SSその3 | Colorful paradise

Colorful paradise

サークル「Colorful paradise」に関するお知らせとサンプルです。

毎日毎日コロナ関連のニュースばかり耳に入ってくるので気分転換にSSアップ。
今回はこれまでとはまた違うカップルのお話です。
(同人誌ではこれら3つのカップルの話を書いていく予定です)

【登場人物】
ユーキ:カイの友人でジャッカルの血を引く少年。運動が得意で勉強は少し苦手。喧嘩も得意。
フィロ:カイの友人でポメラニアンの血を引く少年。女の子に間違えられるほど可愛い容姿の持ち主で心優しい反面、人見知りで気弱。


『夕暮れ』
「ありがとうございました。……よっと」
お釣りを財布に入れ、フィロは大きな紙袋を両手で抱える。
袋の中身は本日の夕食と明日の朝食、ついでに明日のお弁当分の食材。たった三食ではあるが五人分となると、どうしても量が多くなってしまうのだ。
フィロが小さい頃に父が亡くなり、母は一人で働いてフィロを含む四人の子供達を育てている。そんな母を助けるため、長男であるフィロは昔から家事の手伝いをしてきた。だから今日も学校帰りに食材を買い、帰宅したら夕食の準備をするのだ。
「ユーキ、待たせてごめんね。それに荷物、持ってくれてありがとう」
店から少し離れたところで待っていた長年の友人ことユーキに近付くと、彼は気にするな、と言う代わりに小さく首を振る。
オレンジ交じりの茶色の毛並みを持つジャッカルのユーキは、フィロが入学した時から仲良くしている友人。学校では、ユーキと双子の弟であるルーイ、それにこの街の町長の息子であり銀色の毛並みが美しい元気なカイとフィロの四人で一緒に行動しているのだが、放課後はバラバラに過ごすことが多くなってしまった。誰も彼も恋人と共に少しでも多くの時間を過ごしたいと願っているのだから、それも仕方のないことだろう。
そんなわけでフィロもまた、恋人であるユーキと共に寄り道をすることとなった。と言っても、『買い物をしてから帰る』と言ったフィロにユーキが付き合ってくれているだけ、というのが事実なのだけれど。
今日の買い物は、食料品と幼い弟妹の衣服。一番下の弟とそのすぐ上の妹はまだ保育所へ通っているが、二人とも成長が早く、すぐに服のサイズが合わなくなってしまう。だからこまめに買いに行かなければならないのだ。
先に立ち寄った店で購入した衣類が詰まった袋を持つユーキに近付くと、フィロはそれを受け取るために食材の入った袋を抱えたまま、懸命に手を伸ばす。しかしユーキは自分の荷物を渡すより先に空いた手を伸ばすと、フィロの抱えていた荷物を軽々と奪ってしまう。
「うわっ、けっこう重いな、これ。一体何買ったんだよ」
「今日はジャガイモやタマネギが安くてたくさん買ったから……あ、あの、それ、僕が……」
「お前はこっちの軽い方だけ持って行けよ。これは俺が運ぶ」
そう言うと、ユーキは衣類の入った袋を突き出してくるから、反射的にフィロはそれを受け取ってしまう。渡された荷物は食材の詰まった袋とは比べ物にならないほど軽く、思わずほっと安堵の息を吐いてしまうが、フィロはすぐさま我に返ってユーキに詰め寄る。
「ユーキ……重くないの?」
「このぐらい大した重さじゃねえよ。お前より俺の方が力があるんだから、任せとけって」
「……うん、ありがとう」
フィロは、心を込めて感謝の言葉を伝える。
ユーキはフィロと同い年であるにも関わらず、体格が良くて力もある。昔から体を動かすことが大好きで、スポーツも得意。喧嘩も強く、少々ガサツなイメージがあるけれど、その一方で困っている人を放っておけない優しい性格の持ち主であることを、フィロは良く知っている。恋人になる前、友達として仲良くしている頃からずっと、ユーキはフィロやカイが困っている時には決して見過ごすことなく、助けてくれたのだから。
ーーユーキは昔から頼りになるなあ。
改めてその事実を認識し、フィロは小さく笑みを浮かべる。
するとユーキは急に目を見張り、かと思えばフィロから顔を背けてしまう。そしてあたふたと荷物をもう片方の手に持ち帰ると、空いた手をフィロへと伸ばし、フィロの手をぎゅっと掴む。
「!」
「お礼なら、言葉じゃなくてこっちがいい」
そう言ったユーキは、小さな笑みを浮かべてフィロを見つめていて。その頰が赤らんでいることに気付くと同時に、フィロの頰もまたジワジワと熱を帯びていく。
「……うん、僕もこっちの方がいいな」
恥ずかしさのあまり小声ながらも素直に呟けば、そっか、とユーキはさらに嬉しそうにニッコリと笑う。そしてフィロの手を軽く引いて歩き出すから、フィロはその後をゆっくりとついていく。
「妹達が待ってるんだろ。早く帰ってやろうぜ」
「そうだね。妹も弟もユーキに懐いてるから、きっと喜ぶよ」
「じゃあ今日も遊んでやるか!……その間に、お前は夕食の準備、しておけよ。終わったら一緒に宿題やろうぜ」
な、と賛同を求めるユーキに、うん、とフィロは静かに頷く。
ドキドキと高鳴る心臓を、懸命に抑えながら。