彼女は、友達と帰った。

一緒に居たくても、なかなか一緒に居る機会が作れなかった。

一緒に話したくても、なかなか話すことができなかった。


これって本当に付き合ってると言えるのだろうか。

彼女は、自分の事を、本当に好きなのだろうか。


そんなネガティブな思いが募っていった。

だが、電話で話している時だけは違ったのだ。

家族の話しや、将来のこと、小さい頃の話や好きなことや嫌いなこと、一緒に行きたい所など、沢山話しをし、本当に楽しかったそうだ。

Takeは、話せば話す程、知れば知る程、彼女の事をどんどん好きになった。

けれども、実際に会うと別人のようだった。


何でだろう…電話とは全く違うんだ…うまくいかないんだ。


Takeは友達に相談をしていた。


本当は嫌われているんじゃないか、自分と一緒にいるところを見られたくないのだろうか。


そんな思いと、好きな気持ちが入り混じっていた。


1ヶ月経っても、2ヶ月経っても状況は変わらなかった。


いつも話しかけるのは自分から。誘うのも自分から。

そんな状況に悩み、耐えられなくなったのだ。

Takeは、彼女に別れを告げた。


もう話しかけない。一緒にもいられない。一緒にも帰らない。守ってもやれない。いつも自分からしか話しかけていない。

俺だけが好きな気がする。もう無理だ。別れよう。


そう言うことが精一杯だったそうだ。

本当は試していたのかも知れない。

Takeは、別れを告げた後、泣いて泣いて、それでもまだ涙が出て、一生分の涙を流したと思ったそうだ。

頭では別れを決めても、心では好きだったTakeは、嫌いになろうと努力した。彼女のことを悪く言い始めたそうだ。

その姿を見かねたTakeの親友は、そんな事は止めるように言った。


数ヶ月経ったが、Takeの心は落ち着かなかった。どうしても、彼女の事を考えてしまう。学業も武道も、何も手につかず、涙が溢れてきてしまうのだ。それと同時に、苛立ちも込み上げてくるのだ。


ある時、彼女は、Takeの親友に声を掛けられた。


Takeが暴れてる。君にしかあいつを止められない。来てくれないか。誰もとめられないんだ。Takeを助けてくれ。頼む。


どうして私が。

私には、どうすることもできない。助けることなんてできないし、行かない。

暴れてるんでしょ。巻き込まれたくないし関係ない。私には、止められない。


いや、君にしか止められないんだ。


無理だよ。あなた達でも止められないのに、私に止められる訳がない。


絶対に、君には指一本触れさせないから。とにかく来てくれ。何もしなくていい。一緒に来てくれるだけでいいんだ。

あいつと話だけしてくれればそれでいい。ただ返事をするだけで良いから。


無理。

私が行っても、どうする事もできないし。大体、何で私が行かないといけないの。


そんな会話が何度か行われた。

親友は、引き下がる様子がない。

根負けした彼女は、Takeの元を訪れることを了承したのだ。


何かを殴ったり、蹴ったり、大声で叫んだりする声がして、乱闘している様な音が響き渡っていた。


来てくれたぞ。


親友がTakeに呼びかけた。


大丈夫?何をやってるの?喧嘩?誰がいるの?


彼女は、不安そうに親友に尋ねた。


すると、親友が答えた。


あいつ一人しかいない。喧嘩じゃない。ただ暴れているだけだ。君と別れてから、ずっと泣いてる。ずっと暴れてる。ずっとあんな様子だ。

傍に行って話をしてやってくれないか。向こうには、あいつしか居ないから。


絶対に嘘。すごい音だったし。何人もいるでしょ。話すことはないし、何かあったら嫌。

話があるなら向こうから来て。ここで待つ。


あいつ一人だけだ。本当は、君とただ一緒に居たいだけなんだ。忘れられなくて苦しんでる。確かに、周りには嫌いだって言ってるけど、絶対に嘘だから。忘れる為に嘘を言ってる。絶対に大丈夫だ。指一本、触らないように約束させるから。

