GEZAN & Million Wish Collective『あのち』感想&レビュー【傑作!】 | とかげ日記

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●鋭い真剣と尖った真心

ベーシスト脱退後に新メンバーを加えたGEZANの4人。トロンボーン+パーカッション+総勢15名のコーラス隊"Million Wish Collective"と共に真率に命と愛に向かい合った傑作です。なお、Collective(コレクティブ)とはアーティスト集団のことを指します(映像など音楽以外のジャンルのクリエイターが参加することもあります)。King Gnu の常田大希さんによる音楽プロジェクト"millennium parade"がコレクティブとして有名ですね。

たくさんの音源がひと月に公開されているが、客観的にどんなに優れていても、自分にとって何かしらの意味を持つであろう音楽しか僕はレビューしていない。その点、本作『あのち』は自分にとって素晴らしく示唆のあるアルバムだった。



本作収録の曲名(#10「Third Summer of Love」)に掛けて言うならば、ファースト・サマー・オブ・ラブのヒッピーやセカンド・サマー・オブ・ラブのレイヴカルチャーのような、しがらみから離れた圧倒的な自由がGEZANにはある。自由な視点と視野を持つフロントマンのマヒトゥ・ザ・ピーポーは僕らには見えない景色が見える天才だ。

シリアスな現状認識のもとに優しさはどこまで尖れるかという思想の達成をしている。僕も彼らのメッセージに共鳴する。(真摯に活動している方もいるのに、政治家をひとくくりにして"嫌い"と歌うマヒトゥさんのセンスには疑問があるが、アナーキーなGEZANの価値観がよく出ていると思う。)

エスニックだったり、フリージャズだったり、呪術的であったり、GEZANだからこその様々な音楽的アイデアを高水準で形にしている。また、語りやSEも入っていたり、物語めいて聴こえるのは、七尾旅人のアルバム『911FANTASITA』を僕に想起させた。そして、流行歌や流行り言葉のパロディを歌詞に埋め込んでいるのは一種のシュールさ(≒GEZAN的な枯れたユーモア)とアクチュアルさ(≒現実に当面しているさま)を醸し出している。

名曲#7 「萃点」(すいてん)の曲名はネット辞書によると、「さまざまな物や事柄があつまる場所」という意味らしい。この作品の製作者の名義にクレジットされているMillion Wish Collectiveも考え方的に翠点と近い。そう、様々なアイデアと可能性がこの一枚には詰まっている。



彼らの前作に『狂(KLUE)』というアルバムがあるが、常軌を逸するほど突き詰めて考えた結果の狂気は本作にも宿っている。そこに人間としての臨界点の表現を見た思いがした。命、共同体(コレクティブ)、社会の根源に対峙し、ジョン・レノンのようにイマジンを主張するGEZANの姿勢は銀色にさりげなく熱い輝きを放っている。

レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンをさらに極端にしたようなアグレッシブな姿勢や、神聖かまってちゃんのカオスで地獄的な側面をさらに掻き回してねじ曲げたようなGEZANの表現に対して忌避感を覚える方もいるかもしれない。だが、僕は音楽に温度を求めているので、GEZANの熱い表現にも涼しい表現にも琴線を風が吹き抜ける刹那のような訴求力を感じる。

また、圧が強くハードコアな前作『狂(KLUE)』よりも本作は聴きやすいと思う。(それでも、本作も充分にハードコアだが。)この理由は、アルバムの要所に#7「萃点」、#10「Third Summer of Love」、#2「JUST LOVE」というフツウに歌ものとしても傑作な曲を配しているからだというのも一つあると思う。

#12「JUST LOVE」での万華鏡のような異次元的めくるめく音楽絵巻から、最後の曲#13「リンダリリンダ」で一気にチルアウトする感じ。サウナの後の水風呂のようにエンドルフィン(快楽物質)の放出が止まらない…! 「いのち」の前にある「あのち」を鳴らすGEZANの霊性に惜しみなき万感の拍手を贈りたい。



Score 8.6/10.0

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