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●名曲の嵐
人気沸騰中「マカロニえんぴつ(愛称:マカえん)」による期待のメジャー2ndフルアルバム『大人の涙』についてレビューします。
マカえんはここ4, 5年にシーンに登場したメインストリームのロックバンド/ミュージシャンの中において希望となるべき存在だと思う。メロディよりもリズムを意識した歌が流行している令和の世にあってメロディが良いし、何よりも良い曲の打率が高い。
現在、米津玄師さんばかりが天才扱いされがちだが、マカえんのはっとりさんも天才だ。ただ、はっとりさんの親しみやすさとリスナーとの距離が彼を天才と呼ぶのを躊躇(ちゅうちょ)させる。そして、ソングライティングとアレンジの力ではヒゲダンやキングヌーと比肩する(個人的にはマカえんが一番だと思う。最近のバンドではダニーバグと双璧をなす力がある)。
僕が表現者として尊敬し私淑する笹口騒音さん(うみのてetc)もマカえんのことを賛辞していたことがある。曲を通して時代を描く笹口さんが、時代のアーティストを褒める。そこには、何か意味がある気がする。
僕のこの絶賛を嘘だと思うのなら、過去のマカえんの作品である「ブルーベリー・ナイツ」と「ヤングアダルト」の二曲だけでも聴いてほしい。J-POPのクラシックとなるべき普遍的な名曲だ。百万回のリスニングに耐えられるメロディの深みと人気老舗の豚骨ラーメンのような旨味が何層にも連なっていて何杯でもイケます。
「ブルーベリー・ナイツ」MV
「ヤングアダルト」MV
最近の音楽といえば、誰かが言っていたような「90年代の音楽は最高で10年代以降の音楽はクソ」という意見に僕は与しない。でも、先日たまたまイエモン「SPARK」を聴いたら、安心して心を委ねられるこういう完璧なポップソングは減ったと思うよね。
現在、活躍しているバンドの中でマカえんはサビの即効性も頭一つ飛びぬけているし、鳴っているサウンドのテクスチャーも音楽愛にあふれていて素晴らしい、どの要素も高水準のバンドだ。ミスチルのように濃厚なメロディと歌唱、スピッツのようなカラフルなアレンジ、ユニコーンのような奇抜な展開と明るいバイブス、どれも大好きだ。
僕が崎山蒼志さんの作品のレビューのときに書いた「何か大切なもの」のバイブスはマカえんからもビンビン感じる。それは「自分を愛せ」というメッセージが醸(かも)す空気感でもある。聴いていると生きたいという意欲がみるみる湧いてくる、明日への活力となりうる音楽であり、今日もリスナーの誰かの傷穴を埋めてくれるのだろう。
王道ポップにも思えるけれども、作家性も感じる。数秒聴いただけでこの筆致はマカえん(マカロック)だとすぐわかる曲に仕上がっている。マカえんの音楽のことをマカロックと呼ぶらしい。ちなみに、マカえんのファンのことをマカロッカーと呼ぶそうだ。熱心なファンではないが、僕もマカロッカーの一員にさせていただきたい。
さて、本作について見ていこう。
1曲目の「悲しみはバスに乗って」からして素晴らしい。ありふれた幸せのようなバースの静と、命が燃えるようなサビの動の対比のドラマチックなダイナミクスが、冷熱の落差の気持ち良さで整うサウナのように心地よい。MVは短編映画仕立て。シンプルだが琴線に触れる物語が心を動かすMVになっている。
「悲しみはバスに乗って」MV
バスに乗ったその先で、きみならまだ間に合うよと祈ったり(#2「PRAY.」)、心が向かう方に行ったり(#3「たましいの居場所」)、愛を握って抱きしめたり(#4「ペパーミント」)、生命力あふれたマカロックを展開する。生命力といえば、アルバム一枚を通して高野賢也さんのウネウネ動くベースにも、はっとりさんと田辺由明さんによるギターや長谷川大喜さんによるキーボードのウワモノの響きのビビッドさにも生命力を感じる。
そして、#7「リンジュー・ラヴ」の名曲ぶりに胸がすく。前述した「ブルーベリー・ナイツ」と「ヤングアダルト」の系統の訴求力のある曲だ。正統派なポップソングとしては、#12「星が泳ぐ」もオススメ!
「リンジュー・ラヴ」MV
モロに打ち込みだと分かる#5「ネクタリン」は今まで僕が出会ったことのないような珍妙なサウンドだ。ドラムがいないバンドだからメンバーのドラムに遠慮する必要(生ドラムにこだわる必要)がないため、打ち込みを採用しやすいだろう。
「ネクタリン」MV
序盤でハーモニカの音を添えたり、ホーンがほんの少し顔を出す#6「愛の涙」も面白い。#11 「TIME.」のドープでおごそかな音空間の中で火を吹くギターもいなせだ。
#8「嵐の番い鳥」の昭和歌謡路線(韓国の歌謡曲にも近いかも)にはびっくらこいた。何度も挿入されるセリフもこの古臭さ(良い意味で)が逆に新鮮だ。こういう突飛なことをやりつつ、ちゃんと音楽的なのがマカロック。そして次の曲#9「Frozen My Love」はそれに負けないくらいハチャメチャだ。頭のネジが外れたようなイカれていてイカした楽曲。
#10「だれもわるくない」。打ち込みと深みのあるアレンジが共存する曲。この曲の歌詞に「大人の涙」という言葉が出てきて、アルバムタイトルはここから取られたのだろう。自分が抱える"大人"であること(になること)の痛みや傷をこの曲(ひいてはこのアルバム)は分かってくれるという感慨を抱く。そう、大人になるということは「だれもわるくない」ことを知ることでもあるのだ。
「だれもわるくない」Official Audio
そして、最後の曲#13「ありあまる日々」はアコギ弾き語りでしっぽりとアルバムをしめくくる。中盤から終盤にかけてのはっとりさんの絶唱に心打たれる。ここには、「何か大切なこと」がある気がする。
マカエンは自分達の表現したいことが大衆(僕も大衆)にも求められている、リスナーとの幸福な関係になっているのではないか。少なくとも、セルアウトという言葉は彼らには似合わない。 今が旬(これからも旬かもしれないけど)なので、とかげ日記読者の方もぜひ聴いてみてくださいね!
Score 8.5/10.0
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