前の記事で期限の利益喪失について書きました。「期限の利益喪失とは・この用語だけは押さえて!」
この記事では期限の利益喪失についてもうちょっと専門的に、詳しく書いてみます。
期限の利益喪失は、どこを見ればわかるのでしょうか。
皆さんの会社が金融機関から借入をするとき、銀行取引約定書という契約を取り交わします。銀行が取引するにあたっての基本契約書のようなものです。この約定書に、期限の利益喪失条項が記載されています。
銀行取引約定書は以前は統一フォームがありましたが今は自由に取り決められています。(とはいえ、銀行が提供するサービスに銀行間で大きな差異があるわけではなくほぼ同じ内容のものとなっています)
銀行サービスで言えば、通貨オプションを中小企業に売ったりするなど提供商品は世相を反映して随時入れ替わっていきます。それに応じて銀行取引約定書も変わっていくのです。
地元、北洋銀行の銀行取引約定書は平成16年に改訂さています。
期限の利益喪失条項には「経営者が行方不明の場合」という文章が付け加えられました。
(引用開始)
第5条(期限の利益の喪失)
①甲について次の各号の事由が一つでも生じた場合には、乙からの通知催告等がなくても、 甲は乙に対するいっさいの債務について当然期限の利益を失い、直ちに債務を弁済する ものとします。
1.破産、民事再生手続開始、会社更生手続開始、会社整理開始もしくは特別清算開始の 申立があったとき。
2.手形交換所の取引停止処分を受けたとき。
3.前2号の他、甲が債務整理に関して裁判所の関与する手続を申立てたとき、もしく は弁護士等へ債務整理を委任したとき、または自ら営業の廃止を表明したとき等、 支払を停止したと認められる事実が発生したとき。
4.甲または甲の保証人の預金その他の乙に対する債権について仮差押、保全差押また は差押の命令、通知が発送されたとき。なお、保証人の預金その他の乙に対する債権の 差押等については、乙の承認する担保を差し入れる等の旨を甲が遅滞なく乙に書面 にて通知したことにより、乙が従来通り期限の利益を認める場合には、乙は書面にて その旨を甲に通知するものとします。ただし、期限の利益を喪失したことに基づき 既になされた乙の行為については、その効力を妨げないものとします。
②甲について次の各号の事由が一つでも生じた場合には、乙からの請求によって、甲は乙に 対するいっさいの債務について期限の利益を失い、直ちに債務を弁済するものとします。
1.甲が乙に対する債務の一部でも履行を遅滞したとき。
2.担保の目的物について差押、または競売手続の開始があったとき。
3.甲が乙との取引約定に違反したとき、または第14条に基づく乙への報告もしくは 乙へ提出する財務状況を示す書類に重大な虚偽の内容がある等の事由が生じたとき。
4.甲の責めに帰すべき事由によって、乙に甲の所在が不明となったとき。
5.保証人が前項または本項の各号の一つにでも該当したとき。
6.前各号に準じるような債権保全を必要とする相当の事由が生じたと客観的に認め られるとき。
③前項の場合において、甲が住所変更の届け出を怠る、または甲が乙からの請求を受領し
ないなど甲の責めに帰すべき事由により、請求が延着しもしくは到達しなかった場合に は、通常到達すべき時に期限の利益が失われたものとします。(引用終り)
大きく説明すると、①に該当すると即、期限の利益喪失だよ(当然喪失)、②のときには、銀行が「期限の利益喪失だな」と判断して書面で通知した時に期限の利益喪失になるよ(通知喪失)、③そのときに行方をくらましていて書面(内容証明、ですね)が到達しなくても通知したことにするよ、という意味になります。
気を付けて再度見ていただきたいのは、4.の差押です。よくあるのは、税金や社会保険料などを滞納し、なかなか納付が進まないとき、課税庁は国税徴収法を根拠に差押をして回収することができます。(それが地方税でも社会保険料でも、国税徴収法に準拠して手続きが進みます) もし、税務署が差押を実施し、それが銀行預金だったら、その銀行に差押が入った!という事実がリアルタイムで知られてしまうことになります。(詳しくは別記事で)
つまり、公租公課の延滞→差押→期限の利益喪失、代位弁済、というようにどんどん事態が進んでしまう可能性がでてくるのです。
②の通知喪失の場合、目を引くのは、3.です。借り手企業が提出する「財務状況を示す書類に重大な虚偽がある」ときにはそれを理由にして期限の利益喪失できるのです。つまり、粉飾があって融資をしたとき、銀行側はそれを理由に取引打ち切り→回収へ進むことができるわけです。
実際には粉飾をしている企業は多く、それら企業がすべて期限の利益喪失されるわけではありません。明確な基準はありませんが、借り手に悪意があるとき(=やむに已まれず…ではなく、明確に「融資金をだまし取ってやろう」という意思があるとき)には、この条項が適用されるのではないか、と思います。その場合、期限の利益喪失だけにとどまらず、民事刑事でも訴追や損害賠償請求に進むことになると思います。
銀行取引約定書を見れば、銀行が考える、「まずい」状況とはなんなのかが見えてきます。
「がんばれ経営者!ひとりでもできる事業再生ノウハウ」
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