君が来た事を話してくるから、そしたら、傍に言って話してくれないか。


親友はTakeの元に行った。


来てくれたぞ。怖がっている。絶対に殴るな。触るな。だから、傍に行ってこい。


いや、会いたくない。殴りてえ。嫌いだ。顔も見たくない。

抑えられない。会ったら押し倒してしまうかもしれない。抑えられない。


そう言うとTakeはまた暴れ始めた。


もう止めろ。違うだろ。本当の気持ちを言え。いつまでこんなことやってるんだ。終わりにしろ。

約束しろ。嘘をつくな。殴らないだろ。そんなことしてたら嫌われるだけだぞ。


…わかった。


すると親友は、彼女のところへ戻り、傍へ行くように頼んだ。


俺達はここで待ってる。


えっ、一人で行くの?殴りたいって言ってたのが聞こえたけど。


大丈夫だ。殴らない。話してきた。あいつを信じてくれ。


ゆっくりと傍まで行くと、衝立の向こうから声がした。


何できたんだ。来るな。来るなって言ってんだろ。


気持ちが抑えられずTakeは叫んだが、彼女は、しばらくその場に立っていたそうだ。次第にTakeは冷静さを取り戻した。


…いや、来てくれたんだ。絶対に来ないと思ってた。ごめん。びっくりさせた。ごめん。


うん。本当にびっくりした。どうしたの?喧嘩?すごい音だったけど。他に誰かいるの?


いや、俺一人。


一人?すごい音だったよ。大丈夫?何してるの?


殴ってた。気が収まらなくて。むしゃくしゃして。殴りたい。我慢ができない。


何があったの?

誰かに何か言われたの?

怪我はしてない?

何でこんなことになったの?ちょっとだけ、顔を見せて。


来るなって。そんな言葉を俺にかけるな。優しくするな…。嫌いだ。


優しくなんかしていない。普通の事を言ってるだけ。あんな音と声がしたら、大丈夫かなって思うし。

みんなに同じ事を言うし、普通に心配する。怪我してるんじゃないかなって。特別じゃない。

…泣いてるの?


………。

怪我はしてない。赤くなってるだけだ。

…泣いてはいる。見られたくない。

最近、ずっとこうだ。いや…別れた後…自分から言ったんだけど…。

やっぱり好きで、忘れられなくて…頭がおかしくなりそうだった…ってか、頭がおかしくなった。

嫌いになろうと思って…お前の悪口をいっぱい言って…嫌な所を沢山考えて…写真も破って…。嫌いになった。

でも…本当は傍にいて欲しいんだ…傍にいたいんだ。やっぱり…。

自分でもどうしようもできないんだ…。嫌いになんてなれないんだ。どうすれば嫌いになれるんだ。

こうやって話すと、やっぱり好きだ…。

来てくれて嬉しい。本当は顔が見たい。


あなたの友達に来て欲しいって、傍に居て欲しいって頼まれて…。


…一緒に居て欲しいんだ。不安だったんだ。

ごめん。色々。

でも、もう大丈夫だから、あっちに行っててくれ…。


でも…。一人になったらまた殴るでしょ。


こんな姿、見られたくないんだ…。お前にだけは見られたくないんだ。


…みんな心配してるよ。頼まれたし。こっちに来てよ。しばらくここにいるし。


大丈夫だ。時間が経ったら自分で行くから。

一緒になんて居なくていい。本当に大丈夫だから。


わかった。でも、みんな本当に心配してるよ。

本当は、断ったんだけど、何度も何度も頼まれて…。みんな、あなたのことを大切に思っているんだね。とっても。すごく、良い友達だね。


…良い友達だ。

本当に、もういいから。大丈夫だから。行ってくれ。頼む。見られたくない。泣きそうになる。

これ以上話してたら、自分を抑えられない。頼む。押し倒してしまうかもしれないから。頼む。行ってくれ。


押し倒す?あなたに押されたくらいじゃ倒れない。大丈夫。そんなに弱くない。非力でもない。人ひとりぐらい支えられる。

だから、出てきてよ。一緒に行こう。


やっぱりお前は面白いな。


そう言ってTakeは笑った。


そう言うことじゃない。でも、そういうところも好きなんだ。頼むから、早く行ってくれ。頼む。

嫌な思いをさせたくないんだ。


嫌な思いならもうしてる。早く、こっちにきてよ。


ごめん。でも、そういうことじゃないんだ。違う…。頼むから、大丈夫だから。本当に。頼む、行ってくれ。頼む。我慢ができなくなる。


…わかった。じゃあ…行くね。


彼女は、その場を離れ、親友に伝えた。


悪かったな。後は、俺らで大丈夫だから。


彼女はその場を後にした。



数ヶ月後、Takeはまた、彼女に交際を申し込んだ。



とある街の街人から聞いた噂話だ。