この【Psycho】シリーズを始めるにあたり、何度も取り上げ、また私自身半世紀前も注目していた精神障害の一つに統合失調症(Schizophrenia)があります。
この精神障害は、古くは(若年期に発症することが多かった為)「早発性痴呆」と呼ばれ、その後語源がギリシャ語の「schizo(分離した)」と「phrenia(精神)」であることから)「精神分裂病」と呼ばれるようになりました。しかし、この呼称では「精神分裂病とは人格荒廃に至る重症、予後不良の疾患であるという古い疾患概念」が生まれたことから、日本では2002年8月に日本精神神経学会がそれまでの(原語の直訳である)「精神分裂病」から(障害により不全となる認知の「統合」機能に焦点を当てて)訳語を変更したものです。
日本では芥川龍之介、 夏目漱石等、海外ではムンク、ゴッホ等が統合失調症を患っていたといわれており(「近代において精神障害者を描いた作家と作品」)、若い頃文学少年であった私もこの精神障害に畏敬と強い興味を持っていました。特に
器質的変化がないにも拘らず、原因不明の幻覚、妄想、精神の混乱が生じるという本障害の奇異性
が、(当時実存主義や現象学を学んでいたこともあり)「人間存在の本質」の認識、理解への「抜け道(secret path)」のように感じられました。
以下では、今後取り扱うパーソナリティ(人格)障害の中の「シゾイドパーソナリティ障害」や「統合失調型パーソナリティ障害」を理解する上で本障害の基礎的理解を得るべく、日本精神心理学会が統合失調症への名称変更時に作成したサイト(注)を中心にまとめてみます。
注:「統合失調症について -精神分裂病と何が変わったのか-」
1.歴史
本障害を巡る歴史的経緯は、簡潔にまとめられていますので「精神分裂病から統合失調症へ」を、現在の「統合失調症」となる理由と経緯は「 呼称変更の経緯」をご覧になってください。
2.病像
統合失調症とは、「思考や行動、感情を1つの目的に沿ってまとめていく能力、すなわち統合する能力が長期間にわたって低下し、その経過中にある種の幻覚、妄想、ひどくまとまりのない行動が見られる病態である」といわれ、特に「統合失調という症状によって最も影響されるのは、対人関係である。複数の人間の話し合う内容が、いったい何を目指しているのか、その場の流れがどうなっているのか、自分はどう振る舞ったらよいのか、ということが分かりにくい。そのために、きちんとした応対ができなかったり、時に的はずれな言動をしたり、後になってひどく疲れたりすることがある。また、ある一連の行動を、自然に、順序立てて行うことが苦手となる。着替えをする時の順番を忘れたり、料理が得意であった人が、その手順を思い出せなくなったりする」ことがその本質的病像となります。
出典:「統合失調症とは何か」
より具体的には「ブロイラーの言う連想機能の分裂とは、「太陽」と「暑い」といった、通常ならば連想で結びついている考えが切り離され、その代わりに「太陽」と「牛乳」のように、普通では見られにくい連想が生じることである。こうした連想の乱れを基にして、思考の道筋の曖昧さ、引きこもり、正反対の感情を同時に抱くこと、などを基本的な症状」とし、その結果(シュナイダーは)「この病態は自我の境界がもろくなっていることに原因があると考えて、それを反映する特殊な形の幻覚、妄想を抜き出し、一級症状と名付けた。考えが吹き込まれる、身体を操られる、など(注)」の、将に前回見た「社会的標準や期待から逸脱する(deviate from social norms and expectations)」異常性となって表れます。
注:「その診断方法<「幻覚、妄想、強い思考障害、行動の障害、陰性症状のうち、少なくとも2つが1カ月以上続くことによって診断を下す」>は、今日の米国精神医学会による DSM-III、WHOによるICD-10に引き継がれている。」
出典:「精神分裂病から統合失調症へ」
3.原因
既に予習(注)した通り、
