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うつ病の「ぐるぐる思考」は脳のネットワーク異常?DMNとの関係 

うつ病の「ぐるぐる思考」は脳のネットワーク異常?DMNとの関係 ☆頭をさわれば病気にならないトミタ院長のブログ☆

 

うつ病にお悩みの方からよく聞かれるのが、「過去の失敗やネガティブな考えが頭の中をぐるぐると巡って止まらない」という症状です。この「ぐるぐる思考(反芻思考)」には、脳の「デフォルトモードネットワーク(DMN)」と呼ばれるシステムが深く関わっています。

DMNとは、私たちが特定の作業をしていない「ぼんやりしている時(安静時)」に活発になる脳のネットワークです。健康な状態では、自分自身を振り返ったり、過去の記憶を整理したり、他者の気持ちを推し量るなど、心のアイドリング状態を維持する重要な役割を担っています。

しかし、うつ病や強いストレス状態に陥ると、このDMN内の神経同士の結びつき(機能的結合)が過剰に強くなり、活動が暴走した状態になってしまいます。その結果、脳が常に「過去の後悔」や「ネガティブな自己評価」に過剰に焦点を当ててしまい、意識を別のことに切り替えることができなくなり、辛い「ぐるぐる思考」から抜け出せなくなってしまうのです。

最新のfMRI(機能的磁気共鳴画像法)を用いた研究では、百会(GV20)や印堂(EX-HN3)といった頭部のツボに鍼刺激を行うと、この暴走したDMNの活動が沈静化し、異常なネットワークの繋がりが正常化することが確認されています。つまり、鍼灸治療は脳のネットワークの「バグ」を物理的にリセットし、ぐるぐる思考のループを断ち切る効果が期待できるのです。


「ぐるぐる思考」「疲労感」や「やる気が出ない」「不眠」など、症状に合わせて治療点(ツボ)を変える重要性

うつ病と一口に言っても、前述のぐるぐる思考以外に「極端な疲労感」「やる気が出ない(意欲低下)」「不安感」「不眠」など、人によって強く現れる症状は異なります。そのため、患者様一人ひとりの「現在の症状」に合わせて、治療点(ツボ)を的確に検討・選択することが極めて重要です。

最新の神経科学では、症状ごとに原因となっている「脳内ネットワークの機能不全」や「神経伝達物質の乱れ」の場所が異なることが分かっています。

 

. ぐるぐる思考(反芻思考)が強い場合 前述の通り、DMNの過活動が原因であるため、DMNのハブに直接介入できる頭部のツボであるYNSAの脳幹点や12脳神経点を中心とした頭皮鍼アプローチYNSAが最も適しています。もちろん印堂‐百会などの経穴も有効です。

 

・円形脱毛症や脱毛症、AGA、アトピーの方でうつ傾向のある方、同じこと考え続けてしまう方はDMNの活動のエラーが起きている可能性があります。特に円形脱毛症や脱毛の方はアトピーなど炎症性疾患を併発することが多く、炎症に対する治療を考えた上でいくもの治療を組み立てていくというのがとても重要になります。合わせてメンタル的な治療を頭皮鍼において行うとさらに治療効果を高めることができます。

 

トミタのフサフサ鍼灸セミナー基本編では臨床上遭遇することの多い、うつ病に伴う集中力の低下や考えがまとまらないといった認知機能障害を回復させる、メンタル疾患の患者さんに対する治療法も合わせてお伝えする予定です。

 

 

 

まとめ

うつ病は「単一の病気」ではなく、DMN(ぐるぐる思考)、報酬系ネットワーク(意欲低下)、情動系ネットワーク(不安・不眠)など、脳の複数のシステムのエラーが複雑に絡み合った状態です。すべての患者様に同じ決まったツボを使うのではなく、「今、どの脳内ネットワークでエラーが起きているのか(=どの症状が一番辛いのか)」を的確に見極め、それに対応する最適なツボを選択するマルチターゲットな治療を行うことが、鍼灸治療の改善効果を最大化するための鍵となります。

