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Colorful paradise

サークル「Colorful paradise」に関するお知らせとサンプルです。

『日焼け』

 

ヒリヒリと、首の後ろが痛む。
――これは日焼けしたかな。
森から戻った輝は、様々な植物が詰まったリュックをテーブルの上に置くとすぐさま洗面所へ。
そこに設置されている鏡に背を向けて軽く振り返ると、予想していた通り首の後ろが赤くなっていて。油断したなあと悔やみながらも、輝は上の棚から新しいタオルを取り出し、それを軽く濡らして首の後ろに当てる。そのおかげで少しだけ痛みが引いていく。
――まさか日焼けするとは思わなかったな。
季節は夏、太陽の日差しが強いこの時期は長時間日光に当たっていると日焼けをしてしまう、そのぐらいの知識は当然持っている。しかし植物採集に向かった森は背の高い木に覆われているから平気だろうと考えて何の対処もせずに出掛けたのだ。日陰だけを移動するのではなく、木漏れ日の差す場所を移動することをすっかり忘れたまま。その結果、首の後ろを日焼けしてしまうなんてこれは完全に己の失態。
早く治らないかなあと考えながら部屋に戻った輝は、テーブルの上に置いたリュックの中から植物の入った袋を取り出していく。そしてそれらを種類別に片付けようとした時、微かな鈴の音を立てて扉が開く。
「……お帰りなさい、アキラ」
「ただいま、スチリア。お客さんはもう帰ったの?」
扉の向こうから現れたのはこの家の主人ことスチリア。目の見えない彼は腕の良い薬師であり、輝は彼の家に居候をしながら薬の原料となる植物を集めているのだ。
スチリアは迷うことなくまっすぐ輝に近付いてくる。その手の中には何やら白い箱が。もしかしたら薬を受け取りにきた街の住人から何かお裾分けをもらったのだろうか。
「ええ、たった今帰られたところですよ。薬のお礼に、とレモンパイを頂きましたのでお茶にしましょう」
「ちょっと待って、テーブルの上を片付けるから。……そうだ、お茶の前に日焼けを治す薬、あったらもらえる?」
「日焼け、ですか?」
スチリアの薬なら日焼けなんてすぐに治るはずだと期待して問えば、しかしスチリアは何故か不思議そうに首を傾げるばかり。これは珍しい反応だなと軽く驚きながらも輝は口を開く。
「あ、もしかして日焼けに効く薬は作ってない?それとも材料が足りないなら俺、集めてくるよ」
「材料は揃っていますし、すぐに作れますが……そういった薬を欲しがる方はここ数年いなかったので少し驚いたのです。どこか日焼けをしたのですか?」
「うん、首の後ろをちょっと、ね。そっか、ここの住人って日焼けで困る奴はあんまりいないんだな」
純粋な人間である輝と異なり、この世界で暮らす人々は何かしら動物の血が混じっている。目の前のスチリアは鳥の血統で背中に大きな翼があったり、友人のカイは狼の血統であるためモフモフな尻尾と耳を持っていたり、と。そんな彼らは恐らく動物の特性が強いのだろう、それならば日焼けとはあまり縁がないと言われても納得がいく。
「ニンゲンは私達より肌が弱いのでしょうね。私も、私の周りの方々も日焼けの経験がないので、宜しければどんな症状が出ているか教えてもらえますか?」
「首の後ろが少し赤くなってるだけだよ。今は熱くなってるから濡らしたタオルを当ててる」
「肌が赤くなる……赤くなった後は元の色に戻るのですか?」
「それは人に寄るけど俺は元に近い色に戻るかな。中には赤くならずに焦茶色に近い色になってそのまま色が定着する人もいるよ。あと、酷くなると皮が剥けたり水膨れが出来る場合もある」
「皮が……!?アキラ、日焼けした箇所に触れても良いですか?皮が剥けていないか念のため確認させて下さい」
「いいけど、熱いから気を付けろよ」
そう言うと輝はタオルを外し、反対の手でスチリアの手首を掴むと首の後ろへと導く。ほんのりと温かいスチリアの指先、それが触れた瞬間、思わず輝の肩がピクリと揺れる。
「こんなに熱い……かなり痛むのですか?」
「大したことないって。あんまり強く押されると痛いけど」
そうですか、と相槌を打つとスチリアは輝の首の後ろにゆっくりと丁寧に触れる。自分が痛みを感じないように気遣いながら。それでも好奇心を抑えられないのだろう、熱心に触り続ける様はさすが薬師と感心するべきか。
――余計な心配させたかな。
優しいスチリアのこと、想像以上の症状に驚いているのかもしれないと考えていると、不意にスチリアの手が首から離れていく。輝は再び濡れたタオルを患部に当てる。
「だいぶ熱くなっていますから熱冷ましの薬も処方しますね。すぐ準備しますのでここで待っていて下さい」
「……あのさ、薬の調合って俺にも出来る?使うのが俺だけしかいないなら、自分で作れるように調合法を教えて欲しいんだけどいいかな?」
輝が尋ねるとよもやそんなことを尋ねられるとは思わなかったのだろう、スチリアは驚きを露わにする。しかしすぐに笑顔を浮かべたのは彼の優しさ故か。
「さほど難しくはありませんよ。それでは一緒に調合をしましょう」
うん、と頷くと輝は椅子から降りてスチリアと共に隣の部屋へ向かう。その顔に笑みを浮かべながら。
――少しずつでも薬の調合を覚えなくちゃ。
そうしていつかスチリアの目を治す薬を作るんだと改めて彼は決意を固めたのだった。