注:【無駄話】記憶(一般論)、【無駄話】記憶(幼児性健忘)と自我形成、【無駄話】感情(「感情階層説」を読んで)、【無駄話】感情から認知へ
人間の精神機能が脳のニューロンのシナプス結合にあることを念頭に、人間が出生後「自他認識」と「交信(コミュニケーション)」を発達させて、(アナロジックに言えば「神経のネットワークとデータベース」による「認知」機能の上に構築される、人間存在の本質的有り様である)社会的存在になる所、
「何らかの遺伝的な脆弱性と環境的な負荷、とくに対人的な緊張が重なって発病に至ることは、ほぼ認められている」が、
「統合失調症の厳密な原因は不明であるが、少なくとも症状の発現には脳内の神経情報伝達物質が関与していることは明らかである。」(「最近の神経画像解析や神経伝達系機能の解析、遺伝分子生物学的な研究成果によりその病態はかなり解明されており、脳ドーパミン神経系の過剰反応を主とし、前頭前皮質における興奮性アミノ酸神経系の機能低下や視床・大脳辺縁系の病態を伴うことが明らかにされている」)
ように、それが正常に機能しなくなり、「自他認識」と「交信(コミュニケーション)」に失調をきたし、「社会的標準や期待から逸脱する(deviate from social norms and expectations)(注)」ようになったと理解してよいだろうと思います。プログラミングに譬えるなら、「エラーや警告が出ずにコンパイルは正常に終了し、コードにどこにもおかしなところが無いにも拘わらず、実行すると出力内容が期待から大きく逸脱して、(こちら側は)「なんで!」とフラストレーションを感じ、(次に)怒りを感じ、(原因が分からないので)不気味さや恐怖までも感じるようになる、というような感じでしょうか?
過去「精神分裂病とは人格荒廃に至る重症、予後不良の疾患であるという古い疾患概念」が神秘性を感じさせましたが、現在の神経科学では「たとえばアレルギー疾患において、素因にアレルゲンが加わり、特定の免疫反応が生じることと、あまり変わらない。異なっているのは、症状が精神活動そのものを冒すために、「精神、人格が変わってしまった」と思いやすいことである。しかし、以前はてんかんの発作も同じように考えられていた。発作の神経学的な基盤が明らかとなった現在、てんかんを精神や人格の病気であると考える者はほとんどいない。」ということになります。
4.診断
ここでは以下の表(DSM-Ⅳ by 米国精神医学会)ザクっと何に着目して診断しているのかを見てみます。
上記AとBが統合失調症の典型症状、Cがその継続性、DEFは他因による同様症状の排除確認と言えるのでないでしょうか?
5.治療
1958年からハロペリドール等向精神病薬を使った薬物療法が一般となり、幻覚、妄想、興奮などが制御されるようになり、「先進諸国はこの時期に、入院収容主義から地域医療へと方針を転換し、日本も本来ならばそれにならうはずであった。実際、英国の地域医療モデルを導入し、精神衛生法の改正が計画されたのだが、」しかし「ちょうどその時期(昭和39年)に、統合失調症の青年が時の駐日米国大使であるライシャワー氏を刺傷する事件が起こり、行政は社会防衛のための収容主義へと方針を転換し、収容型の精神病院が増加した。 」という日本固有の問題が生じますが、現在は収容主義では患者の社会復帰が阻害されるという観点(「旧病名の弊害と新病名「統合失調症」の意義」)から、薬物療法と併せて「心理社会的なリハビリテーション、ならびに社会復帰のための福祉、地域での支援」が行われているということです。
私自身、半世紀前に(特に反精神医学運動を背景に)統合失調症について学んだと思っていたのですが、今回の学習により、その認識が大きく変わりました。
「統合失調症とは、こうした現代的なごく普通の医療を行うために変更された名称である。失調とは、一時的に調子を崩したもので回復の可能性があることを示唆している。調子を崩した状態が、その人の回復不能な精神の特徴であるかのような表現は、もはや受け入れられない。」
という引用で締めくくりたいと思います。