 

康祐堂鍼灸院 院長 冨田 祥史

 

 

「うつ・パニック障害・不眠症に対する統合医療的アプローチ」セミナー終了しました

康祐堂鍼灸院の冨田祥史です。

先日開催いたしました「うつ・パニック障害・不眠症に対する統合医療的アプローチ」セミナー。北は北海道、南は沖縄まで、全国から志の高い先生方にお集まりいただき、満席の中、熱気あふれる時間となりました。

今回は現役の医師4名にもご参加いただき、質疑応答では現代精神医学のパラダイムシフトに触れる、非常に鋭く、かつ本質的な議論が交わされました。

 

「セロトニン仮説」の終焉と、うつの本当の正体

多くの患者様、そして専門家さえもが「うつ病=セロトニン不足」と信じてきました。しかし、2022年に発表されたモンクリフ博士のレビューにより、その「化学物質不均衡説」は科学的に否定されました。

では、うつやパニック障害の「本当の理由」とは何でしょうか?

統合医療の観点から最新の理論と我々臨床家が取るべきアプローチや治療点、経穴の使い方について詳しく説明させていただきました。

 

 8割が「最高評価」— 臨床現場が求めているもの

セミナー後のアンケートでは、8割を近い先生方から「最高評価」をいただきました。

「長年の疑問が氷解した」「明日からの臨床で、自信を持って患者様に説明できる」といったお声をいただき、改めてこの統合医療的アプローチの重要性を痛感しております。

また、特に多かったのが「実技セミナーをぜひ開催してほしい」という熱いリクエストもいただきました。

 

北は北海道から南は沖縄まで、これほど多くの熱心な先生方、そして4名の現役医師と「これからの心のケア」について語り合えたことは、私にとってとても嬉しい時間となりました。

「化学物質を足す(代償)」医療から、「脳のネットワークを治す(修復)」医療へ。

康祐堂鍼灸院は、これからも最先端の脳科学と東洋医学の叡智を融合させ、悩める方々の「脳の健康」を全力でサポートしてまいります。

ご参加いただいた先生方、本当にありがとうございました。また皆様と笑顔で再会し、お会いできる日を心より楽しみにしております!

 

今回のセミナー内容について、さらに深掘りしたい先生や、最新の情報をいち早く受け取りたい方は、ぜひ公式LINEにご注目ください。共に、日本の統合医療を盛り上げていきましょう!次回はセミナーでご質問いただいた大変審査に挑んだうつの、セロトニンのお話について解説させていただければと思います!

 

【号外】フサフサ鍼灸入門編セミナーを低価格で開催いたします!

 

本年の4月17日には育毛の基礎知識を学ぶフサフサ鍼灸入門編オンラインセミナーを、

 

 

5月17日には、今回の鬱やパニック障害に対する統合医療的アプローチセミナーの内容を一部盛り込んだフサフサ鍼灸セミナー基本編(AGA、メンタル編)

 

 

9月6日には円形脱毛症やアトピー、白髪染め、眉毛脱毛症などフサフサ鍼灸セミナー応用編セミナーを行います!

 

 

 

ご興味のある方は急ぎご参加ください。

回答:なぜセロトニン仮説が否定されても、鍼灸論文ではセロトニンが重要なのか?

先日の「鬱、パニック、不眠症に対する統合医療的アプローチセミナー」の中で冨田が尊敬する東京女子医科大学の漢方専門とする医師の先生から、非常に示唆に飛んだ次のようなご質問をいただきました

「セロトニンの不足がうつ病の原因でないとするモンクリフの仮説は理解したが、主要な鍼灸のうつ病に対する効果の考察にはセロトニンや5HTが説明として使われているのは、矛盾するに思うがどのように考えるべきか」。

これは今回のセミナーの核心にもせまる素晴らしいご質問だったため、ここで改めて内容を整理して回答させていただきます。

先生、極めて本質的、かつ臨床の根幹に関わる素晴らしいご質問をいただき、心より感謝申し上げます。先生のような学識の深い方から、現代精神医学のパラダイムシフトの核心に触れるご指摘をいただけますことは、私にとっても大きな学びとなります。

 

回答:なぜセロトニン仮説が否定されても、鍼灸論文ではセロトニンが重要なのか?