『苦手なもの』

 

ぽかぽかと照りつける暖かい日差し。
どこからともなく吹き付ける爽やかな風。
心地良い春の午後、カイは大好きなレオンハルトの家の庭で家主と共に庭の手入れに勤しんでいた。
森の中にある一軒家で一人暮らしをしているレオンハルトは、両親が綺麗に整えた庭を今も荒らすことなく世話している。彼の両親は学者で家を留守にすることが多かったが、花好きな母のために父が庭に幾つもの花を植えたとのこと。それを世話するのは子供の頃からのレオンハルトの役目であり、両親が亡くなった今も、変わらずその作業を続けているのだ。
――お兄ちゃんはパパとママのこと、今でも大好きなんだ。
残念なことにカイはレオンハルトの両親に会ったことはない。二人はカイが生まれて間もない頃に亡くなってしまったそうで、『とても素晴らしい方々だった』とカイの両親から聞いたことがあるだけ。もっとも、息子であるレオンハルトがとても物知りで頼りになるのだ、両親も素晴らしい人だったことは間違いないだろう。
そんなレオンハルトが望んで行なっているならば、自分も手伝いをしたい。だからカイはレオンハルトが庭手入れをする時は積極的に手伝いをしているのだ。
「お兄ちゃん、こっちの雑草は全部抜いたよ」
ゆらゆらと揺れる黄色い花の側に生えていた雑草を、小さなものまで余すことなく抜き終えて予め渡されていた袋に入れると、カイは桜の樹の側に立つレオンハルトに声を掛ける。彼の足元にも雑草その他のゴミが詰まった袋が置かれていて。その手に白い手袋を装着しているところを見ると、恐らく桜の樹にくっついていた毛虫を駆除していたのだろう。
「ありがとう、カイ。こっちはもう少しかかりそうだから、先に休憩していいよ。ずっとしゃがんでいて疲れたよね?」
「このぐらい平気だよ!まだ手伝うからやることがあるなら遠慮なく言って」
「そうだな……じゃあ納屋から剪定バサミを持ってきてくれる?少し重いから気を付けて」
「うん、分かった!」
元気良く返事をすると、カイは雑草の詰まった袋をレオンハルトの側に置き、すぐさま納屋へ向かう。
家の周りをぐるりと半周回った場所に建てられた納屋は小さな木製の建物で、カイは入り口の栓抜きを抜くと扉を開く。そこには様々な道具が置かれているが明かりはなく、隙間から入り込む光を頼りに、カイは中に入って目的の物を探す。
「えっと、剪定バサミは……あ、あった!」
納屋の中には所狭しと色々な道具が置かれているがカイは納屋に入ってすぐ右手に目的の剪定バサミを発見。誰の目にも見易く片付けられているのは、家主であるレオンハルトが綺麗好きであるためだろう。
カイは早速剪定バサミを両手で持つ。レオンハルトに言われていた通りにそれはずっしりと重く、少年は両手でそれを抱えてすぐさま納屋を出ようとする、けれど。
「……?」
扉へと近付いた時、何かが足元で動いたような気がして、カイは足を止める。
そして剪定バサミを抱えたまま、好奇心を抑えることなくそれを覗き込む、と。
「う、うわああああああ!」
次の瞬間、カイは大声を上げて尻餅を突いてしまう。弾みで抱えていた剪定バサミを手放してしまったのだろう、ガシャン、と大きな音が納屋の中に響き渡るが、今のカイにはそんなことを気にする余裕などない。
バタバタバタバタ……。
「カイ、どうしたの!?」
カイの悲鳴を聞きつけたのか、すぐさまレオンハルトが駆けつけてくる。それに気付くや否や、カイは腰を落としたままレオンハルトに縋り付き、体どころか尻尾まで震えながら彼の体にぎゅう、と強くしがみ付く。
「お、お兄ちゃん!そ、そこに……ヘビ!ヘビがいる!」
「ヘビ?……それは怖かったね、もう大丈夫だよ」
