SSその5・スチリア×アキラ | Colorful paradise

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サークル「Colorful paradise」に関するお知らせとサンプルです。

『日焼け』

 

ヒリヒリと、首の後ろが痛む。
――これは日焼けしたかな。
森から戻った輝は、様々な植物が詰まったリュックをテーブルの上に置くとすぐさま洗面所へ。
そこに設置されている鏡に背を向けて軽く振り返ると、予想していた通り首の後ろが赤くなっていて。油断したなあと悔やみながらも、輝は上の棚から新しいタオルを取り出し、それを軽く濡らして首の後ろに当てる。そのおかげで少しだけ痛みが引いていく。
――まさか日焼けするとは思わなかったな。
季節は夏、太陽の日差しが強いこの時期は長時間日光に当たっていると日焼けをしてしまう、そのぐらいの知識は当然持っている。しかし植物採集に向かった森は背の高い木に覆われているから平気だろうと考えて何の対処もせずに出掛けたのだ。日陰だけを移動するのではなく、木漏れ日の差す場所を移動することをすっかり忘れたまま。その結果、首の後ろを日焼けしてしまうなんてこれは完全に己の失態。
早く治らないかなあと考えながら部屋に戻った輝は、テーブルの上に置いたリュックの中から植物の入った袋を取り出していく。そしてそれらを種類別に片付けようとした時、微かな鈴の音を立てて扉が開く。
「……お帰りなさい、アキラ」
「ただいま、スチリア。お客さんはもう帰ったの?」
扉の向こうから現れたのはこの家の主人ことスチリア。目の見えない彼は腕の良い薬師であり、輝は彼の家に居候をしながら薬の原料となる植物を集めているのだ。
スチリアは迷うことなくまっすぐ輝に近付いてくる。その手の中には何やら白い箱が。もしかしたら薬を受け取りにきた街の住人から何かお裾分けをもらったのだろうか。
「ええ、たった今帰られたところですよ。薬のお礼に、とレモンパイを頂きましたのでお茶にしましょう」
「ちょっと待って、テーブルの上を片付けるから。……そうだ、お茶の前に日焼けを治す薬、あったらもらえる?」
「日焼け、ですか?」
スチリアの薬なら日焼けなんてすぐに治るはずだと期待して問えば、しかしスチリアは何故か不思議そうに首を傾げるばかり。これは珍しい反応だなと軽く驚きながらも輝は口を開く。
「あ、もしかして日焼けに効く薬は作ってない?それとも材料が足りないなら俺、集めてくるよ」
「材料は揃っていますし、すぐに作れますが……そういった薬を欲しがる方はここ数年いなかったので少し驚いたのです。どこか日焼けをしたのですか?」
「うん、首の後ろをちょっと、ね。そっか、ここの住人って日焼けで困る奴はあんまりいないんだな」
純粋な人間である輝と異なり、この世界で暮らす人々は何かしら動物の血が混じっている。目の前のスチリアは鳥の血統で背中に大きな翼があったり、友人のカイは狼の血統であるためモフモフな尻尾と耳を持っていたり、と。そんな彼らは恐らく動物の特性が強いのだろう、それならば日焼けとはあまり縁がないと言われても納得がいく。
「ニンゲンは私達より肌が弱いのでしょうね。私も、私の周りの方々も日焼けの経験がないので、宜しければどんな症状が出ているか教えてもらえますか?」
「首の後ろが少し赤くなってるだけだよ。今は熱くなってるから濡らしたタオルを当ててる」
「肌が赤くなる……赤くなった後は元の色に戻るのですか?」
「それは人に寄るけど俺は元に近い色に戻るかな。中には赤くならずに焦茶色に近い色になってそのまま色が定着する人もいるよ。あと、酷くなると皮が剥けたり水膨れが出来る場合もある」
「皮が……!?アキラ、日焼けした箇所に触れても良いですか?皮が剥けていないか念のため確認させて下さい」
「いいけど、熱いから気を付けろよ」
そう言うと輝はタオルを外し、反対の手でスチリアの手首を掴むと首の後ろへと導く。ほんのりと温かいスチリアの指先、それが触れた瞬間、思わず輝の肩がピクリと揺れる。
「こんなに熱い……かなり痛むのですか?」
「大したことないって。あんまり強く押されると痛いけど」
そうですか、と相槌を打つとスチリアは輝の首の後ろにゆっくりと丁寧に触れる。自分が痛みを感じないように気遣いながら。それでも好奇心を抑えられないのだろう、熱心に触り続ける様はさすが薬師と感心するべきか。
――余計な心配させたかな。
優しいスチリアのこと、想像以上の症状に驚いているのかもしれないと考えていると、不意にスチリアの手が首から離れていく。輝は再び濡れたタオルを患部に当てる。
「だいぶ熱くなっていますから熱冷ましの薬も処方しますね。すぐ準備しますのでここで待っていて下さい」
「……あのさ、薬の調合って俺にも出来る?使うのが俺だけしかいないなら、自分で作れるように調合法を教えて欲しいんだけどいいかな?」
輝が尋ねるとよもやそんなことを尋ねられるとは思わなかったのだろう、スチリアは驚きを露わにする。しかしすぐに笑顔を浮かべたのは彼の優しさ故か。
「さほど難しくはありませんよ。それでは一緒に調合をしましょう」
うん、と頷くと輝は椅子から降りてスチリアと共に隣の部屋へ向かう。その顔に笑みを浮かべながら。
――少しずつでも薬の調合を覚えなくちゃ。
そうしていつかスチリアの目を治す薬を作るんだと改めて彼は決意を固めたのだった。