 

ジョアンナ・モンクリフ博士による2022年の大規模なアンブレラ・レビュー(Molecular Psychiatry)は、長年信じられてきた「セロトニン欠乏=うつ病の原因」という単純な化学物質不均衡説を科学的に否定し、世界的に大きな議論を巻き起こしました。一方で、最新の鍼灸エビデンスにおいては、依然として「セロトニン(5-HT)の産生」が治療効果の根拠として頻繁に引用されます。

この一見すると矛盾に見える状況を、最新の神経科学的知見に基づき、セロトニンはうつの「原因」から「修復」へのパラダイムシフト、および「脳内ネットワークの機能不全」という観点から、包括的に考察・統合いたしました。

 

考察:セロトニン仮説の否定と、鍼灸によるセロトニン活性の整合性について

 

モンクリフ博士が否定したのは「うつはセロトニン欠乏が原因であるのは誤りです」という【病因論】であり、鍼灸論文が論じているのは、セロトニンを介した【神経可塑性の修復プロセス】です。 両者はセロトニンの役割に対する定義が異なっていると考えます。

 

1. セロトニンは「燃料」ではなく「神経可塑性のメディエーター」

モンクリフ博士のレビューが否定したのは、「脳内のセロトニンという液体の量が減ったから、コップの水を足すように薬(SSRI)で補えば治る」という、1960年代から続く古い【モノアミン仮説(化学物質不均衡説)】です。

しかし、これは「セロトニンがうつの治療において脳内で無意味である」ということではありません。神経科学において、セロトニンは「神経可塑性(脳のネットワーク修復)」を駆動させるための重要なスイッチと再定義されています。

  • BDNF(脳由来神経栄養因子)の増幅: 慢性ストレスで萎縮した海馬や前頭前野の神経細胞を修復するには、BDNFという「脳の肥料」が必要です。セロトニンは、このBDNFの発現を促す強力なトリガーとなります。

  • 鍼灸の役割: 鍼灸がセロトニンを増やすのは、不足したタンクを満たすためではなく、「脳の構造的ダメージを修復する自己治癒プロセス」を起動させるためなのです。

うつ病の主流な仮説はモノアミン仮説から「神経可塑性仮説」「トリプルネットワーク仮説」へと移行しています。慢性ストレスによる海馬や前頭前野の神経細胞の萎縮、およびBDNF(脳由来神経栄養因子)の枯渇、脳のネットワーク不全が病態の本態であるという考え方です。

  • 病因論の否定(モンクリフの主張): 「セロトニンというガソリンが切れたから、車(脳)が動かない」という因果関係を否定。
  • 修復論の肯定(鍼灸の機序): 鍼刺激(特に電気鍼)によるセロトニン放出は、単に「量を増やす」ためではなく、下流のBDNF発現を誘導し、萎縮した神経ネットワークを物理的に再構築するための「修復トリガー」として機能します。

つまり、鍼灸論文でセロトニンが言及されるのは、それが不足している「原因物質」だからではなく、脳を再起動するための「生物学的ツール」として極めて重要だからです。

 

2. 重症度によるSSRI効果の差異と「修復ニーズ」の関係

先生もご高承の通り、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)は「軽症〜中等症の患者ではプラセボと有意差がなく、重症患者において明確な効果を示す」ことが大規模なメタ分析(JAMA, 2010等)で示されています。この臨床的事実こそが、セロトニンが「原因」ではなく「修復手段」であることを証明しています。

