リーガルリリー『Cとし生けるもの』感想&レビュー【命を鳴らすロックバンド】 | とかげ日記

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●命を鳴らすロックバンド

リーガルリリー、約2年ぶりのメジャー2ndアルバム。(2022年1月発表。)

リーガルリリーの3人は革命的なロックミュージシャンだ。少し不思議(Sukoshi Fushigi)な歌詞をオルタナティブ由来のバンドサウンドに乗せて柔らかな歌声で歌う。そこにはギターロックの愉悦があり、演奏のダイナミズムの強弱には天才的な冴えがある。

Vo.のたかはしほのかさんは「ファンタジーは素面(シラフ)です」(#6「東京」)と歌っている。ファンタジーを素面で語れるほど、彼女たちの音楽はファンタジーと地続きになっている。ファンタジーではなく日常を歌った歌詞だとしても、たかはしさんの歌声には魅力的な浮遊感があり、ファンタジー感を覚えるのだ。このファンタジー感と感情の粒度は唯一無二だと思う。

また、たかはしさんは"の子"(神聖かまってちゃん)、笹口騒音(うみのてetc)、杉本たくま(ダニーバグ)と並ぶ今世の天才詩人だと思う。ところで、村上春樹『1Q84』の編集者の小松じゃないけど、小説において"特別な何か"、つまり"読み切れないもの"って大事だよね。読者には読んで理解し切れないけど、豊かな意味がそこに含まれていると分かる文章。文化芸術でも大事だと僕は思っていて、その点で言うとリーガルリリーの曲は"読み切れないもの"と"味わい深さ"があるだろう。

リーガルリリーのインディーズ時代の名曲「リッケンバッカー」。この歌の切実な訴求力に僕は完敗した。そして、彼女たちの活動を追う時に、「リッケンバッカー」のような曲や、「リッケンバッカー」を超えるような曲を発表するか、常にこの曲が頭にあった。そして、このような曲は今まで産まれなかった。

しかし、今作はそのようなことは気にならなくなった。前作までと何が違うのだろう? それは、ドアの外への引力を感じる外向きの歌になったからという説明もできるだろう。ただ、僕の個人的な視点では、歌の焦点が合ってきたからだと思う。曲の要所でシンプルでキャッチーにしたり、着地せずに尖ったメロディやコードを用いたり、そのバランスが素晴らしい。すっきりと一本の糸で歌が貫かれ、僕たちも彼女たちの演奏をするっと聴けるのだ。

アルバムタイトル『Cとし生けるもの』の意味について、リーガルリリーのメンバーは次のように語っている。
「“C”は炭素を示しているんですけど、他の元素とのつながり、かかわり方によって、黒鉛にもなるし、ダイヤモンドにもなるんです。その落差が人間っぽいと思うし、黒鉛にもダイヤモンドにもそれぞれの光り方があるんじゃないかなって。私たちはそうやって生きているから、炭素の“C”と“生きとし生けるもの”を合わせてタイトルにしました。(リーガルリリーのBa.海)」
(https://okmusic.jp/news/456287)

本作でも歌詞に描かれた様々なシチュエーションを各曲で表現している。そして、全ての原点にあるのは、「C」、つまりはリーガルリリーの魂だ。Cは歌詞のテーマに合わせて素敵に化学反応し、個性的な曲を産んでいる。また、各曲にモデルとするバンドがいるのだろう。(#7「きれいなおと」のイントロはまんまオアシスだし。)そのバンドとの化学反応も音楽に深みを与えている。

では、長文になってしまうので、MVがアップされている曲に絞って短めに感想を書いていこう。

#1「たたかわないらいおん」。言葉あるいは現実の銃弾が飛び交うリアル/ネット の世界でたたかわない者としての信念を持つ「君」を描くが、その信念に惚(ほ)れる。「メッセージ信じて」という歌詞のリフレインが、僕を切なく勇気づける。



#3「惑星トラッシュ」は、イントロや間奏のギターの単音弾きに中毒性がある。こういうベタだけど、キャッチーなギターの音色は他のバンドも使ってほしい。そして、歌メロと歌詞が相まり、惑星で君と繋がっていたかったという疾走するロマンティシズムが切実に胸を打つ。



#8「風に届け」はまさに風のような疾走感がある曲。この速さのBPMで「涙が出そうだ」という歌詞をサビで歌えるのは、リーガルリリーならでは。



#11「アルケミラ」。この曲を聴いて、彼女たちをライブハウスで観たくなった。この轟音とリバーブの残響はライブハウスで聴いたら格別に気持ち良いだろうなと思わずにはいられない。そして、また"うみのて"と対バンしてほしい。以前のうみのてとの対バンは都合が合わなくて行けなかった。リーガルリリーとうみのての音楽が描きたいもの/描いているもの を僕はどこまでも信じている。



この新譜を指して「ガールズバンドの矜持を感じる」といったレビューを見かけた。だが、僕はそんな矜持はこれっぽちも感じなかった。それよりは、あえて言うのならば、「一つの生命としての矜持」を感じる。グルーヴィーでタイトな海さんのベースと、アタックが豊かなゆきやまさんのドラムが世界を作り、たかはしさんのギターボーカルはその世界の中で彼女の命を鳴らしている。

Score 9.0/10.0

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