MGMT『Loss of Life』感想&レビュー【才能は枯れていない】 | とかげ日記

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●才能は枯れていない

2002年結成、アメリカのニューヨークとブルックリンを拠点として活動開始。アートスクール出身のアンドリュー・ヴァンウィンガーデン(Vo,G)とベン・ゴールドワッサー(Key,Programming)を中心とするポップ・デュオ「MGMT」。彼らによる約6年ぶり、通算5作目となるアルバム最新作『Loss of Life』(ロス・オブ・ライフ)をレビューします。

【収録曲】
1. Loss Of Life (Part 2)

2. Mother Nature

3. Dancing In Babylon (Featuring Christine And The Queens)

4. People In The Streets

5. Bubblegum Dog

6. Nothing To Declare

7. Nothing Changes

8. Phradie's Song

9. I Wish I Was Joking

10. Loss Of Life

彼らのアルバムは1stと2ndをリアルタイムでよく聴いていた。3rd以降はピンときていないため、あまり聴きこんでいない。

彼らの作品に通底するのは、ある種の妖しさだと思う。サイケな妖しさであったり、皮肉を効かした妖しさであったり、熱帯雨林でミステリアスに雨に濡れるようなビートの妖しさだったり。アニマルコレクティブやフレーミングリップスと肩を並べる極上な音空間に舌鼓(耳鼓)する。また、その2バンド(アニマル〜とフレーミング〜)は陽性だが、MGMTはニュートラル〜陰性寄りだしキッチュだ。だが、メインストリームのポップ好きにも伝わる快楽性もある。

1st『Oracular Spectacular(オラキュラー・スペクタキュラー)』は、 語られるべきポイントの多くを「Kids」という一曲の名曲が占めていると思う。「架空のポップ・バンドの、誰も知らない偽物のダンス・ヒット曲」という想定をして作られたこの曲は奇しくも彼らの最大のヒット曲になった。売れ線をパロディにし、露悪的にセルアウトしたこの皮肉は良い意味でMGMTっぽいと思う。俗な事物が見方によってアートに見えるように、バックトラックがチープなカラオケサウンドでも、観賞すべきアートになるのだ。(デュシャンの「泉』のように。)



嫌なこともサーフして難なく乗りこなす楽観主義的なサイケデリックの在り方が心地よい2nd『Congratulations(コングラチュレイションズ)』。甘美な歌メロと歌声、まどろむサイケデリア、逃走する疾走(失踪)感。そしてどこか露悪的な態度。MGMTで好きなのはこうした要素なのだが、本作はそれらを最も楽しめる。曲数は9曲とコンパクトだが(といっても12分超えの曲もあるが)、それぞれの曲想が豊かに伝わってきて満足感が高い。MGMT史上、最も脂の乗ったアルバムだと思う。



NYブルックリン発のサイケポップシーンは肥沃で、僕もBoy CrisisのStrawberriesという曲が好きだ。しかし、世界的にブレイクしたのはMGMTだけだ。それは、彼らが最もポップで魅せ方が上手いからだと思う。ビートルズ『Love』(リミックスアルバム)のような軽やかなサイケデリア空間が広がり、諧謔性と知性がサイケデリックと結託した彼らの作風に感銘を受ける。

3作目のセルフタイトルアルバム『MGMT』では、フランツフェルディナントの3作目『Tonight』のように、前作よりも色彩を少し暗くするけれども華がある作品。

4th『Little Dark Age』は80年代のメインストリームの音楽のような、強い主張のドラムの打ち込みだったりして、シリアスでサイケデリックに全振りしたマイケル・ジャクソンのようだ。(「Me And Michael」という名前の収録曲もあるし。)

3rdアルバム以降、MGMTの音楽は前衛的になっていくイメージを僕は持っている。しかし、個人的には前衛でない方が良かった。(前衛的な作品全般を好まないのではなくて、好きな前衛と無関心な前衛があるのだ。)そして、1stと2nd ほど音楽の抜けが良い曲は3rd以降は滅多にない。

そして本作である。アコギのストロークスや渋い歌唱などにワビサビがあるし、凄みすら感じる。「Kids」のジュクジュクした音楽の果汁のようなムズムズする中毒性とは違うが、これはこれで中毒性はある。くるりの最新アルバム『感覚は道標』のような一音一音へのこだわりと優しさや、イマドキの洋楽バンドでいうならThe 1975の諸作のようなエレガンスも感じる。

導入部の#1「Loss Of Life (Part 2)」のを経て、#2「Mother Nature」から繰り出されるインディー歌ものロックの名曲たち。慎み深い「インディー」、美メロな「歌もの」、ひとひねりした「ロック」という、これらの3要素がフルで聴こえる。



たとえば、#6「Nothing To Declare」。落ち着いたサウンド、完成された美メロ、優しい美声でおごそかな響きなのだが、静かな音世界の中でちゃんと一曲を通して胸を打つドラマもあって素晴らしい。このくらいの適度なサイケ感は本当に心地よくて聴きながら眠ってしまいそう。この美声はサイモン&ガーファンクルに通じるおごそかで柔らかな響きがあるので、サイモン&ガーファンクルが好きな方はマストで聴いてほしい。



また、オススメは#7「Nothing Changes」。アダルト・コンテンポラリー(≒AOR)の名曲! 静謐さの中にある熱量が長尺で続く音空間がたまらなく良い。RADWIMPS「なんでもないや」のようなまろやかで上質な時間が流れていく。



#8「Phradie's Song」のビラビラした高音の演奏(ハープ?)には「エウレカ」(発見した!)という言葉に通じる、覚醒するような真新しい直感がある。

「ロス・オブ・ライフ」というアルバムタイトルに象徴される、得たものではなく失ったもの(命)に目を向ける姿勢は、日本のワビサビと死生観に通じるものだと感じる。個人的にはすごく居心地のよい音空間だ。今のところ、依然として2ndアルバムが一番好きだが、聴きこんでいく中で変わっていくかもしれない。

クロージングの#10「Loss Of Life」を聴いて、その音楽的な志の高さと達成に感銘を受ける人は僕だけではないはず。才能は枯れないどころか、可能性の道(未知)を突き進んでいる。



Score 8.7/10.0

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