  • 軽症うつ(機能的不全): 神経細胞の物理的な萎縮はまだ軽微です。休養や環境調整、あるいはプラセボ効果に伴う内因性の自己治癒力でネットワークの再調律が可能なため、外部からの強力な薬理学的介入(SSRI)の優位性が目立ちません。
  • 重症うつ(構造的崩壊): シナプス脱落や海馬の萎縮が進行しており、生体本来の治癒力だけでは「修復の閾値」を超えられません。ここで初めて、SSRIによる強制的なセロトニン濃度の維持が、「物理的な神経修復スイッチ」として機能し、臨床的効果として現れると考えられています。

鍼灸は、この「修復スイッチ」を生理的な機序を通じて起動させるため、重症例への補完的役割のみならず、軽症例においても過剰な薬理作用を介さずにネットワークを調律できる強みを持っています。

 

3. マクロな「トリプルネットワーク」の調律とマルチターゲット作用

ミクロな物質濃度以上に重要視されているのが、脳内の大規模なトリプルネットワークの機能的結合の異常です。

  • DMN(デフォルトモードネットワーク)の過活動: ネガティブな反芻思考の固定化。
  • SN(顕著性ネットワーク)の過覚醒: 不安や焦燥感、神経炎症の併発。
  • CEN(中央実行ネットワーク)の低下: 意欲・認知機能の減退。

最新のfMRI研究により、頭部への刺鍼は、これらのネットワークバランスを物理的に再構築することが確認されています。鍼灸の最大の優位性は、セロトニン単一の操作に留まらず、ドーパミン(意欲)、GABA(鎮静)、内因性オピオイド(抗不安)を同時に、かつバランスよく調整する「マルチターゲットな介入」である点にあります。

 

結論としての統合的見解

モンクリフ博士が「セロトニン仮説」を否定したのは、うつ病が単なる「化学物質の不足(欠乏症)」ではないことを証明するためでした。

一方で、鍼灸やSSRIがセロトニンを介して効果を示すのは、セロトニンが「壊れた脳のネットワークを修復するための、最も有力な生物学的ツール」だからです。

  1. 軽症例: ネットワークの歪みが小さいため、セロトニンという「ツール」を外部から強制投入(SSRI)する必要性が低い。

  2. 重症例: ネットワークが構造的に壊れているため、セロトニンを介した修復プロセス(BDNF誘導)が不可欠となる。

  3. 鍼灸: セロトニンを一つの主軸としつつ、複数の神経伝達物質や抗炎症機序を同時に駆動させることで、軽症から重症まで幅広く「脳のホメオスタシス(自己治癒系)」を再起動させている。

このように整理することで、モンクリフ博士の最新知見と、鍼灸論文における機序解明、そして臨床的な重症度別効果の差異は、「脳のネットワーク修復論」という物語の中で矛盾なく統合されると考えます。

 

「うつ病の本態は単なるセロトニン欠乏(原因)ではない。しかし、うつ病によって物理的なダメージを受けた脳のネットワーク(DMN, SN, CEN)を修復し、可塑性を回復させるプロセスにおいて、セロトニンは極めて重要な『修復の鍵』として利用されている。」

したがって、うつの「原因としてのセロトニン」を否定し、鍼灸論文が「回復の手段としてのセロトニン」を肯定することは、現代の神経可塑性理論において一致した見解になると考えます。

鍼灸は、セロトニンという一つの「音」を調整しているのではなく、セロトニンを含む多数の楽器を指揮し、脳というオーケストラのハーモニー(ネットワーク全体)を取り戻している――。先生の臨床における鍼灸の価値を、このように再定義させていただければ幸いです。

 

先生のご慧眼により、私自身もこの複雑な機序を再定義する機会を得られましたことに、深く感謝申し上げます。

 

YNSA学会

康祐堂鍼灸院 冨田 拝