カイの訴えを聞くとレオンハルトは優しい声で言うと、ぽんぽんと震えるカイの頭を撫でてくれる。何度も何度も丁寧に、優しく。そうすることで、怯えるカイを慰めるために。
温かい手で撫でられることで少し落ち着きを取り戻したカイは、そっと顔を上げる。するとそこには優しく微笑むレオンハルトの顔があるから、少年は肩の力を抜いてほっと息を吐く。
「あのね、納屋に入る時は何もいなかったんだよ、でも戻ろうとしたら足元でヘビが動いて……」
「きっと扉が開いた隙に入り込んだんだろうね。今から僕が退治するから、カイはここで大人しくしていて」
うん、と頷くと、カイは恐る恐るレオンハルトの体から手を離す。するとレオンハルトはいい子だね、と言う代わりに再度頭を軽く撫で、カイから少しだけ離れて薄暗い足元を覗き込む。
真剣なその表情を、半ば怯えながらカイは固唾を飲んで見守る。すると。
「……カイ。ヘビ、と言うのはもしかして、これのことかな?」
そう言ってレオンハルトは何やら長い物を拾い上げるから、カイは尻尾を膨らませながらもレオンハルトの拾い上げた物を見る。そして驚きに目を見開く。
「それ……ヘビの、抜け殻……?」
「多分ここで脱皮したんじゃないかな。扉を開けて風が吹き込んだからヘビに見えてしまったんだと思うよ」
「本当?……ヘビ、いない?」
「大丈夫、どこにもいないよ」
「良かったー……」
カイは盛大に安堵して息を吐くと、改めてレオンハルトが持つ抜け殻を見つめる。真っ白なそれは吹き込む風にふわふわと揺れるが、確かに持ち主の姿はどこにも見当たらない。
「僕、ヘビに襲われるんじゃないかってビックリしちゃった。助けてくれてありがとう、お兄ちゃん」
「どう致しまして。……カイはヘビが苦手なんだね」
「苦手ってわけじゃなくて……突然出てきたから、驚いただけだもん」
プーっと頬を膨らませて思わず反論すれば、レオンハルトはそうだね、と優しく微笑み立ち上がる。そしてカイに手を差し伸べてくれるから、カイは彼の手を借りて立ち上がり、服についた汚れを軽く叩き落とす。
「それじゃ、問題が解決したところで戻ろうか。もしかしたらヘビが戻ってくるかもしれないからね」
「それは嫌だ!」
カイは慌てて剪定バサミを持ち上げると、納屋から飛び出してしまう。そんなカイの姿を眺めながらレオンハルトは納屋から出ると扉をしっかり閉める。もちろん片手にはヘビの抜け殻を持ったまま。カイが抜け殻を持たない側へ回ると、レオンハルトはまた小さく微笑みながらもカイと並んで庭へ向かう。
「……お兄ちゃんは、ヘビが怖くないの?」
「そうだなあ…僕より大きかったら怖いけれどこの抜け殻の持ち主ぐらいの大きさなら平気だよ。でもカイぐらいの年齢の頃は怖かったかな」
「そうなの!?じゃあ僕と同じだね!」
パッと満面の笑みを浮かべるとレオンハルトもまた楽しげに笑う。それが嬉しくてカイは彼の手を握ろうとするが両手で荷物を抱えた状態ではそれも叶わないから、代わりにエヘヘと声に出して笑う。
――お兄ちゃんにも苦手なものがあったんだ。
完璧に見えるレオンハルトでも苦手なものがあるのだと分かったことが何だか嬉しくて、同時にレオンハルトとまた少し仲良くなれたような気がして、カイは笑顔を浮かべたまま庭に戻ると、これまで以上にレオンハルトの手伝いに精を出したのだった。

毎日毎日コロナ関連のニュースばかり耳に入ってくるので気分転換にSSアップ。
今回はこれまでとはまた違うカップルのお話です。
(同人誌ではこれら3つのカップルの話を書いていく予定です)

【登場人物】
ユーキ:カイの友人でジャッカルの血を引く少年。運動が得意で勉強は少し苦手。喧嘩も得意。
フィロ:カイの友人でポメラニアンの血を引く少年。女の子に間違えられるほど可愛い容姿の持ち主で心優しい反面、人見知りで気弱。


