今回の兼題は夢路さん出題の「蛍狩」です。
◇野里子
ハミングで「星の世界」や蛍狩
本心で口説きはしたが蛍狩
⇒「星の世界」は文部省唱歌ですね。♪かがやく夜空の星の光よ、と歌いはじめる。満天の星の下での蛍狩。どちらもきれいです。
昔から蛍は恋の思いを託すものだった。〈ゆるやかに着てひとと逢ふ蛍の夜 桂信子〉という句もある。蛍の夜は口説くには絶好の舞台。「したが」の後が気になる。
◇光
せせらぎに光りの流れ蛍狩
孫背負い寝息を聞きつ蛍狩
⇒蛍は清流に棲む。暗い水面の上に蛍の光が流れる。
せっかく孫に蛍を見せようと連れてきたのに、寝てしまった。
◇馬空
蛍見や幼子抱いて橋の上
ダービーの反省会やまづビール
⇒そう大きな橋ではない。下には小川が流れていて蛍が舞っている。子供が蛍をじっとみつめている。
反省会と言うことは馬券は当たらなかったようですね。ビールも苦い。
◇さら
蛍狩短き命と知りつつも
灰汁(あく】巻は馴れれば癖になりにけり
⇒蛍の寿命は平均10日だそう。せいいっぱい光って交尾・産卵をして消えていく。はかないですね。
灰汁巻についての作者の解説です。「多分 鹿児島だけの食べ物と思うのですが、灰汁巻きとはもち米を竹の子の皮で三角に巻いて灰汁汁で茹でたおかしです。食べる時は黄な粉に砂糖を混ぜてまぶして食べました。」
竹の子で巻いてあるそうですが残念ながら灰汁巻は季語とはみなされていませんね。
◇遊介
せせらぎの音のみ聞こゆ螢狩
漆黒の闇に抱かれ螢狩
⇒蛍見物は音を出さないのがマナーです。せせらぎの音だけが絶え間なくつづく。
闇の中で目をこらして蛍の光の明滅をみつめる。至福の時間です。
◇はな
蛍見を独り占めなる帰り道
角帯をぽんと叩いて蛍狩
⇒帰りは一人だったのですね。たっぷりと鑑賞できた。
パリっと糊のきいた浴衣を着た男性でしょう。となりには当然ながら清楚な女性。
◇あかね
蛍狩夜を待っている宴かな
蛍狩せせらぎ混じるはしゃぎ声
⇒蛍の舞を宴と表現したのだろうが宴は宴会・酒盛りです。蛍にはふさわしくない。
思わず人差し指をたててシーっと言いたいですね。声を立てると蛍が逃げてしまう。
◇蒼月
里山の蛍狩とて子らはしやぐ
梅雨に入る玉露は甘し侘び住まい
⇒都会から田舎にやってきて蛍狩につれてこられた子供たちでしょう。はしゃぐ気持ちはわかるが静かにね。
玉露という高級なお茶を楽しんでいるのだから侘び住まいとは思えない。
◇夢路
をさな子の兵児帯掴み蛍狩
魂の戻る知覧の蛍狩
⇒子供用の浴衣を着た子でしょう。まだ足もとが危なっかしいので帯をつかんだ。
蛍は恋とともに魂のあらわれとして詩歌に詠まれてきました。野坂昭如の「火垂るの墓」もそうでした。特攻隊の若者たちの魂がかえってきた。
◇勝山
漆黒の闇うつくしや蛍狩
話し声ひそめて臨む蛍狩
⇒昨今の灯火に照らされた都会では闇の美しさを実感することはなくなりました。
そうそう、話し声は静かに。
◇三四郎
白き脛夜目に仄かや蛍狩
甚平の似合ふお人と蛍狩
