マカロニえんぴつ『ハッピーエンドへの期待は』感想&レビュー【可憐にエモーショナル】 | とかげ日記

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●可憐にエモーショナルな佳作

2012年結成の現・男性4人組バンド"マカロニえんぴつ"のメジャー1stフルアルバム。

「ヤングアダルト」「ブルーベリー・ナイツ」「恋人ごっこ」「レモンパイ」「青春と一瞬」のよーよー的マカえん五強曲を超える曲はあるのかということが本作を聴く上での個人的な焦点だった。(前作のEPの感想でも同じようなことを書いたけど…。)

この五強曲は天から降ってきたような自然なメロディで、僕が評価する90年代J-POPの名曲にも負けない完璧な流れの名曲だ。特に「ヤングアダルト」は僕も2010年代のベストソングに入れた思い入れのある曲だ。
👉2010年代ベストトラック(邦楽)30位→21位



そして、結論から言うと、これらの曲に勝てる曲は本作には無かった。しかし、それでも充分にスゴい! 本作の曲のメロディや曲展開には、天から降ってきたというよりも、彼らの深い音楽的素養から成る力技がふんだんに使われていると感じるが、力技の"力"の部分にエナジーを感じるのだ。既発表曲も新曲もエロスのエナジーが満ち満ちていて、マカロニえんぴつというバンド名に引っかけて言うから、まさにマカ的な高揚感がある。

エロスとは性、生きる情動。タナトスとは、暴力、死の衝動。本作『ハッピーエンドへの期待は』はエロスとタナトスのうちのエロスに舵を切り、もっと生きたいとリスナーに思わせる前向きなメッセージとサウンドがみなぎっている。タナトスさえもハッピーエンドとして昇華する陽気なエロスを感じる。それは、僕がクィーン(UKの伝説的ロックバンド)の作品についても思うことだ。

エロスとタナトスを等価に扱うバンド"神聖かまってちゃん"は巷で言われているように、今にも死にそうな0の元気の人を、生きていたいと思える1まで持ち上げていける稀有なバンドだ。一方、マカえんは普通に活力がない10の元気の人を100の元気全開まで持ち上げるエナジーがあり、こちらも貴重なバンドだと思う。



驚きのアカペラから始まるアルバムタイトルの#1「ハッピーエンドへの期待は」から続くノンストップの楽しくほろ苦い音楽紀行。フロントマンである"はっとり"の名前の由来であるユニコーン(『服部』という名前のアルバムを出している)の音楽性のようなハチャメチャでポップな曲展開に魅力を感じる。

アルバム&EP初収録曲で印象に残った曲でいうと、#9「裸の旅人」からの終盤の曲が良かった。「裸の旅人」 はR&Bテイストの楽曲で、きのこ帝国の「クロノスタシス」を僕に彷彿とさせた。「クロノスタシス」は僕にとって大切な曲で、「裸の旅人」の心地よいグルーヴ感は「クロノスタシス」に次ぐものだった。



#10「TONTTU」は、サウナをテーマとし、イントロ中盤からハードロック〜メタル感を覚えるサウンドの異色作。ボーカルや曲中セリフに演劇的要素がある。少しマキシマムザホルモン味を感じてみたり…。

#11「ワルツのレター」は長谷川大喜(Key・Cho)作曲の楽曲。ワルツと題されているが、ワルツ(3拍子)ではなく、4拍子の曲だ。ヒップホップの一ジャンルであるトラップを思わせるイントロを経て、めくるめくポップ万華鏡な世界がプログレッシブに展開する。

#12「なんでもないよ、」はとても優しい歌。流行曲である優里の「ドライフラワー」を思い出した。「なんでもないよ、」で描かれる主人公の思いはエゴイスティックだけど、エゴゆえの愛もあるのだなと僕は気づいた。というより、全ての愛はエゴと共にあるものなのかもしれない。そして、曲名最後の「、」(読点)の宙ぶらりんは、次曲の#13「僕らが強く。」の「。」(句点)の決意に回収されていく。



ヒットチャートに並ぶ若手アーティストの中で、音楽のクリエイティビティ(独創力)という点では、マカえんに比肩する者はそうそういないだろう(他はKing Gnuやヒゲダンか?)。これからも可憐にエモーショナルな良曲をリスナーに届けてほしい。

Score 8.1/10.0

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