『夕暮れ』
「ありがとうございました。……よっと」
お釣りを財布に入れ、フィロは大きな紙袋を両手で抱える。
袋の中身は本日の夕食と明日の朝食、ついでに明日のお弁当分の食材。たった三食ではあるが五人分となると、どうしても量が多くなってしまうのだ。
フィロが小さい頃に父が亡くなり、母は一人で働いてフィロを含む四人の子供達を育てている。そんな母を助けるため、長男であるフィロは昔から家事の手伝いをしてきた。だから今日も学校帰りに食材を買い、帰宅したら夕食の準備をするのだ。
「ユーキ、待たせてごめんね。それに荷物、持ってくれてありがとう」
店から少し離れたところで待っていた長年の友人ことユーキに近付くと、彼は気にするな、と言う代わりに小さく首を振る。
オレンジ交じりの茶色の毛並みを持つジャッカルのユーキは、フィロが入学した時から仲良くしている友人。学校では、ユーキと双子の弟であるルーイ、それにこの街の町長の息子であり銀色の毛並みが美しい元気なカイとフィロの四人で一緒に行動しているのだが、放課後はバラバラに過ごすことが多くなってしまった。誰も彼も恋人と共に少しでも多くの時間を過ごしたいと願っているのだから、それも仕方のないことだろう。
そんなわけでフィロもまた、恋人であるユーキと共に寄り道をすることとなった。と言っても、『買い物をしてから帰る』と言ったフィロにユーキが付き合ってくれているだけ、というのが事実なのだけれど。
今日の買い物は、食料品と幼い弟妹の衣服。一番下の弟とそのすぐ上の妹はまだ保育所へ通っているが、二人とも成長が早く、すぐに服のサイズが合わなくなってしまう。だからこまめに買いに行かなければならないのだ。
先に立ち寄った店で購入した衣類が詰まった袋を持つユーキに近付くと、フィロはそれを受け取るために食材の入った袋を抱えたまま、懸命に手を伸ばす。しかしユーキは自分の荷物を渡すより先に空いた手を伸ばすと、フィロの抱えていた荷物を軽々と奪ってしまう。
「うわっ、けっこう重いな、これ。一体何買ったんだよ」
「今日はジャガイモやタマネギが安くてたくさん買ったから……あ、あの、それ、僕が……」
「お前はこっちの軽い方だけ持って行けよ。これは俺が運ぶ」
そう言うと、ユーキは衣類の入った袋を突き出してくるから、反射的にフィロはそれを受け取ってしまう。渡された荷物は食材の詰まった袋とは比べ物にならないほど軽く、思わずほっと安堵の息を吐いてしまうが、フィロはすぐさま我に返ってユーキに詰め寄る。
「ユーキ……重くないの?」
「このぐらい大した重さじゃねえよ。お前より俺の方が力があるんだから、任せとけって」
「……うん、ありがとう」
フィロは、心を込めて感謝の言葉を伝える。
ユーキはフィロと同い年であるにも関わらず、体格が良くて力もある。昔から体を動かすことが大好きで、スポーツも得意。喧嘩も強く、少々ガサツなイメージがあるけれど、その一方で困っている人を放っておけない優しい性格の持ち主であることを、フィロは良く知っている。恋人になる前、友達として仲良くしている頃からずっと、ユーキはフィロやカイが困っている時には決して見過ごすことなく、助けてくれたのだから。
ーーユーキは昔から頼りになるなあ。
改めてその事実を認識し、フィロは小さく笑みを浮かべる。
するとユーキは急に目を見張り、かと思えばフィロから顔を背けてしまう。そしてあたふたと荷物をもう片方の手に持ち帰ると、空いた手をフィロへと伸ばし、フィロの手をぎゅっと掴む。
「!」
「お礼なら、言葉じゃなくてこっちがいい」
そう言ったユーキは、小さな笑みを浮かべてフィロを見つめていて。その頰が赤らんでいることに気付くと同時に、フィロの頰もまたジワジワと熱を帯びていく。
「……うん、僕もこっちの方がいいな」
恥ずかしさのあまり小声ながらも素直に呟けば、そっか、とユーキはさらに嬉しそうにニッコリと笑う。そしてフィロの手を軽く引いて歩き出すから、フィロはその後をゆっくりとついていく。
「妹達が待ってるんだろ。早く帰ってやろうぜ」
「そうだね。妹も弟もユーキに懐いてるから、きっと喜ぶよ」
「じゃあ今日も遊んでやるか!……その間に、お前は夕食の準備、しておけよ。終わったら一緒に宿題やろうぜ」
な、と賛同を求めるユーキに、うん、とフィロは静かに頷く。
ドキドキと高鳴る心臓を、懸命に抑えながら。